第5話協会とギルド

「ここが協会よ。」

「・・・あ、そうなんだ・・・。」


母さん達の長い長いお話が終わったと思ったら、母さんは色々な所で話しかけられ長話しを繰り返し、結局協会に着いたのは1時間以上経った後だった。

道行く人たちを見ているのも流石に1時間も経つと飽きてきて正直帰りたい気持ちでいっぱいだった。

何とか母さんを引っ張り(この年で駄々捏ねるのはすごく恥ずかしかった)協会までたどり着いた俺たちは大きな木の扉をくぐり中に入る。


協会はまさにヨーロッパの教会そのものだった。

石壁で出来たひと際大きな建物で壁には様々な彫刻が施されており、中に入ると沢山のステンドグラスがあった。

木で出来た椅子が祭壇の方を向き並び、床には赤い絨毯が敷いてあった。


「おや?リリーじゃないか。またやんちゃでもして怪我をしたのかい?」


その祭壇からゆっくりとこちらに歩いてきた白髪の老人は優しい笑顔で母さんに話しかけてくる。


「やだノアったら。もうそんなことはしてないわよ。今日は私達の可愛い可愛い息子を紹介しようと思って。」

「おお!あのリリーの子共か!どれどれ・・・。顔立ちはアントニー似だな。顔のパーツはリリーそっくりだな。これは将来沢山の女性を泣かせるぞ?」

「ふふ、私達の子だもの。当然よ。」


ノアと呼ばれた老人はどうやらここの神官長らしい。

と言ってもこの街に神官はこのノアただ一人だという。

母さんは俺が「初級魔法」を使える事、光魔法の「ヒール」を使えることを話す。


「なんと!?この年で・・・。うーむ。それが本当なら・・・。どうじゃ?ちょっと試させてもらってもいいかの?」

「ええ。もちろんよ。」


そう言うとノアは白い神官服の裾をまくると擦り傷をこちらに向ける。


「実はのぉ、今日は忙しくて魔力をほとんど使ってしまっての。チャールズよ、良ければ治してみてくれんか?」


俺は母さんがこちらに促すように頷いたのを確認した後、ノアの足に手をかざし「ヒール」と唱える。

すると俺の体内の魔力が手から流れノアの足に集まり少しずつ傷を治していく。


「おお・・・。本当に使えるとは・・・。これは・・・。うむ。まだまだ無駄は多いみたいだが鍛えがいがあるの。」

「という事はこの子は合格?」

「もちろんじゃ。むしろこちらからお願いしたいくらいじゃて。・・・ところでこの子は冒険者ギルドに登録はしているかの?」

「いえ?何で?」


冒険者ギルドとは冒険者の職業斡旋所のような所だ。

冒険者は皆そこで様々な依頼をこなしてお金を貰うシステムになっているはず。

・・・詳しくは知らないが。


「うむ・・・。もしこの子が協会の手伝いをするとなると、いずれ本部の耳に入る。・・・しかしその時この子が冒険者登録をしていて、クエストとして手伝っているなら・・・。」

「・・・なるほどね。確かにその方がいいかも。じゃあ今週中に登録しておくわ。」

「うむ。その方がいいい。では来週からここで手伝うという事で。」


ノアはそう言うと再び祭壇の方に歩いていき、俺たちの後に入ってきた老人に話しかけた。


「じゃあ私達は帰ろっか。」

「?・・・うん。」


俺はわけがわからないまま母さんに手を繋がれ帰宅した。


「・・・なるほど。流石ノアだな。気が利く。」

「でしょ?だからね・・・。」


夕食時ご飯を食卓を囲みながら母さんはさっきの話を父さんに話す。


「・・・ねえ。さっきの話ってどういう意味だったの?」

「うーん。まだチャールズには早い話かもしれないけど・・・。」

「いや、大丈夫だろう。この子は天才だし、話をしっかりと理解できると思う。」

「・・・確かにね。いい?少し難しいかもしれないけど・・・。協会ってのは世界中にあって、いつでも新しい人材を探しているの。もしその目に留まったら割と強引に本部に連れていかれて、親と離れ離れになって神父になる修行をさせられるの。そんなの嫌でしょ?でもチャールズならあり得る話なの。だから冒険者ギルドのクエストとして行くのよ。」

