猫とパークの探検隊

 ここはリウキウ。


 辺りはまっさらな砂浜、そして青い海。

 

 ギラギラと輝く太陽が眩しいが、バカンスにはもってこいのエリアだろう。



 が俺達は何もバカンスでここに訪れたわけではない、深い理由というものがある。


 尤も仕事とかで来たというわけでもないのだが…。


 俺と妻が二人でここに来る理由なんてひとつだ。


「ミユ?遊びに来たよ?」

「大きくなったね?今いくつかな?」


「うぉぉあぁぁ!?おっちゃんおばちゃん来てたのかー!?ミユは今5才だぞ!スゲーだろ!」


 ここには孫がいる、このキャラの強い薄めのブロンドの女の子がそうだ。

 パタパタ揺れる猫耳と尻尾がチャーミングなこの子の名はミユキ、親しみを込めミユと呼んでいる。


 孫娘… そういつの間にか産まれていた俺達の初孫だ。



 この子が3才の頃初めて会ってから毎年顔を出している。

 諸事情につき皆には内緒だ、実の親である息子ですらこのことを知らない… 知っているのは俺と妻と父さんと母さんと、それからミライさん。


 あとこの子の親代わり… いや母親。


「ツチノコちゃんも、元気?」

「ご無沙汰してます」


「変わりねーよ、そっちも元気そうだな?」


 こちら我が親友のツチノコちゃん、彼女は母親としてここリウキウでミユと二人暮らしをしている。



 実の母親はミユを産んですぐに亡くなったが、こうして立派な母親もいるし今は俺達だって年に何度か顔を出す。


 初めは「なんだぁこにゃろー!?」と威嚇されたものだが、何度か会ううちにこうして慣れてくれた、おじいちゃんとおばあちゃんは嬉しいよ。


 まぁ…。


 この子は俺達が祖父母だとは勿論知らないのだが。





「なぁおっちゃん!森におもしれーもんあったんだ!見せてやるよ!」


 と来るなり腕を引く孫娘、興味があると行動してしまうのは母親の遺伝だろうか?彼女は飽きっぽいから途中で帰るかもしれないが… いや、森をフラフラして何かを調べるなんて父親の方に似たんだな。


「よーっしじゃあおじさんと探検してくるか?」


「うぉほぉぁぁあ!?探検かー!?」


 この反応は見てて飽きないな、よしじいちゃんに任しとけ。


 俺は二人に一言告げてミユを連れて森に入った、肩車をしてやると普段と違う景色に大興奮のご様子で俺としても顔が綻ぶ。


 この子は視点が変わるといろんなことに気付いていた、見た目は母親にそっくりだがどこか内面が父親に近いものを感じているとやはり孫なんだなとまた笑顔が溢れる。


 でこの子の言ってた「おもしれーもん」と言うのがだ。


「見ろよ!おもしれーだろー!」


「なんだすごいな、バナナかこれ?」


 バナナだ。

 木に成ってる、俺自身も自然のやつは初めて見た… リウキウ南国過ぎるだろ、その辺にゴーヤも普通にあるし。


「バナナ?でも黄色くねーぞ?しかもなんかたくさんある!」


「おじさんも初めて見たよ、へえ~こんな風になってんのか~?房でけぇー… どれ食ってみるか?」


「いいのかぁー!?」


「かーちゃん達には内緒だぞー?」


 俺はまだ青みの強いバナナの房から一本拝借しそれを孫娘と二人で分けて食べた。


 勿論「いただきます」は忘れずに。


「「いただきまーす」」



 モグモグ



「固いな…」

「それにあんまり甘くねーぞ?」


 こんなに青いのだから当たり前である、でも責任持っておじいちゃんが食べました。


 ちなみにバナナの“木”とは言ったが厳密には木ではなく飽くまで草らしい。

 木に見えるのは太い茎らしく、本によるとバナナは実は果物ではなく野菜に分類されるんだそうだ。


 多年生植物とか言ったか?ま、だからなんだって話なんだが…。





 それから他に面白いものはないかとあちこち肩車のまま森を散歩していた。


 当たり前… というと悲しいことだが、この子には同世代の友達というのがいない、一緒に遊びにいく友達がいないのだ。

 うちの子達のように双子でもないので普段は一人で遊ばなくてはならない。


 俺も妻も、勿論ツチノコちゃんも保護者になる、家族と友達ではまた違うだろう… だから俺はせめてワガママでもこの子に付き合ってあげたい、孫の頼みなら無下にはできないのがおじいちゃんと言うものだ。


