第4話母さんと魔法
「ふふ。ようやく私の時間ね。チャールズはまだ疲れていない?」
「うん。大丈夫だよ母さん。」
ミアを父さんに預けて昼ご飯を食べた俺は今度は母さんに魔法を教えてもらうことになった。
「それじゃまずはチャールズができる魔法を見せて?」
「・・・わかった。」
母さんが俺が魔法を使える事に驚いたが素直に魔法を見せることにした。
流石に家は大きくないから母さんにバレてたんだなと、苦笑いはしたが。
魔法は剣と同じで階級がある。
「初級」「中級」「上級」「特級」「王宮」「神級」だ。
因みに父さんの神剣流は「特級」で、母さんの魔法の腕は4属性「特級」らしい。
魔法には「火魔法」「水魔法」「土魔法」「風魔法」「光」「無属性魔法」の六種類ある。
基本四属性の火、水、土、風に加え光属性は回復魔法、無属性魔法は「身体強化魔法」「魔力操作」など身体を強化する魔法だ。
本当は「闇」魔法もあるらしいがそれは大昔に消え去ってしまったらしい。
理由は不明。
「じゃあ行くよ?まずは「ファイヤーボール」!!」
俺はサッカーボールくらいの火の玉を球をつくり空に放つ。
火の玉はある程度まで上空まで上昇し爆散した。
「どう?母さん!」
俺は自分では上出来だと思い母さんの方を見ると母さんは口を大きく開けてこちらを見ていた。
「・・・チャールズ・・・。詠唱は・・・?今なにも言わなかったわよね・・・?」
詠唱とは魔法を使う際に発する呪文の事だ。
例えば初級魔法の「ファイヤーボール」では「炎よ、わが命に従い、玉となりて放て」の三行の詠唱が必要になる。
だが地球生まれの俺にはそれを口にすることはすごく恥ずかしく、言わない事にしている。
「・・・えっと、・・・駄目だった?」
「・・・いえ、もしかして他に属性も詠唱なしで出来るの?」
「・・・うん。できるよ?やってみる?」
「そうね・・・お願い。」
俺は母さんに言われた通りに「ウォーターボール」「ウィンドボール」「アースボール」を空に向け詠唱なしで放つ。
「・・・ど、どうかな?」
俺は母さんに怒られるんじゃないかと思って不安になってきた。
前世では母さんから一度も褒められたことはなく、逆に怒られてばかりだった。
「・・・凄い!凄いわ!!やっぱりうちの子は天才よ!!キャーー!!」
母さんんはぴょんぴょん跳ねた後大げさに喜んで俺を抱きしめてくれた。
俺は悪いことはしてなかったんだ、と言う安心感と、母さんに褒められ抱きしめられる、という二つの初体験をし、気恥ずかしさと嬉しさがこみ上げてきてまた泣きそうになってしまう。
そんな気持ちを誤魔化そうと俺は話を続ける。
「・・・詠唱しない事ってそんなにすごいことなの?」
「凄いなんてもんじゃないわ!詠唱破毀は宮廷魔導士でも難しいことなのよ!?私だって詠唱短縮はできても詠唱破毀はできないもの!!」
俺はよく分からなかったがとにかく凄いことをしているらしい。
詠唱破毀については本には書いてなかったがそのやり方のヒントは書いてあった。
俺は「ウサギの初級魔法の本」に感謝しながら母さんの抱擁を味わっていた。
母さんは花の香りがし、なんだか落ち着く甘い香りもした。
親子だからなのだろうか、こんなに安心して抱かれているのは。
前世で女性経験のない俺がこんなに美人な女の人に抱きしめられていたら僕は顔を真っ赤にして気絶していただろう。
「・・・母さん。詠唱破毀って何?」
「ああ、そうね。「詠唱破毀」っていうのは、詠唱をしないで魔法を使うことよ。それに対して「詠唱短縮」は詠唱を縮めて詠唱すること。例えば・・・。」
そう言うと母さんはやっと俺から離れて空に手を向ける。
「我が命に従え「ファイヤーボール」!!」
母さんは俺より少し大きな炎の球を上空に向け飛ばし、炎は俺のより高く速く飛び上空で爆散した。
「こんな感じね。チャールズにあの本を読ませて正解だったわね。」
「あの本って「ウサギの初級魔法」の本?」
「そうよ。あの本はめったに出回らない本でね。未だに著者も不明なんだけどとても分かりやすく書いてあるのよ。私も小さいころあの本を読んで勉強したのよ?」
