第3話剣と父さん
俺は5歳になった。
ミアは現在2歳だ。
父さんと母さんの年齢は知らないが20歳前後なんじゃないかと思う。
そう思ってしまうほどに二人の見た見た目年齢は若い。
これまでの5年間は本当に幸せだった。
前にも話したが父さんはこの街の衛兵をしているらしい。
母さんは専業主婦をしている。
この街「アニ」は冒険者によって造られた街らしい。
以前冒険者をやめた人達が集まり、寄り添い造った街だ。
その為この国の騎士などは必要なく、自分たちで自治警察のようなものをつくり街の安全を守っている。
その為冒険者を引退した者や、怪我をして続けられなくなったものなどがどんどん集まりいつの間にかそれなりに大きな街になったようだ。
そして俺の両親も同じ理由でこの街にやってきた。
そうそう、まずは簡単にこの国の説明をしよう、と言っても本で読んだ程度の話だが。
この国はエレクトリカル大国、どっかのネズミの国のパレードのような国名だ。
建物や文化の時代的に中性のヨーロッパを想像してくれればいい。
レンガ造りの家、木造の家、石畳な道、移動手段は馬車か徒歩。
ただ地球の中世ヨーロッパの時代よりもはるかに便利な世の中らしい。
何故ならこの世界には魔法が、魔石がある。
魔法と魔石の違いは簡単だ。
魔法は生物が自分の体内の魔力を使い魔法を使う事。
それには体に魔力を巡らせ自分を強くする「身体強化魔法」のような「一次魔法」と体から魔力を放出しエネルギーに変換し炎、水などを出す「二次魔法」がある。
そして魔石は魔物の体内から取れたり、山を削ったりしたときに出る石の事だ。
魔石には魔力を溜めておけるという力があり、その魔力を放出させると石から水がでたり、炎がでたりする。
キッチンの炎や、暑い時にクーラー代わりに冷たい風を出したり、生活用水を出したりと、ほとんどの家の様々な所に魔石がある。
原理や使い方などは置いといて、とても便利なものとだけ覚えておいてくればいい。
そしてこの国は王族、貴族がいて、その人たちが政治を行い国を動かしている。
この国の北には「魔の山脈」と呼ばれる大きな山脈があり、西には独裁政治、実力主義国家の「帝国」、南には女神フィリア様を讃える「聖教国」がある。あのマッチョオカマのフィリアが女神かどうかは置いといて。
まぁこんなところだろう。
さて、俺は今日から父さんに剣の稽古を、母さんに魔法の稽古をつけてもらうことになっている。
二人ともそれなりに有名な冒険者だったらしく腕には自信があるらしい。
「さてチャールズ。俺が最初に剣を渡した時誓った約束は覚えているか?」
家の裏庭で日が上がったくらいの時間にたたき起こされて俺は目をこすりながら答えた。
「覚えているよ。「剣とは人を傷つけることも守ることもできる。これから毎日何のために剣を振るうかしっかり考えろ。そして剣の練習を怠るな。」でしょ?」
俺が覚えていたことが嬉しかったのか、父さんは嬉しそうに何度も首を縦に振って答えた。
「そうだ。父さん中々いいこと言うだろう。」
「・・・は?」
「実はな。俺も父から剣を貰ったときになんかかっこいい事を言われてな。だけどそんな事もう覚えていなくてな。だから俺もチャールズやリリーの前でかっこつけたくて1週間かけてその言葉を考えたんだ。どうだ?かっこよかったか?父さん。」
「あ、その・・・そうだね。」
俺が答えると父さんは「そうかそうか」と嬉しそうに何度も頷いていた。
・・・そんな事わざわざ言わなければかっこよかったのに・・・。
どうやら俺の父さんはちょっと変わっているようだ。
「んんん!という事でその言葉通り今日から剣の稽古を開始する。まずは家の周りを10周走ってくるんだ!!」
「・・・え?走るの?」
「そうだ。いいか?剣を振るのにも、剣を使うにも、女を抱くにも!!とにかく男には体力がいる!!だからまずは走るんだ!!話はそれからだ!!」
・・・このおっさんは5歳児に何を言ってるんだ・・・?
