第11話スタンピート

「・・・嘘だろ・・・なんだこれ・・・。」


黒、黒、黒、黒・・・。

見渡す限りの黒い影。

それがこの「アニ」の街に迫ってきていた。

・・・あれが全部魔物・・・?

どうやってあんなのと戦うんだ・・・?

俺は北門の城壁の上から下を見下ろすと3000人ほどの冒険者たちがすでに武器を構えてその時を待っていた。

この街はそれほど大きくはないが、あの大群に対してこれしか集まらなかったのかと腹が立ってくる。

恐らく残りは逃げたのだろう・・・。


魔物の群れは素早く街に近づいてくる。

そんな時数名の冒険者が先頭に立ち大声で何かを叫んでいる。

その中には母さんもいた・・・。

次の瞬間突然一つの炎の竜巻が発生し、その横にもいくつかの竜巻が発生、モンスターたちに向かっていった。

炎の竜巻は母さんだろう。

魔法は魔物たちを飲み込んでいき、恐らく500は超える数の魔物を殺しただろう。

だがそれでも魔物の数は減った気がせず一番後方がどこかなのさえ分からない・・・。


俺はいても経って居れず、城壁から駆け下り下に行く。

その中に父さんとジェニスをすぐに見つけることが出来た。


「・・・父さん!!俺も戦うよ!!」

「!?チャールズ!!なんで来た!?」

「いや!アントニー!!彼は特級魔法が使えるのだろう!?今は手伝ってもらうほかないぞ!?」

「・・・くそ!!チャールズ!!母さんのところに行け!一番前にいる!!・・・あと後で説教だ。」

「説教ならいくらでも聞くよ!!母さんの所に行くね!!」


俺は父さんと短い話を終えた後、また新たな炎の竜巻が発生した所に駆けつける。


「・・・母さん!!」

「チャールズ!?・・・来てしまったのね・・・。あの人とは会った?」

「うん!!あとで説教だって!!」

「そうね。私もさせてもらうわ。そしてそのあとに楽しい誕生日会を再開しましょう。・・・でも今は、わかるわね?」

「もちろん!!」


俺は母さんの隣に並び、手を黒い塊に向け唱える。


「・・・「ファイヤートルネード」!!」


俺は三つの炎の竜巻を出現させ魔物の群れに向け発射する。


「・・・チャールズ、あなた・・・。いや!よくやったわ!!」


俺の後ろからも驚きの声が聞こえるが俺は無視する。

炎の竜巻は火の上級魔法と風の特級魔法の混合魔法だ。

それを同時に三つも出した俺は全神経を注いで集中しなければ魔法が解けてしまう。


「・・・いっけぇぇぇ!!」


思わず叫び、竜巻はうまく魔物の大群に入っていき魔物の群れを次々と巻き込んでいく。

・・・が、それでも最後尾がまだ見えない状況だ。

・・・一体何体いるんだ・・・。


「魔導士は下がれ!!あとは我々の番だ!!魔導士は後方からの支援を頼む!!」


ギルドマスターのジルの声に従い俺たちは急いで後方に回る。


「・・・冒険者たちよ!!今こそ俺たちの力を発揮する時だ!!この街には俺たちの家族が、友が、俺たちの全てがある!死んでも守れ!!俺たちには女神フィリア様が付いている!!」