「確かにあの本は分かりやすかったね。魔法とはイメージで詠唱とは世界の理・・・だっけ?」
確かにあの本は分かりやすかった。
魔法について細かく研究してある人が書いている本のようで、魔法が何なのか分からない人でも一から分かりやすく理解できる内容になっている。
魔法とは簡単に説明するとイメージであり、詠唱とは世界の理のようなものだ。
魔法は魔力を使ってイメージ次第でどんな使い方もできる、が、どんな人でも同じイメージをするはずなく、上手な人と下手な人がいるはずだ。
詠唱はそんな人達にイメージしやすくするためにある。
例えば「炎よ、わが命に従い、玉となりて放て」だと読んで字のごとく皆が炎のボールをイメージする。
そしてこの世界には見えない力があるようで、詠唱をするとイメージなしでも世界のルールに従い魔力が言葉に反応し、形を成してくれるそうだ。
「そうよ。でも世界の理、と言うよりフィリア様のお力ね。」
「フィリア・・・様の?」
あのオカマ女神のおかげとはどういうことだろう・・・。
「あのね。この世界には魔物がいるのは知ってる?」
「うん。本に書いてあったからね。確か一万年前に大きな魔力爆発があって、それによって突然変異で現れた化け物でしょ?」
「ふふ。そうよ。そして一万年前に魔物が現れて人間はどんどん人口が減っていったの。そこでフィリア様は人間に新しい力を3つくれたの。一つ目が「詠唱」ね。誰でも魔法が正しく使えて魔物と戦えるようにって。二つ目が「無属性魔法」。力でも魔物と戦えるようにって。そして三つめが生活魔法ね。」
「生活魔法」とはその名の通り生活を豊かにしてくれる魔法だ。
魔力量は人それぞれだが、生活魔法はほとんど魔力を使わずに誰でも使える魔法だ。
代表的なのが「クリーン」「ウォーター」「ファイヤー」だ。
「クリーン」は何故か生物だけに効く魔法でその体を清潔にしてくれ、そして何よりばい菌を消し去ってく入れるそうだ。
それによって昔流行った病気などにも皆かからなくなり清潔で安全な生活ができるようになったわけだ。
「ウォーター」と「ファイヤー」は読んで字のごとく火と水を出す魔法だ。
「ファイヤー」はマッチ棒をつけるくらいの炎だがそれで調理する時に薪に火をつけたりできる。
「ウォーター」は水道の蛇口を少しひねった程度の水量だが生活用水や飲み水を出すことが出来る。
「へぇ・・・。フィリア、様って凄いんだね・・・。」
「凄いなんてもんじゃないわ!フィリア様は本当に私たちの事を考えてみてくださっていると思うの。「愛の女神」なんていわれているのよ。」
マッチョオッサンの愛か・・・。
皆本当のフィリアの姿を見たらどんな反応をするんだろう・・・。
「しかし本当に初級魔法は完璧ね。と言うか凄すぎるわ。本当に5歳児か疑いたくなるわ。」
俺は思わず心臓が跳ね上がるのを感じたが、出来るだけ平静を装いニコッと笑って見せる。
ごめんよママン、本当は前世では15歳だったから足し算するともう20歳なんだ・・・。
「んもぉうちの子の笑顔が天使過ぎるー!!」
母さんは俺の笑顔を見て再び抱き着いてくる。
どうやらこの人を騙すのは簡単なことらしい。
俺は母さんが気が済むまで撫でまわされて、母さんが離れるのを待った。
「さて、確かもう「身体強化魔法」と「魔力操作」はできるのよね?「光魔法」はどう?」
「んー一応できるけどまだ試したことはないんだ。あんまり怪我とかしないし。」
「そうよねぇ。・・・ああ!じゃあノアに頼んでみようかしら!」
「ノア・・・?」
「ノアはね。この街の凄腕神父さんなのよ?どう?行ってみない?」
「・・・行きたい!!」
ノアがどんな人かは知らないが、俺は早く家の敷地から出てみたい、と言うのが本音だ。
うちでは5歳になるまで家の敷地から出てはいけないというルールがあった。
過保護だな、と思うこともあったがこの世界は危険で溢れていると言う話を聞いて納得した。
街の外に出れば魔物はいるし、皆剣や魔法を使うから喧嘩になれば危険が伴う。
だがすでに精神年齢は20歳の俺には家から出れないのはとても退屈なことだった。