 さぁ行くぞ、リウキウ探検。




 そんなことを考えているうちにふと口からでた歌がある。



「たんけんたーい たんけんたーい じゃっぱりパークのたんけんたーい…♪」


 ズンズンと前に進みながら俺がそんな歌を口ずさんでいるとミユが不思議がり尋ねるのだ。


「おっちゃんその歌なんだ?たんけんたい~?」


「あぁ探検隊ってのは…」



 あれ?


 探検隊ってなんだよ。



 「ごめん、おじさんもわかんないな… 歌は母さんから聞いたんだったかな?あれ?」


「わかんねーのに歌ってんのかー?おっちゃん変だな!」


 本当… 変だな。



 でも気にせず俺達はそのまま歌を口ずさみながら森の中を進み続けた。




 しかしあれはいつのことだっただろうか?



 確か…。



 そう確かあの頃だ。







「ダメだ!無茶を言うんじゃない!」


 そうして俺を怒鳴り付けたのは師匠、ヘラジカのフレンズ。

 こんなこと前にもあったんだ、確か肉体的にも精神的にもかなり弱ってた時だ。


 ただ今回はあのあの時とはまた違う。


「頼むよ師匠!強くならないと… このままでも家族を守れるくらい強く!」


「シロ、お前との手合わせが楽しみなのは認める… それにその気持ちはわかるしこれから来る何かを恐れるのも当然だろう、しかし今無茶をしても怪我をするだけだ!私には今のお前を強くすることはできない!不甲斐ないが私は力業しか教えてやれん… ヒトのまま強くしてやるにも先にお前の体が持たないだろう、わかってくれ?」


 わかっている。


 師匠だってなにも意地悪で俺を突っぱねてる訳じゃない。

 姉さんにも前に言われたように戦いの中で生きていきたいって訳でもない。


 なんでも拳で解決できるはずがないのもわかってる。


 でも、このままでは何も守れない。




 そうだ、この頃俺はクロの病気を直すのにサンドスターロウを肩代わりしてスザク様にフレンズの力を封じられていた。


 一年間掛けて俺の体内に張られたフィルターがサンドスターロウを浄化し、体を正常に戻してくれるという方法が使われたからだ。


 しかし、その一年間はフレンズ化を禁じられ俺は数年ぶりにヒトの姿で生活することを余儀なくされた。


 無理な野生解放は体内のフィルターの破壊を意味し、俺はたちまちサンドスターロウに汚染されてしまうだろう。


 一年くらいすぐだ、そう思ってたんだ。


 でもあることを境に力を欲した。



 それは妻の予知夢だ。



 近い将来連中がここに来て何かよくないことが起きる、俺はその前にもっと強くなり皆を… 家族だけでも守らなくてはならない。


 だって誰かに守ってもらう度に思ったんだ。


 

 こんなんじゃダメだ、周りに頼ってばかりじゃ…。



 強くなくては。

 何が来たって大丈夫なように。








「やっぱり… そうか、まぁそうだよな…」


 サンドスターコントロール。

 

 これだけはフレンズ化を封じられていても使うことができた、不幸中の幸いというやつだ。


 だがこちらも制限が掛かっている。


「前は両手から出せたはずの光の壁が右手でしか出せない、循環させてるのに肉体的な力に変わる様子もない… 参ったな、“こっちは健在”と大口叩いてはみたけど、ここまで制限されるなんて…」


