第8話特級魔法と
「それでは相手が「参った」と言うか、気絶したら終了だ。チャールズ。そいつは上級剣術を使う。遠慮しなくていい。殺す気でやってみなさい。それでははじめ!!」
俺は木刀を伯爵に借りてケイトと向き合う。
ケイトはまだ俺の事が信じられないのか油断したように構えているが、その姿はさすがと言うしかないくらい隙が無い。
だが油断している今ならうまく戦えるかもしれない・・・。
俺は何度も戦闘をイメージしてこっそり練習していたことを試してみようと思った。
まずは「魔力操作」で足に魔力を溜め、小さな「ウィンドボール」を両足から出し脚力を上げるという方法だ。
「・・・何!?」
俺の試みはうまくいき、20Mほど離れていたケイトの所まで6歩でたどり着くことが出来た。
「・・・く!?」
俺はそのまま今まで何千回と振ってきた型でケイトに斬りかかる。
が、ケイトは驚きはしたもののそれをしっかりと受け止めてきて俺を力で跳ね返す。
俺は着地と同時に側面に回りながら中級魔法の「ミスト」を使う。
ミスとは霧を発生させる水と炎の混合魔法だ。
ケイトの周りには霧で包まれるがケイトは霧を剣一振りで全て吹き飛ばす。
だが俺もそれは想定済みだ。
「・・・ん?・・・これはやられたな・・・。」」
俺はケイトのつぶやきに心の中でガッツポーズをとる。
俺は霧を発生させたすぐ後にケイトの足元に水を撒きそれを凍らせることでケイトのブーツを凍らせて地面に固定させたわけだ。
これでケイトは動けないはず。
そのまま初級魔法の「アースボール」を放ち、ケイトがそれを防ぐと同時に側面から斬りかかる。
そこからは激しい剣のぶつかり合いとなった。
ケイトは足を固定されているにもかかわらず、俺の攻撃を全て捌ききっていた。
そして・・・。
「ま、参りました・・・。」
降参したのは俺の方だった。
上手くやっているつもりだったのに、いつの間にか俺の剣は吹き飛ばされ、ケイトの剣が俺の喉元に突きつけられていた。
「そこまで!!勝者ケイト!!」
伯爵や騎士たちが拍手をしてくれるが、俺の耳にはそれは届かなかった。
正直勝てると思ってた。
剣の腕も中級になり、魔法も無詠唱で使いこなし天才などと言われ天狗になっていたのかもしれない。
「いやいや。素晴らしい試合だった。ケイト、どうだった?」
「・・・まだこんな小さい子がこんなにできるなんて思いませんでした。是非とも将来は我が騎士団に入ってもらいたいと思います。」
「わっはっは!!そうかそうか。チャールズ君お疲れ様。どうだった?」
俺はその言葉には答えられなかった。
悔しい、その言葉だけが俺の心に渦巻いていた。
「うむ。まぁ恐らく初めて味わった敗北なんだろう。だがなチャールズ君。君はまだまだ強くなる。まだ6歳だからな。・・・どうだろうか。もっと強くなりたいなら今度からたまにうちに来て剣の稽古をしてみないか?」
俺はその言葉にハッとして伯爵を見ると伯爵はビビにウィンクをしているところだった。
ビビは顔を真っ赤にし頷き俺を見るが俺にはその意味が全然分からなかった。
兎に角俺は悔しかったのでケイトに剣の稽古をつけてもらう事を約束し、その後帰宅した。
俺は今日の話をしたら両親はとても喜び「玉の輿」なんて不吉な事を言っていた。
6歳の俺になんて話をするんだと思ったが、俺は訓練させてもらえることに嬉しくてついつい顔がにやけてしまった。
ミアも俺が嬉しそうにしてるのが嬉しいのか「お兄たんやったね。」と意味も分からずに俺をなでなでしてくれた。
うん、俺の妹は天使だ。
今夜はいい夢見れそうだな・・・。
それから俺の生活は忙しくなった。
両親の稽古に、屋敷での稽古、さらに屋敷では何故か勉強や貴族の作法も教えてくれた。
理由を聞いても笑いながら「将来の為だよ。」とだけ言い俺にはわからなかった。
勿論教会でノアの手伝いも欠かさずやっている。
そんな生活が3年続き、俺は8歳になった。
剣の腕は相変わらず中級だが魔法の方はどんどん上達して全属性上級魔法まで使えるようになっていた。
今日は母さんと初の討伐クエストに行き、特級魔法を教えてもらう予定になっている。
