第7話伯爵邸と

俺は6歳になり、ミアは3歳になった。

ミアは少しずつ言葉を話せるようになり、最近では「お兄たん」なんて呼んでくれるようになった。

それに俺たちは感動し、何度もミアを抱きしめていた。

母さんのことも「お母たん」と呼ぶようになり母さんは大喜び、父さんの事だけは何故か「アントニー」と名前で呼ぶようになり、父さんは複雑そうな顔をしていた。

俺の剣の腕も魔法の腕も中級になったが、どうやらここまでは誰でもなれるようだ。

そしてここから上級、特級にはなれる人となれない人が出てきて、冒険者や、騎士を目指す人たちはここで大きく人生が変わるそうだ。

俺は相変わらずノアの手伝いもしていて、ノアは時間が空いたら俺に魔法を教えてくれるようになった。

兎に角俺は毎日が楽しかった。


「じゃあ行ってきます!!」

「チャールズ、気を付けてね!」

「お兄たん、いってらたい。」


母さんと家の天使に見送られ今日も俺は協会に向かうことになった。

俺は最近では家族を本当の家族のように思える様になってきた。1年前のフィリアのアドバイス通り遠慮することをやめたことが大きいのかもしれない。

でも母さんたちはそんな俺をすんなり受け入れてくれて、むしろ「最近はより元気になって可愛い」なんてよく頭を撫でられるくらいだ。

そんな事を考えて協会まで走っていると、いきなり「危ない!」と大きな声が聞こえ、俺は反射的に後ろに飛んだ。

大きな音と共に大通りの曲がり角から馬車が倒れこんできたようだ。


「大丈夫か!?」

「中には何人乗ってる!?」

「おい!!誰かノアを呼んで来い!!」


周りの人たちが様々叫び騒いでいる中、馬車の荷台から一人の少女が這いつくばりら出てきた。

少女は俺と同い年か、少し上くらいだろう。

綺麗な服装をしていて、髪の毛も綺麗なドリルのようになっており、金髪だ。

地球にいたら絶対モデルになるだろうなぁ、とみていたが、どうやら彼女の腕はこ骨折しているようだ。


「・・・どなたか・・・。父が・・・父が・・・。」


そんなことをつぶやく彼女に俺は反射的に近づき、いつものように治療を施す。


「・・・少し痛いかもしれないが我慢してくれ。「ミドルヒール」・・・。」


彼女の曲がった腕がみるみる元に戻っていき、彼女は痛みで顔をしかめていたが、10秒もしないうちに彼女の腕は元に戻っていった。


「・・・貴方、光魔法が使えるのね。どうか、どうか父を助けて!」


腕が治った彼女はすぐに俺の腕を引っ張り馬車の荷台の中に連れていく。

中に入るとどうやら馬車の倒れた時に折れた木の柵がこの子の父親の腹に刺さってしまっていたようだ。

辺りは真っ赤に染まり、このままでは命の危険があり、ノアを待っている暇はないいようだ。


「ねえ、早く父さんを助けて!!・・・お願いだから・・・。」


彼女は父さんが助からないと思っているのかもしれない。

そう思ってしまう程彼の傷は酷く、彼女はすすり泣きら俺にしがみついてきた。

・・・地球なら彼はもう助からないだろう。

・・・だがここは「アース」で俺には魔法がある。


「・・・大丈夫だから、彼は助かるよ。だからその手を話しておくれ・・・。」


俺はゆっくり彼女から離れると、彼に近寄り「しっかりしてください。少し痛いかもしれませんが・・・。」と言うと、彼の腹に刺さった木の棒を引っこ抜き上級魔法を唱える。


「・・・「ハイヒール」・・・。」


彼の傷はみるみる閉じていき、彼の顔色もだんだんと戻っていった・・・。


「・・・あれ?私は・・・生きているのか?」

「・・・お父さん!!」


自分が生きていることに驚いた彼に彼女は抱き着き大声で泣いている。

俺はこっそり練習していた上級魔法が上手く行ったことに安堵しながら、二人の微笑ましい様子を眺めていた。


「・・・患者はどこじゃ!?」


後ろから知った声が聞こえたと思ったら、ノアが息を切らして走ってきた。


「・・・おお、ノア、久しいな。どうやら俺はこのお嬢さんに助けられたみたいだ。」

「ん?チャールズか。そうか・・・。お前さん運が良かったな。このチャールズは儂の弟子じゃよ。そしてこの子は男の子じゃ。」

「なんと!?・・・そうかノアの弟子だったか。俺はどうやら運のいい男のようだ。・・・チャールズ君。君のおかげで命拾いしたよ。それに娘も助けてもらったようで。ありがとう。」