 これではほんの少し動きのいい白髪の男。


 もし右腕がけものプラズムで作られていなかったらサンドスターコントロールすら使えなかったということだ。


 連中はいつきてもおかしくない、もしどうにもできなかったら… 俺は家族の元には帰れない。


「ダメだ、もっとコントロールを洗練させないと!せっかくかばんちゃんが見たくもない未来を見てくれたのに無駄になってしまう」


 変えてやるんだ、不吉な未来なんて。





 この当時、俺は追い詰められていた。


 フレンズとしての自分を封じられたそのタイミングで不穏な影がチラつき、力が全てではないと分かっていながら力を欲した。


 だが現実は容赦がない。


 サンドスターコントロールも思うようにいかず、この非力な体では中サイズのセルリアンにもかなり苦戦を強いられる。


 あまりにも戦闘に不向きな状態、これでは自分の身もまともに守れないだろう。



 自分の身も守れないようなやつが家族を守れるか?



 答えは否。


 だから訓練だ、とにかく訓練。


 

 もっと精密に、もっと繊細に…。



 コントロールを極めていかなくては。







「ユウキ?あんまり根を詰めすぎてはダメ、あなたがそうだとかばんちゃんも子供達も不安になるでしょう?」


 目の前に現れたのは娘シラユキ… の体を借りているは母のユキだ。


「母さんか… 暢気にしてられるかよ、アイツらが来るんだよ?母さんも知ってるだろう?」


「勿論わかってるけど… それでもユウキが見るべきは家族だとママは思いますよー?ナリユキさんは私達のことよく見ててくれました、強い力は持ってないけどそれでも守ってくれた、今だって…」


 この時、追い詰められていた俺はつい母に対して声を荒げてしまった。

 今思えば母の言ったことは正しかった、でもこの時の俺は視野が狭くって冷静さも欠いていたんだ。


 反抗期って歳でもないのに、情けない。


「家族の為にやってるんじゃないか!明日にでもアイツらが来るかって時なんだ!父さんが来れるとも限らない!だったら俺が俺なりの方法で家族を守らないといけないじゃないか!言われなくてもわかってるさ!」


 俺が母にこんな口を利いたのは初めてだったので、母は驚きと同時に傷付いたような目を俺に向けていた。


 ムキになるのは図星な証拠で、その場の居心地が悪いので俺は逃げるように母に背を向け走り出した。


「あ… ユウキ!待ちなさい!」


 母の静止の言葉を無視し、そのまま森林の中へ駆け出した。


 どれくらい走ったとかどこまで行ったとかどこへ向かったとか、この時はまったく考えてなどいないし実際目的なんてない。


 どうしようもなかったんだ。


 現状も、これからどうしたらよいのかも。






「はぁ… はぁ… あぁなんだよくそ… なんでこんな時に限って!」


 力が制限されてる時に厄介な事が起きる… これは連中がパークに来るって先の話とは別、それとは別でたった今目の前にセルリアンが出現したってことだ。


「っと!?危ない!」


 ソイツは俺を見るなり殴りかかってきた、間一髪回避できたのは両親からもらった健康な体のおかげだろう。


 それにしてもこのセルリアン、見たことのないおかしなやつだった。


 いつもの青くて丸っこい一つ目じゃない、大きさはそこそこあるし不恰好なほどデカい腕のような物が胴… いや頭か?とにかく豪腕が生えている、色は黒。

 目… のような物がしっかり二つあって耳のような物も生えている、口はない。


 だが間違いなくセルリアンだろう。


「さっきの攻撃… この状態であんなのくらったら痛いじゃ済まないな」


 抉れた地面を見て恐怖を覚える、冷や汗をかき呼吸も少しずつ荒くなる… がそれでもだ。


 こいつをここに野放しにはできない、なんとかここで始末するべきだ、ヤバイ相手なら尚更だ。


 なにせここは図書館の近く、家族に手を出させるわけにはいかない。


 今は俺一人、都合よく姉さんもサーベルさんも勿論ハンター達もいない、誰かに頼ることはできない。


 だがそれがどうした。


「よしっ」


 やるぞ、それに師匠に断られた以上実戦で鍛え直すしかないんだ!