母さんは俺がどんどん成長していくのが嬉しいらしく母さんが知っている魔法は全ておしえてくれるようだ。
「それじゃあくれぐれも気を付けてね。ワーウルフは動きが速いから。それに・・・。」
「大丈夫よサリー。私が付いているんだから。」
「貴方は大丈夫なのはわかっているわ!!チャールズ君が心配なの!!こんな可愛い顔に傷でもついたら私は・・・私は・・・。」
サリーさんの嘘泣きのようなしぐさを無視して俺と母さんは街の外までやってきた。
ワーウルフはEランククエストで「、このあたりではよくあらわれる魔物だ。
アニの街ではよく食卓にも並ぶので常にクエストは発注されている。
「・・・さて、おさらいだけど特級魔法の詠唱の言葉の数は覚えてる?」
「もちろん。何度も復唱して覚えたからね。40単語でしょ?」
「正解!!ふふ。なら平気そうね。」
詠唱はランクによって言葉の数が違う。
初級なら3単語、中級は6単語、上級は20単語。
特級は40単語と多く、王宮になると70神級は100単語になっているらしい。
俺達は街から1時間ほど離れた所で道からそれ近くの森の中に入っていった。
そこからしばらく歩くと小さな湖のある大きな広場にたどり着いた。
「・・・綺麗なところだね。」
「ふふ、でしょ?じゃあ早速やりましょうか。見ててね。」
母さんはそう言うと手を空にかざし詠唱を開始する。
「我が魔力よ、我の声に従え、空よ、我の声を聞け・・・・・・。」
母さんが詠唱を開始すると先ほどまで晴天だった空が見る見るうちに曇っていき、いつの間にか俺たちの真上には積乱雲ができていた。
「・・・・・・そして空よ、わが力を示せ!!シャイニングレイン!!」
母さんが詠唱を終えるのと同時にいきなり豪雨が降りだした。
俺はあまりの出来事に開いた口が塞がらなかった。
そんな俺を母さんは手を引き近くの木の下に避難する。
「大体一回で30分くらいは降り続けるかな?まぁ術者の力量によって変化するけどね。これが水魔法の「シャイニングレイン」よ。」
以前母さんに話には聞いていたが実際に目にすると凄いとしか言いようがない。
自然すら操作する魔法はまさにファンタジーで落ちてくる雨音は俺にとってとても心地よく心躍らせるものとなった。
雨が晴れた後俺は一人で木の下から出て空に手をかざす。
「・・・我が魔力よ、我の声に従え、空よ、我の声に従え・・・・・・。」
俺は無詠唱で魔法が使えるが初めての魔法は詠唱しないと使えない。
その理由はイメージができないからだ。
魔力がどのように反応して変化して・・・それを経験するには一度世界の理の力を借りるのが一番早い。
英所を開始するとすぐに体の中から魔力が凄い勢いで空に向かっていくのを感じた。
「特級魔法はその魔力をコントロールできないと一気に魔力切れして倒れる。」という母さんの話を思い出し、俺は一気に流れていく魔力を力ずくでコントロールし詠唱を続ける。
まるで体の血液が一気にてから放出され体が冷たくなっていく感覚がしたが、何とか意識を保って俺は言葉を続ける。
「・・・・・・そして空よ、わが力を示せ!!シャイニングレイン!!」
何とか集めた積乱雲は不格好だったが何とか雨が降り俺は安心して片膝をついた。
「お疲れ様。本当にできるとわね・・・。我が子ながら末恐ろしいわ。さ、木の下に避難しましょう。」
いつの間にか隣に来ていた母さんにおんぶされ俺は木の下に避難する。
いつの間にか息は切れ、体がだるくなっていた。
雨は20分と持たずに止み、母さんとの実力の差を思い知らされた気がした。
「何言ってるの。十分よ。私がこれをできるようになったのは16歳の時なのに・・・。」
母さんからそう慰められ、少し休憩した後通りかかったワーウルフを3匹狩ってから俺たちは街に戻った。
ワーウルフを狩った時母さんが「もう私は驚かないわ。そう、私は驚かない。私は正常よ。」と、変な呪文を唱えていたのは聞こえないふりをした。
俺はそれから数日にわたり母さんと何度も湖の畔に行き特級魔法を習得したのだった。
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