第12話終結、そして・・・・

そこからはあまり記憶になかった。

兎に角魔法を使い、剣を振るい、言葉通り死ぬ物狂いで戦った。

しかしいくら切っても、燃やしても、凍らせても、魔物の数が減ることはなかった。


「・・・てめぇ俺を無視してんじゃねぇ!!」


教会の扉にぶつかっていた牛のようなものに俺は炎の矢を叩き込む。

魔物はそのまま勢い良く燃え周りの数匹を巻き込んでいく。

だが俺はそんな奴の結末など見ることもなくすぐに近くを通りかかってきたゴブリンの首を跳ねる。

それに怒った数匹のゴブリンがこちらに向かってきたが俺は足から魔力を出し素早くゴブリン達の首を跳ねていく。

・・・これで一体何体の魔物を切り裂いただろう・・・。


「・・・が!?・・・くそが!!」


一瞬油断した隙に背中から牛に突進され押しつぶされそうになり、俺は転がりながら牛の下に滑り込み腹を切り裂いていく。

そのまま牛を通り過ぎ、起き上がってからすぐ目の前にいたオークに向かっていく。

オークは大きな巨体でこん棒を振りかざすが、その動きは遅く、俺は躱しながら両足を切り裂き相手が膝をついたところで肩に飛び乗る。


「・・・死ねよ。」


鋭い勢いでオークの首元に剣を振りかざしオークの首は地上まで落下する。

俺の魔力はもう残り少なかった。

始めの混合特級魔法に治療続きだった俺は最早初級魔法さえ使う事をためらってしまうほどしか残っていなかった。

魔力が尽きると体は動かなくなり気を失ってしまう。

俺は何とか「身体強化魔法」だけで戦おうとするが、だんだん体の動きが鈍くなってきて、何度も魔物の攻撃を受けて家の壁まで叩きつけられている。


・・・もうあまり持たないな・・・。

俺の体はもう動かず、魔力も底をつき、ただの9歳児の力しか残されてはいなかった。


「・・・あーあ・・・。でもいい人生だったな・・・。」


今回の人生は短かった。

でもいい人生だとはっきり言える人生だった。

素晴らしい家族に出会えた。

兄貴と思えるケイトにも出会えた。

恋もした。

・・・そう言えば俺プロポーズされたんだっけ・・・。


気づけば俺は笑っていた。

まぁこのまま死ぬのも悪くない。

前世ではできなかったこと、なかったものが手に入ったんだ・・・。

十分じゃないか。


「・・・お兄ちゃん!!」

「ミア!!待ちなさい!!」


教会の扉が開いたと思ったらミアがこちらに駆けてきて、ノアがそれを追いかけていた。


「・・・くそ、なんで来た・・・!?」


俺に鉄でできた汚い件を振りかざしたゴブリンの攻撃を何とか横に転がりながらよけ、ミアの元に駆け寄り抱きしめる。


「・・・馬鹿野郎。なんで来た・・・。」

「だって、お兄ちゃんが・・・。お兄ちゃんが・・・。」


俺達はすでに魔物に囲まれてしまっていた。

・・・ミアだけでもどうにか・・・。


「・・・すまんの二人とも、儂のせいで・・・。」


魔物の間から「身体強化魔法」を使い素早く駆けつけてきたノアは俺の後頭部を殴り、俺たちを担ぐ。

そのまま魔物の隙間を縫って進み、俺の家の裏庭にある地下室に俺たちを押し込む。


「・・・の・・・あ・・・。ど・・・うし・・・て・・・。」

「・・・ここでじっとしてなさい。ここなら安全じゃろう・・・。儂はもう魔力が残っておらぬからな。ここでお別れじゃ。・・・いいか、チャールズ。前にも言ったがこの世界では目に見える事だけがすべてではない。それは人も同じじゃ。一遍から見ただけじゃその人の事をちゃんと理解したとは言えぬ。・・・学びなさい。沢山の物を見てきなさい。多くの人はその道中で勝手に挫折する。自分を信じなさい。答えはいつも自分の中にあるものじゃ。そうすれば人生は明るいものとなるだろう・・・。」