「攻撃手段はあるんだ、ナメんなよ!」


 サンドスターコントロールで石に拳を叩き込めば俺の勝ちだ、サイズは関係ない。


 隙を突いて後ろに回り込み石に向けて一撃だ、ブラックジャガー流で行くぞ。


「来た…っ!」


 正面からゆるりと向かってくる、そういうものなのかそれともそれくらい俺を殺すのが簡単なのか知らないが… 油断が隙を生むのはフレンズもセルリアンも同じ。


 やがて敵はその豪腕を大きく振り上げ速度を上げる、近くに来ると凄まじい圧迫感に足がすくんでしまう。


 でもビビるな… 今だ!


「よしっ!くらえ!」


 奴はフワリと少しだけ宙に浮いている、なので下を潜り抜けるのには十分過ぎる空間があった。

 俺は拳が落ちる瞬間上手くそこに潜り込み背後を取ることに成功。


 そして右手にサンドスターを集中、最高の一撃をやつの石へ…。


「なっ…!石が無い!?この!」


 しかしそこにあるはずのものがソイツにはない、咄嗟のことで集中が乱れてしまい半端な一撃となってしまう。


 パンッ!とそれでも決して軽くはないであろう光の拳は石の存在しないただの背中を強く打ち付ける。


「ダメだ!浅いっ!」


 少しだけ距離は取れたがあまり堪えていない、すぐにこちらに振り向いてまたゆるりと向かってくる。



 どうする!?どこに打ち込めばいい!?



 そんな焦りは判断力を鈍らせる。


「このっ!」


 がむしゃらに何発も何発も打ち込んでみるが、焦りは集中を更に乱し上手く力の籠った一撃を放てずにまたソイツの射程圏内まで接近を許してしまった。


「まずいっ!?壁を!」


 右の手の平を広げサンドスターの壁を出現させたのだが…。


「うわぁぁぁっ!?!?!?」


 その豪腕は容易く壁を破り俺を真後ろへ突き飛ばした。


 万事休す、今の俺に倒せる相手ではない。



 野生解放を… ダメだ、その後俺が家族に危害を加えるセルリアンになるだけ。

 なんとか… なんとかならないのか?俺はここまでか?俺がいないと妻と子供達はどうする?ダメだ、今死ぬわけにはいかない!


 死にたくない…!



「誰か… 誰か助けて!?」



 追撃の拳が正に今俺に容赦なく降り注ぐ。







 その瞬間だった。




「がおーっ!ですよー!」


 

 何か気の抜ける声と同時に目の前豪腕セルリアンが俺の視界から消えた、吹っ飛ばされたのだ。


 代わりに目の前にいるのはフワリと揺れる白く長い髪、そして猫耳と尻尾。


「まだよ!油断しないで?」


「はーい」


 二人のフレンズ、そのうち片方はこの間サーバルちゃんとシンザキさんの結婚式で酔っぱらってたのが印象的に記憶に残ってる。


「くらいなさい!」


 そんな彼女の投げたなにやら光輝く球体がセルリアンに直撃、そしてその隙を逃さず間髪いれずにもう一人のフレンズが追撃。


「えーい!」


 鋭い爪がセルリアンを捉えると瞬時に体が弾け飛ぶ、セルリアンは正に視界から姿を消した。


「大丈夫ですかー?声がしたのでずいぶん走りましたぁ… お腹が空きました…。」


「さっき食べたじゃない… あなた、立てるかしら?危なかったわね?」


「お手を貸しましょうか?どーぞー?」


 手を差し出すフレンズを、俺は一度だって忘れたことはない。


 というかさっきまで一緒にいたじゃないか?頭冷したら素直に謝ろうと思ってたんだ、それどころではなくなったけれど。


「どうかしましたかー?」


「怪我でもした?」


「あ… いや…」


 もう一人もよく知ってる、ギンギツネさんだ… でも、知り合いのはずの彼女はなぜやけに他人行儀なのだろう?


 でもなによりよくわからないのはギンギツネさんではない。


 だってどう見てもあなたは…。


「はわわ~…?あなた前にも会いました?そんな気がします」




 母さん…?



 ユキの体じゃない、正真正銘のホワイトライオンのフレンズだ。









けものフレンズ3記念クロス

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