「「「「「おお!!」」」」」」


ジルの激励の後男たちは一斉に魔物に突っ込んでいく。

その中でも父さんとジルは速く、一瞬で魔物に攻撃を開始していた。


「・・・すげぇ・・・。」


父さんとジルの周りの魔物は次々に吹き飛んでいき、まるでダンプカーが魔物に突っ込んでいったような感覚を覚えた。

もうあの二人だけで十分なんじゃないか?と思ったがそれでも魔物の数は減らずにこちらに押し寄せてくる。


「チャールズ!!貴方の光魔法は重要なもの、ここで魔力を使い切ることは今戦ってる人たちが後で困る結果になる。貴方は戻りなさい。」

「・・・でも!!」

「でもじゃない!!母さんのいう事を聞きなさい!!・・・貴方はよくやってくれたわ。でもね、怪我をした人たちを直すのも立派に戦うってことなの。いいわね?」


俺は言い返そうとしたが、母さんが言うことも一理ある。

「・・・わかった。絶対帰ってきてね?」とだけ言い残し俺は城壁の中に戻り門を締め切った。

母さんから最後「ごめんね?」と言っていたのは聞こえないふりをして・・・。


「・・・どうじゃった?」


俺はノアの元に戻り、患者が運ばれてくるのを待つことになった。


「・・・魔物の数が多すぎる。・・・軽く数万はいるよ・・・。あんなのどうやって・・・。」

「・・・そうか・・・。」


遠くからは魔物の声や、戦っている者たちの声が聞こえてくる。

・・・俺はなんでまだ子供なんだ・・・。

こんなにも戦えるのに、何もできない・・・。

それが悔しくて悔しくてたまらなかった・・・。


「・・・チャールズよ。気休めにしかならんが、家族を、皆を信じろ。それしか今儂らにできることはない。」

「・・・うん。」


外とは違い、ここでは変に静かに感じ、時が止まっている様だった。

いつもの賑わっているこの時間に街には誰も歩いておらず、人影さえ見られなかった。

この街の城壁は四方に4カ所あるが全て締め切られている。

・・・父さんたちは無事だろうか・・・、それだけが何度も頭の中で渦巻いている。


「・・・くれ!!こいつを早く治療してくれ!!」


そんな時一人の男が男を担いで走ってきた。

おそこは肩を噛まれたのか、欠損していて足も一本なかった。


「チャールズは魔力を温存しておきなさい。ここは儂が・・・。」


ノアはそう言うと詠唱破毀をして素早く治療を開始する。

この世界の人間は魔力があるからか、簡単には死なない。

それどころか寿命も長い。

魔力が多いものほど長生きし、最高では190歳くらい生きた人もいるそうだ。


「おい!!こっちも治してくれ!!」

「こっちもだ!!」


そんなことを考えていると次々に患者が運ばれてくる。

彼らは血だらけで、見るに堪えないほどの怪我をしているのにも関わらず、何故か皆治ると「くそ!!あの魔物め!今度こそ返り討ちにしてやる!!」と意気揚々と剣を振り回し戦場に戻っていく。

・・・どうしてそんなになりながら皆戦えるんだよ・・・。


「ふふ。そんな顔しちゃだめよ?皆この街の為に戦ってるの。大事な物の為にね。」

「ジェニス・・・?父さん!!」


父さんがジェニスに肩を借りながら歩き、そしてその姿は血まみれだった。


「・・・心配すんな。これのほとんどは魔物の血だ。」

「全く。アントニーはリリーが心配でよそ見しながら戦ってたのよ?アホとしか言いようがないわ。」


俺は父さんに「クリーン」の魔法をかけてから傷口を見ると脇腹に魔物がかみついた跡があり、少し無くなっていた。


「すぐに直すからしゃべらないで・・・。「エクストラヒール」・・・。」

「・・・おお・・・。」

「・・・これはすごい・・・。」


父さんの傷がみるみる治っていき、他にあった切り傷なども一緒に治った。


「・・・さて、じゃあそろそろ行くか。ありがとうチャールズ。やっぱりお前は自慢の息子だよ。」

「全くだよ。あんたに似てるのは顔だけだね。いや、顔もほとんどリリーの方か。」

「おい!口とか鼻とかは俺似だろ!!目は・・・まぁリリーだが・・・。ん?どうしたチャールズ?」

「・・・父さん・・・いかないで・・・?」


俺はなんだか嫌な予感がして父さんの裾を引っ張る。

精神年齢20歳にもなってみっともないとも思ったが、どうしてももう二度と父さんと会えないという予感が頭から離れなかった。

そんな俺を安心させるためか父さんは俺の頭をガシガシ撫でると優しい声で慰めてくれた。


「・・・いいかチャールズ。気持ちは分かるしありがたいよ。ありがとう。でもな、男にはやらなきゃいけない時があるんだよ・・・。」

「・・・わかるよ・・・。でも分かりたくない・・・。」

「ったく・・・。お前は頭がいいからな。大体の事は分かってしまうのかもな。じゃあお前にとって今大事なのはなんだ?」

「・・・父さんに、母さん・・・。それにミア・・・。」

「・・・だろ?父さんも同じさ。家族が一番大事だ。だから戦うし、戦えるのさ。男なら一度守ると決めたものに命を懸けられなくてどうする。」


父さんはそう言うと俺の頭から手を離す。


「・・・いいかチャールズ。お前は好きに生きればいい。お前には無限の可能性がある。色々なことを沢山経験して、沢山失敗して、沢山学んで生きろ。そしていつも自分の心に正直にいろ。それが人生を楽しむ一番の近道だ。そして守りたいものが出来たら死んでも守れ。・・・あ、それといい女がいたら絶対に逃がすなよ?リリーみたいなな。」


そう言い残すとジェニスと共に走って行ってしまった。

・・・俺はこの時の光景を死ぬまで忘れなかった。

この時父さんを止められたらどれだけ良かっただろう・・・。

でもきっと何度この時をやり直したところで、父さんのあの大きな背中を止めることはできなかっただろう。

俺は伸ばした手でただ何もない空間を掴むことしかできなかった・・・。


それから俺とノアは忙しく何度も運ばれてくる患者を直すことに専念した。

少しでも父さんと母さんの力になれるように、そう願いながら・・・。


すると突然左右から大きな音が鳴り、西門と東門から魔物が一気に流れ込んできた。


「・・・なん・・・じゃと・・・?」


魔物の群れは北門を突破できないと悟り、別の入り口を破壊して入ってきたのだろう。

いよいよここもまで魔物が来るのも時間の問題だろう・・・。


「・・・ノア、あとはお願いね・・・。」

「チャールズ・・・!・・・済まぬ、任せてよいか?」

「・・・もちろん。」


正直俺はここで死ぬ覚悟ができていた。

・・・どうせ一度死んだ人生なんだ。

少しでも幸せな家族と出会えただけで幸運だったと言えるだろう。


大通りの左右を見るとすでに魔物はすぐそこまで迫ってきていた。

この先にはミアが、ノアが、町の子供たちがいる。

ノアはこちらにすまなそうな顔をしながら教会の扉を閉めた。

・・・それでいい、謝る事なんて何一つないよノア。


「・・・父さん守りたいものならもうできてるよ。俺にとって今の家族以上のものなんてこの世界にすらないよ・・・。」


ゆっくりと水色に光る綺麗な剣を抜き、俺はそう呟く。


「すー・・・。ふー・・・。さ、来いよ。」


俺は魔物の群れに向かって剣を振りかざした・・・。

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