まぁ俺は言われた通りに家の周りを10周することにした、それしか選択肢はなさそうだし。
うちはあまり大きな家ではないが、さすがに5歳児の体での10周はかなりきつく、すでに日はそれなりに登り始めていた。
「はぁ、はぁ、父さん・・・終わったよ・・・。」
「うむ。では剣の稽古を始める。!!まずは父さんの素振りを見てなさい。」
「うん。わかった。」
父さんはそう言うと「身体強化魔法」を使いそのまま剣にも魔力を纏わせた。
・・・魔力にそんな使い方があったとは・・・。
ヒュ・・・ヒュ・・・。
父さんの剣を振る姿は正直かっこよく、そして美しくさえあった。
剣筋は早すぎて全く見えない。
「・・・ん?お前「身体強化魔法」は使えるのに「魔力操作」はできないのか?」
「・・・「魔力操作」?」
「ああ、「魔力操作」ってのは魔力を一カ所に集中させてその効果を高めることだ。例えば目に魔力を集めれば視力が上がり、腕に魔力を集めれば力が上がるんだ。例えば・・・。」
そう言うと父さんは魔力を解き剣を地面に軽く叩きつける。
剣は地面に軽く刺さるだけで大した変化は見られなかった。
父さんは僕がそれを見たのを横目で確認するともう一度剣を振り上げる。
今度は剣に全ての魔力を集めているようだ。
そのまま先ほどと同じように剣を振り下ろすと、ドォン、と小さな爆発音がし地面に小さなクレーターをつくる。
俺は驚き口を大きく開けていると父さんはそれを見てニヤリと笑い胸を張る。
「どうだ?これが「魔力操作」で全魔力を剣に集めた時の効果だ。まぁあのスピードでここまでの効果があるは単に父さんの技術力の高さだがな!」
父さんはそう言うと大きな声で笑い白い髪をかき上げてかっこつけた。
父さんいちいちそうやってかっこつけなければ本当にかっこいいのに、と思いながらも俺は小さなクレーターから目が話せずにいた。
正直俺は今わくわくしている。
前世では家では碌な生活ができず、学校でもそのせいであまり人が信用できずにいた俺はいつも漫画やアニメを見ていた。
そんな世界に憧れていた俺の目の前にはそのファンタジーな世界が広がっているんだと思うとはやる気持ちを抑えきれなかった。
「・・・父さん!!それどうやるの?早く教えて!!」
「お?ふふふ。そうだろう。父さんはかっこいいだろう?よし、そんな父さんに憧れている息子に俺の全てを伝授してやろう!!」
「あ、ありがとう!父さん!!」
やはりうちの父さんは変わっている。
と言うか少し残念な性格をしているのかもしれない。
父さんは見た目は白い髪に引き締まった体つき、そして顔も前世の地球ならモデルになれるくらいのイケメンだ。
だが性格は少々見栄っ張りで少年のような心を持っている大人なのかもしれない。
俺はさっそく「魔力操作」を教えてもらおうとしたが、それは叶わなかった。
「・・・お早う二人とも。・・・ねぇ貴方?聞きたいんだけど何があったらうちの庭に穴が開いてるの?どうして朝からそんなにうるさい音が出せるの?ミアが驚いて起きて泣いちゃったじゃない!!・・・二人とも朝ごはんはいらないのね?」
家からすごい形相で出てきた母さんに僕らは怒られ説教を受けることになったからだ。
・・・俺たちはその後稽古を中断し二人で母さんのご機嫌取りのために家の掃除にミアのおしめの交換などあわただしく働き、何とか朝ごはんにありつくことが出来た。
「・・・んんん!朝はまぁなんだ。色々あったが昼の時間までまだ時間はある。それまで剣の稽古を再開しよう。・・・静かにな。」
「そうだね。俺も静かに頑張るよ。」
朝ごはんを食べ終わった俺たちは再び剣の稽古を再開した。
俺は父さんにまずは剣の持ち方から丁寧に教えてもらい、その後剣の振り方を教えてもらった。
この世界にはどうやら剣の型が3種類あるらしい。
一つ目は「神剣流」。