俺はそんなノアの言葉を聞きながら気を失ってしまった・・・。


それから一体どれくらいの時間が経っただろう・・・。


俺は意識がもうろうとしながら何度も起きては気を失いを繰り返していた。


それからしばらくした後物音で俺は起きた。


「・・・父さんと母さんが・・・。私いかなきゃ・・・。」

「・・・み・・あ・・・。駄目だ・・・。」


扉が閉まる音が聞こえミアが地下室から出ていったのが聞こえた。

だが俺はどうすることもできなった。


・・・遠くで何かの物音が聞こえる。


きっと外の近くにはまだ魔物がいるのだろう・・・。


俺はそんな事を考えながらまた気を失ってしまった・・・。


・・・しばらくして、いや、どれほど時間が経ったか分からないが俺は目が覚め自分の状況をすぐに思い出す。

魔力も大分回復した所を見るとかなりの時間が経ったことだろう。


「・・・ミア、母さん、父さん・・・。」


俺は地下室からそっと扉を開けて抜け出す。

扉を出るとすぐ近くでゴブリンが2匹腹を膨らませて寝ていた。


・・・間抜けだな、なんて考えていると、そのゴブリンの隣に可愛らしいクマのぬいぐるみが落ちていることに気づく。


そしてその周りには可愛らしい小さな女の子の服もビリビリに破られて落ちていた。


・・・誰かが叫んでいる。


その声が自分のものだと気づいた時、俺は全てを悟った。


俺は全てを失ったのだと・・・。


俺は気が付けばゴブリンを何度も斬りつけていた。


ゴブリンの腹から血だらけの小さな手がぽとりと落ちる。


俺はそれを拾い、何度も叫び泣いた。


見間違うはずがない。


それはミアの手だった・・・。


それから俺は街を歩き回った。


だがそこには人影はおらず魔物がちらほらいるだけだった。


俺は魔物を見かけるたびに滅多斬りにした。


だがいくら歩いても誰もいなくて、いくら魔物を斬ったところで気が晴れることはなかった。


気が付けば俺は教会の中に入り地下室に足を運んだ。


・・・誰かに会いたくて、誰かに嘘だといってほしくて・・・。


地下室を開けるとそこは一面血の海と化していた。


魔物はどうやら地下室にまで入り込み皆を食らったようだ。


俺は思わず膝をつき体から力が抜ける・・・。


「・・・そうだ、父さん、母さん・・・。」


急いで落ちた剣を拾い北門まで走っていく。


そこにはおびただしいほどの魔物の死体と所々に冒険者の死体が転がっていた。


息を止めたくなるほどの血の匂いが漂う中俺は父さんと母さんを探した。


1時間はそのままふらふら探していただろう。


時々死体で足を取られ、流れた血で滑り転がりながら探し続けた先に、一本の剣と杖が落ちていた。


「・・・うぁああああああ!!」


その剣と杖の隣に手が繋がれた日本の腕だけが残っていた。


それは紛れもなく父さんと母さんの剣と杖で、その手は恐らく最後に手を繋いでいたであろう両親の腕だった。


「・・・くそ・・・。くそ・・・。何で・・・!!・・・何で!!!!」


俺は二人の手を握りしめその場にうずくまってしまう。


・・・もう動きたくない。


・・・もう動けない・・・。


そんな時ふとビビの顔が脳裏をかすめた。


「・・・そうだ、ビビ、‥伯爵・・・、ケイト・・・!!」


俺は父さんと母さんの剣と杖を魔法の袋にしまい込み急いで伯爵邸を目指す。


・・・彼らならここから1時間ほど離れた所にいる。


きっと・・・、きっと・・・!!!


だが俺のそんなちっぽけな望みすら叶わなかった。


伯爵邸の周りにもおびただしい程の魔物の死体と、所々に騎士の死体もあった。


「・・・ケイト・・・!!」


ケイトの死体はすぐに見つかった。


門のすぐそばで体が引き裂かれた状態でそこに寝ていた。


恐らく最後までここで戦っていたのだろう・・・。


俺は急いで屋敷の中に入りビビ達を探す。


いたるところに顔なじみのメイドの死体があり・・・そしてビビの死体を見つけた。


恐らく最後まで震えていたのだろう。


顔に泣いた跡があるビビの死体は彼女の部屋の隅に横たわっていた・・・。


「・・・誰か・・・いるのか・・・?」


近くの部屋からそんな声が聞こえ俺は急いで駆けつけると、血だらけになった伯爵が剣を片手に座っていた。


「・・・伯爵!!」

「おお、・・・チャールズ・・・。無事でよかった・・・。すまない・・・ビビは・・・。」

「分かっています。分かっていますから!!」


俺は急いで傷を治すが、何故この状態でも生きているか不思議なほど伯爵は傷ついていた。

・・・これは最早間に合わないだろう・・・。

だが俺は諦めることが出来ず必死に直すが、その手を伯爵が掴み止める。


「・・・もういい・・・もう助からん・・・。」

「・・・そんな!!そんなことはない!!」

「チャールズ!!聞いてくれ・・・これを・・・。必ず・・・、信頼ある者へ・・・。最早誰が味方かはわからな・・・い・・・。」


伯爵はそう言い一つの皮の袋を俺に手渡すと同時に力尽きてしまった・・・。


それは魔法の袋で、調べてみると中には書類がたくさん入っていた。


「・・・これは!!??」


それを何となく見ていると一枚の計画書に目が留まる。


そこには「スタンピート計画・・・企画者国王。」と書いてある書類を見つけた。


「まさか・・・、これが・・・国王の計画によって・・・?」


その日、俺の誕生日の日、アニの街は消滅、パランケ伯爵や、他三つの街を巻き込む大きなスタンピートが起き、俺は全てを失ったのだった・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る