「?冒険者ギルドに入れば連れていかれずに済むの?」

「そうだな。冒険者ギルドってのは大きな組織でその力も強い。だからいくら教会といえども無理やりその会員を引き抜くってことはできないんだ。」


話によるとこの世界には大きく分けて4つの組織が存在する。


一つは王様がトップとなる貴族や兵士達。

これは基本的に政治や、治安維持などその国の為に働く人たちだ。


一つは冒険者ギルド。

冒険者ギルドは世界中にあり、その会員は国を問わずあらゆるところで活動する。

そして冒険者ギルド長は王様に匹敵する発言力を持つという。


一つは商業ギルド。

この世界で商売をするには必ずこのギルドに入らなくてはならず、世界中にある。


一つは教会。

フィリアを崇め、回復魔法のスペシャリスト達。

だがその組織は大きく強いためこの国では政治に口出しすることを禁じられている。


これらの組織は互いに干渉できず、立場も対等とされている。


「・・・つまり僕は冒険者ギルドに入ればいいんだね?」

「そうなるな。冒険者ギルドは自由な組合だから抜けたきゃいつでも抜けられる。来るもの拒まず去る者追わず、だからな。まぁ流石に犯罪者は入れないが。」

「・・・わかったよ。俺ギルドに入る。」

「・・・そうか。ありがとう。」

「ふふ。本当にありがとう。」


どこの世界にも権力争いや、強引な勧誘はあるらしい。

まぁこの世界の勧誘は少々誘拐の匂いのようなものがするが・・・。


次の日俺は母さんに手を引かれながら冒険者ギルドに入った。

ギルドは市役所のような所を想像していたが、実際は酒場に近いかもしれない。

建物自体は大きいが、中に入ると正面にはカウンターがあり、右側には大きなクエストボード、カウンターの左側には広い酒場があった。

今はまだ昼前だというのにすでに多くの人が食事や酒を楽しんでいた。

昔映画で見た中世のカーボーイ達が集まるあれくれ者の酒場のようだ。


「あれ、リリーじゃない。もしかして冒険者家業に復帰するの?」

「違うわサリー。今日はこの子の登録に来たの。」

「ええ!?こんな小さい子が・・・。貴方の家そんなに家計が苦しいのね・・・。」

「違うわよ!ちょっと事情があるだけ!さっさと登録して頂戴!」

「ふふ。冗談よ。「氷の魔女」がそんな状況になるとは思えないしね。」


母さんとカウンター越しで話しているサリーと言う受付嬢はどうやら母さんの事をよく知っているようだ。

しかし「氷の魔女っ」て何?と聞こうとしたとき酒場の方から酔っぱらった男性4人組が絡んできた。


「おいおいおい!!ここは託児所じゃねえんだぞ?こんなところにガキを連れてくるな!酒がまずくなる!!」

「なんだ?綺麗なねーちゃんじゃねぇか。そんなガキと手をつないで内で俺らと繋がらないか?」

「ギャハハハハ!!そうだぜ?俺らといた方が楽しいだろ?」

「気持ちいことだって沢山教えてやるぜ?」


なんともありきたりなチンピラだな・・・。


「ちょっと、あなた達やめなさい。全く相手が誰だかわかってる・・・の・・・?」


サリーが言葉を言い終わらに内に当たりの気温が一気に下がっていく。

母さんとつないでいる手が特に冷たくなったと思ったら、母さんは今までに見たことのない怖い顔をしていた。


「・・・そんなガキ、ですって?私達のいとしのチャールズに向かって「そんなガキ」・・・ですって?」


辺りはいつの間にか静寂に包まれ酒場でさっきまで楽しそうに飲んでいた人たちはいつの間にか奥の隅っこの方に避難していた。

・・・誰も止めないの?と言うか避難するの速すぎやしないか?


「おいおい。こんなボロいギルドだがここは俺の大切な城なんだ。頼むから氷漬けにしないでくれよ。」


カウンター横の階段からゆっくりと体つきがよく、背中に大きな斧を担いだおっさんが下りてきた。

するとさっきまでとは違い辺りの気温がだんだん正常に戻ってきた。


「・・・あら、ジル。久しぶりね。今ちょうど世間知らずの馬鹿どもと「お話」をしようとしてただけよ?」

「いや、お前完全にそいつら殺す気だっただろ。頼むからやめてくれ・・・。お前たちももういいだろ。そいつとの力量の差はもうわかったろ?」


気づけば絡んできた男たちの足元は氷で固まり、男たちは顔面蒼白でガタガタ震えていた。

・・・うちの母さん怒るとこんなに怖いんだ・・・、俺は母さんを二度と、二度と怒らせまいと心に誓った。


「・・・ったく、おい、リリー。なんか用事なら上で聞いてやる。そんな子供連れじゃ絡まれても仕方ないからな。それとサリー。そこの震えあがってる馬鹿どもを元に戻して説教しとけ。」

「えー・・・。はーい。その代わりジル。今日の夕飯おごってよ?」

「ったく、仕方ねぇなぁ。さっさとやりな。」

「はーい。」


サリーはカウンターから出てきて凍えてる男たちを思いっきりけ飛ばして氷を砕いて男たちに説教を始めた。

俺達はそんな光景を横目に階段を上がり3階にある「ギルドマスター」と書いてある部屋に入る。


「・・・さて、リリー久しぶりだな。その子を見る限り冒険者家業に復帰しようとしているわけではなさそうだな。」

「ええ。もう戻る気はないわ。前にも話した通りね。この子をギルドに入れたいの。」

「・・・金に困ってる…わけでもなさそうだな。一応わけを聞いても?」

「ええ、もちろん・・・。」


母さんは俺が魔法を無詠唱で使える事、光魔法を学ぶためにノアの手伝いをすること、そしてそれをギルドのクエスとしてやりたい旨を伝える。


「・・・話は分かった。理解はできるが信じらんねぇ・・・。無詠唱って言ったら宮廷魔導士でも一部の人間しかできない高等技術だぞ・・・?」

「ふふ。そりゃあ私達の子だもの。当然じゃない。」

「まぁ、お前とアントニーの子ならあり得るのか・・・?お前たちは昔からめちゃくちゃだったからな。」

「あら、そんな私たちを何度も助けてくれた一番めちゃくちゃな人間は誰?」

「がっはっは!!まぁそんなこともあったな!!」


母さんとジルも親しい仲のようで、昔話に花を咲かせていた。


「おっと、そう言えばこの子をギルドに入れたいんだったな。」

「そうよ。試験する?」

「いや、お前の話を信じれば十分にその資格はあるな。じゃあまずお嬢ちゃん。これからギルドのルールを話すからよく聞きな。」

「ちょっとジル。この子は男の子よ?」

「なん・・・だと・・・?俺はてっきり・・・。いや、すまなかった。じゃあ坊主いいか・・・?」


俺は今までも思ったがどうやら女顔らしい。

まぁ自分でもそう思うし、綺麗な顔しているから仕方ないし、この顔は気に入っているから特になんとも思わないが・・・。


兎に角俺はジルからギルドについて説明を受けることになった・・・。





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