「じゃあ今日の目標の「初級魔法」はもう完璧だから訓練はここまでにしてお出かけしましょう。」
「やったーー!!」
俺は年甲斐もなく(見た目は5歳児だが)はしゃぎ、それを母さんは「あらあら」と微笑ましく見ていた。
俺達は父さんに事情を説明してから母さんと手をつなぎ家の敷地を出た。
家の周りには少し高めのブロック塀があったため外の景色を見るのはこれが本当に初めてだ。
「うわぁ・・・。」
外に出てそこ少し歩くとそこは本当にファンタジーの世界そのものだった。
街並みは中世のヨーロッパのような雰囲気でレンガ調の家々が立ち並び、移動手段は徒歩か馬車のようだ、車や自転車などはなかった。
大通りには屋台が並びそこら中からおいしそうな匂いが漂い、お肉や野菜などを焼く音や、客引きの声などで賑わっていた。
道行く人々も特徴的な服や装備をしていた。
恐らく冒険者の人達が、腰に剣や杖などを装備したり、背中に大きな大剣や斧を背負って歩いてる人たちもいる。
まるでゲームの世界に迷い込んだ様な感覚に俺は年甲斐もなく胸が高まった。
「ふふ。そう言えば外に出るのは初めてよねチャールズは。どう?外の世界は?」
「・・・うん。なん凄い・・・。」
俺は思わずそんな言葉が出てしまった。
母さんはそれを聞いて大笑い、「天才だけどやっぱり子供ね」と楽しそうに呟いていた。
兎に角この街の人は誰もが生き生きとしている様に感じた。
地球では誰もが時間に追われ、生きていても死んでいるような顔をした人が多かった印象だがここは違った。
皆が本当に今を楽しんで生きている様に見え、俺は気づけば涙が出ていた。
・・・前世の俺は生きながらに死んでいた。
ただ今日は殺されるかも、と怯えながら生きていた。
そんな自分が情けなく、そしてこの世界に来れて本当に良かったと改めて心から感謝した瞬間だった。
「ねえチャールズ。お父さんに内緒で何か食べちゃおっか?」
「・・・うん!食べたい!!」
俺は母さんに見えないように涙を拭き、母さんを困らせないように笑顔で答える。
俺は一度死んで、今はこの世界で、この人の子供として生きてるんだ。
過去を忘れるなんてことはできないけど、今度の人生はしっかりやり直して幸せになるために生きると誓ったんだ。
そのために今を楽しんで精一杯生きよう。
「おや?リリーじゃないか!そっちのちっこいのはもしかして・・・。」
近くの屋台から母さんを呼ぶ声がしてそちらの方を見ると、美味しそうなサンドイッチを作りながら話しかけてきているお姉さんがいた。
「あら、ジェニス。ふふ。そうよ!この子が私達の自慢のチャールズよ!!どう?可愛いでしょ!?」
「ほー・・・。その子がいつもあんたが自慢していた子かい。確かに髪や顔立ちはアンソニーそっくりだが、目や鼻や、顔のパーツはあんたそっくりじゃないか。」
「えへへー!!でしょでしょう?きっとこの子は将来モテモテになるわ!・・・まぁでも寄ってくる女は私が全員殺すけど!」
「はいはい。親馬鹿だね。親馬鹿すぎるね。よって来た女を殺すんじゃないよ全く。それで?今日はどこ行くんだい?」
ジェニスは「今日はサービスしてあげる」とウィンクしながらサンドイッチを一つ手渡してくれた。
「あら。ありがとう。今日は教会に行こうと思って。この子をノアに紹介したくてね。」
「協会?なんだい神父にでもならせる気かい?あたしはてっきりあんた達の子だから冒険者にでもならせるのかと・・・。」
「違うわよ。この子に光魔法を教えてもらう為にね。」
「ああ、なるほど。そう言えばこの子、チャールズって言ったっけ?もう魔法が使えるんだって?」
「そうなのよー!!今日もねー・・・。」
なるほど。
女性の世間話が長いのは世界が違っても共通らしい。
俺は二人の話を聞きながらサンドイッチを食べ、辺りを見渡す。
俺にとって全てが新しく、行きかう人々を見ているだけで全然飽きなかった。
・・・因みにサンドイッチはとても美味しく、母さん達の話は30分以上続いた・・・。
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