これは攻撃に特化した剣の型であり、この国では主流となっているらしい。
神剣流は無駄な動きをせず、ただ剣を相手に叩きつける、と言う力技だ。
だが、ただ剣を振る事を極める、という事はある意味究極の奥義になる。
武道家でもただ拳を振りぬくだけの正拳付きが王儀であるように、絶対に躱せず受けきれず速く剣を振ることが出来れば無駄な動きなど一切必要ない・・・というのが神剣流の考え方だ。
二つ目が「水剣流」
これは防御に特化した剣であり、カウンター型の剣だ。
水のように滑らかな動きをし、全ての攻撃を水の流れのように受け流しカウンターを決める。
この流派は「帝国」に多く存在し、また力の弱い女性に人気の流派でもある。
水剣流は神剣流と相性がよく、一撃必殺型の神剣流は一度攻撃を外してしまうと隙が大きく生まれるためそこを突く事に特化したこの流派は強いというわけだ。
三つめが「兵法流」
これは上記二つを合わせ、生きるためになんでもし、不意打ちなどに特化した流派だ。
剣を投げつけたり、毒を使ったり、様々なことをしてとにかく勝つ、と言うのが兵法流の考え方だ。
その為防御特化の水剣琉人は相性がいいらしい。
カウンター型の水剣流は基本的に敵が近づいて来て大振りしてこなければカウンターが決めにくい。しかし短剣を投げたり地面の砂などを目くらましに使ってくる攻撃は受け身の水剣琉にはやりずらい相手となる、という事だ。
因みに父さんは「神剣流」だ。
俺はまずは剣を真っ直ぐ振る、という事を中心に練習させられた。
だが体育の授業で剣道を軽くかじっているだけの俺にはただ剣を真っ直ぐ振り下ろす、という作業が思いのほか難しく大変なことだった。
勿論5歳児に体には、と言う意味もある。
だが「身体強化魔法」を使っている俺の力は現在10歳児程度はあるはずだ。
それなのに剣を振ると真っ直ぐ触れなかったり、剣速が遅かったりして父さんのように空気を斬る音は一切聞こえない・・・。
「・・・どうだ?剣を振るってことは中々難しいものだ。父さんでさえまだまだちゃんとできるとは言えないんだ。剣は一生かけても達人の域に行けるか行けないか、という難しいものだ。お前にはこれを毎日行ってもらおうと思うが・・・。できそうか?」
父さんは意地悪そうに俺を試してくる。
きっとここで「できない」と答えたら父さんは驚き俺に失望するだろう。
正直剣を振ることは楽しい。
そして何より父さんから何かを教えてもらう、という事は前世でもない出来事だった。
前世では父さんは仕事か、帰ってきても酒を飲んで俺に暴力を振るうだけの存在だった。
だが今の父さんは違う。
5歳児の俺を一人の男として試してきてくれるし、真剣に剣を教えようとしてくれている。
俺はそれが何より嬉しく、そして頑張ろうと思った。
「・・・できるよ。当り前じゃないか。だって俺は父さんの息子だよ?」
それを聞いた父さんは一瞬驚いた顔をした後、ニタニタと気持ち悪い笑顔をし俺の頭を痛いほど何度もガシガシと撫でまわした。
俺は「痛いよ父さん」と言いながらも泣きそうなのを痛みのせいにして喜んだ。
・・・俺は父さんの息子、と言うのは半分自分に言い聞かせた言葉でもある。
俺はもう前世の家族とは関係なく、今は新しい家族になったのを改めて自分に言い聞かせて理解しようとしたのかもしれない。
まだ自分の中で新しい両親が心から「親」だという認識はできていなかった気がするが、この瞬間その言葉を口にすることによって少し本当の家族になれた気がした。
それから俺は日が真上に上るまで一心不乱に剣を振り続けた。
父さんはそれを真剣に眺めたり、ニヤニヤしながら眺めたリ、時にはアドバイスをくれたりしながらじっと俺の剣を見続けた・・・。
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