ノアと男性はどうやら知り合いのようで、そのあと周りのみんなが馬や馬車を起き上がらせ、再び走れる状態にしてくれた。


「チャールズ君。良かったからこのまま私の屋敷に来ないか?」

「え?・・・でも今日は・・・。」

「いや、いっておいで。1日くらい休んでもばちは当たらんて、リリーたちには儂から話しておこう。」


俺はあんまり知らない人に着いていきたくなかったが、どうやら断れないような雰囲気になってしまい、仕方なく馬車に乗り込み出発する。

道中は気まずく、そして何故か彼女は俺にべったりくっついて隣に座っていた。

俺が助けを求める顔で父親を見ると、何故か彼は微笑ましいものを見る目で俺たちを見ていた。

・・・このおっさん助けなきゃよかったかな、と思ってしまった出来事だった。


いつの間にか街から出て、しばらく走ると自然の中に大きなお家が見えてきた。

・・・いや、家というか最早城に近いかもしれない。

この人達はいったい何者なんだ・・・?


大きな門をくぐって広い庭を抜けると、ようやく建物の玄関へたどり着く。


「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様。」

「うむ。今帰ったぞ。」


玄関に入ると、なんと両サイドにメイドが5人ずつ並んで僕らを出迎えてくれた。

俺はあまりの出来事に口を大きく開けて固まってしまい、それをみた彼は大声で笑っている。

そして俺は広い客間に案内される。


「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は「アニ」の街やこの辺を管理しているパランケ伯爵だ。そしてこの子がビビ家の3姉妹の一番下だ。今日は助けてくれてありがとう。正直死を覚悟したよ。」

「ちょっとお父さん!死なんて言わないで!!あ・・・、わ、私はビビよ。助けてくれてありがとうチャールズ。」


二人は優雅にお辞儀をし、さすが伯爵家の人間だと言わんばかりの気品差を感じさせた。

俺も真似してぎこちなくお辞儀をしたが二人にそれを見てクスクス笑われてしまった。


「ふふ、すまない。あまりにぎこちなくてな。いいかい?この国の作法では右手を左胸に着けお辞儀をするのだ。正式には左ひざをつきながら、だがな。これには「自分の心臓をあなたに捧げます。」と言う意味があるのだ。基本的に目上の人間にやるものだがな。」

「そうね。でも「私の心臓」なんて考え方今では古くなってしまって意味は関係なく形だけの形式になってるみたいだけどね!」


その後俺は二人から何故か貴族の作法や話を聞かせてもらった。

その代わりに俺は家の話や魔法について色々話をした。


「・・・なるほど・・・。その年で中級剣術に上級魔法か・・・。末恐ろしいな・・・。」

「凄いわ!!さすがチャールズ!!私の目に狂いはないわね!!」

「わっはっは!そうだな。それに作法も呑み込みが良かった。頭のいい子なのだろう・・・。それでどうかね?ビビは。まだ8歳だが可愛らしいだろ?」

「・・・?はい・・・えっと・・・。」

「ちょっとお父さん!!まだそう言う話は早いわよ!!」

「わっはっは!!まぁそうだな。だがこんないい男は早くしないとどんどん他に取られてしまうぞ?」

「・・・わかってるわよ・・・。」


何故かビビは顔を赤らめて俯いてしまった。

俺は女性の考えが昔からよく分からなかった為、二人が何の話をしているのか全くわからなかった。


「そうだ。君の本気の実力を見せてくれないか?無詠唱と言うのも私は見たことないんだ。どうかね?」

「・・・えっと、はい。大丈夫ですが・・・。」

「そうか!!なら地下の訓練場に行こう。そこなら結界もはってあるしある程度魔法を使っても大丈夫だからな!!」


俺は半ば強引に手を引かれ地下の訓練場に連れていかれ、そこには数人の兵士が剣を振るい訓練をしている最中だった。

俺達が部屋に入ると皆手を止め、先ほど教えてもらったお辞儀と同じことをこちらにしてきた。


「ケイト!こっちに来てくれ!ちょっとこの子の腕を試したい!」

「はい!!・・・この子ですか?まだ剣を振れるようには見えませんが・・・。」

「ふふ。それは見てから判断しよう。チャールズもいいかい?」

「あ、・・・はい。」


俺は断れない雰囲気に流されてしまったが、父さん意外と剣を交えるのは初めてで正直楽しみで仕方なかった。

こうして俺の初の決闘が幕を開けた・・・。

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