悪魔を祓え猫娘

 森の中を、猫フレンズの女の子が一人歩いていた。


 セミショートで薄めのブロンドに大きな耳が生えており、少しオーバーサイズなパーカーを着てデニムのショートパンツを履いている、スラリと伸びた足は男性を釘付けにすることだろう。


 目はくりっとしてて可愛らしい、その黒い瞳は何を見る?尻尾をユラユラと揺らしながら早足で森を歩く彼女、そんなに急いでどこへ行くの?


 男ならつい声でも掛けてしまいそうになるそんな彼女… 歳は19歳、もうすぐ二十歳になる、まるでアイドルみたいに可愛い君。


 みんな彼女の美しさに目を奪われる、あの子はモテモテ間違い無しの人気者。



 そう、口を利くまでは。



「やっほー?みゆみゆー?」バサッ!


「ぎぃやぁぁぁぁぁあああ!?!?!?」


「んナイッスリアクション!みゆみゆったら可愛い?」


「ナミちーてめぇ脅かすなよ!?!?普通に出てこいっつってんだろがよぉッ!?」


 上から現れたのはナミチスイコウモリのフレンズ、早足の彼女の目の前に逆さ吊りになり突如として現れたのだ。


 お気付きだろうか?彼女はとても可愛いのだが。


「だってぇー?みゆみゆのリアクションちょー楽しいじゃん?」


「ケッ!バカにしてんのかぁ!次やったら引き摺り落とすからな!」


 めちゃくちゃ口が悪いのだ。



 そんな口は悪いが可愛いと評判の美脚の彼女、名はミユキ。


 だが皆彼女のことを親しみを込めてミユと呼ぶ。


 スナネコのフレンズ… に見えるが厳密には違う、彼女はスナネコとヒトのハーフである。


 シロの息子であるクロユキ、彼がかつてスナネコと愛し合っていたあの頃のことだ、結果二人は別れてしまったがその時に二人の間にできた女の子こそミユキさんその人である。


 現在、親代わりだったツチノコが先立ったのでキョウシュエリアにいる父親クロユキの元で暮らしている。


 既にいる彼の息子ヒロユキとは腹違いの姉弟、姉に当たる。


 ミユの登場により少々事件になった複雑な家庭のクロユキ一家だが、クロユキもその妻ワシミミズクの助手も更にその息子ヒロユキも彼女を暖かく家族として迎え入れている。


 彼女が少し素直じゃない意外はなにも問題はないのだ。


「カリカリしちゃってー?まだ二人のこと怒ってんの?」


「許せると思うか?アイツら勝手にいなくなりやがって!なんかある時は家族に一言挨拶すんのが礼儀ってもんじゃあねぇのか?少なくともオレはかーちゃんにそう習った!」


「寂しいよね~?みゆみゆは二人とも大好きだもんね~?」


「っせーな!んなんじゃねぇよ!クソ… ざけやがって、馬鹿野郎…」


 それはシロとかばんが四神とセーバルに代わり、フィルターになってから1ヶ月後のことだった。


 ミユにとって二人とは祖父母に当たる。


 初めて二人と会ったのは3才の頃、その時二人はツチノコ… 母の友人だと聞かされた。


 それから二人がちょくちょく顔を出し彼女達の世話を焼いていたある日、突如母ツチノコの寿命が来た。


「かーちゃんが…」


 パークスタッフを挟み連絡を受けすぐに駆けつけたシロとかばん、そしてこの機会にミユは彼等から本当の両親のことを聞かされた。

 父は既に結婚していること、腹違いの弟がいること、そして世話焼きな二人が祖父母であるということ、それらはその時に知ったのだ。

 しかしその時ミユ本人は思った。


 やっぱりな…。


 世話焼きなシロとかばんを見ていて、話を聞いたときなぜだかやけに納得がいったそうだ、彼女がもうすぐ16歳になる頃のことだった。


 


 かーちゃんが死んで、頼りはおっちゃん達だけだった。

 別にもう子供でもなかったし生きていく上でなんら問題はなかったが、おっちゃん達は「一緒に帰ろう」と言ってくれた。


  正直… かーちゃんが死んだばかりで寂しかったオレはそれがスゲー嬉しかったんだ。


 でも、オレも強がっちまって「自分で行くからいい」とか言ってさ?おっちゃん達が帰った後荷造りして、かーちゃんの墓の前で手を合わせてから二人で暮らしてきた家を一人で出た。


 リウキウからキョウシュウは徒歩じゃキツいもんがあったが、出会うフレンズ達に助けられながら辿り着くことができた。

 確かに辛かった、でもかーちゃんと本当の母ちゃんもこの道歩いて来たのかな?って思うとなんだか楽しかったとも感じている。


 だからオレはここにいる。


 家族と一緒にいる。


 みんな家族なんだ。


 だからおっちゃん達がオレに何も言わないで消えちまったのが…。



 寂しいし、悲しい。



 そんでムカつく。




「でみゆみゆー?サンなら仕事でセントラルじゃなかったけー?」


「な!?べ、別にアイツは関係ねーよ!散歩だ散歩…!」


「ふーん?キシシ… 暇ならヒロのこともたまには構ってあげれば?ね?おねーちゃん?」


「るっせー!ほっとけ!」



 彼女にとって弟のヒロや、サーバルとシンザキの息子サバンナことサンとの関係性も色々あるのだが、それはさておき。


 彼女がせかせかと森を突き進み、友人ナミチスイコウモリを邪険に扱いながら一人向かう先というのは実は…。



 サンドスター火山。



 祖父母に対し色々と文句を言う彼女だが、こうしてしばしば足を運び二人に会いに行くのだ。


 ただ彼女は性格が育ての母親に似てしまった為に素直になれないところがあり、友人に対してもキツイ口調を浴びせたり、恥ずかしいのか誰にも言わず火山に向かったりしている。


 自分でも面倒な性格になったものだと感じてはいるが、こうして強い口調を使うことで亡き母ツチノコが側にいると感じることができる。


 自然に身に付いた口調や性格ではあるが、意識してるところも否定はしない。





「あれ?」


 道中、パーカーのポケットに手を突っ込んだ時だ、普段必ず右ポケットに入れているはずの物がないことに気付いた。


「やべぇ、落としたか?でもどこで… あぁくっそ!さっきのナミちーのとこか!だからやめろって言ってんのによぉ!ったくぅ!」


 さっき驚かされた時落としたのだろう、それほど進んでいないしすぐに戻って探そう、あれは彼女にとってとても大事な物なのだ。



 彼女が振り返り、来た道を戻ろうとしたその時だった。


 なにやら強烈な違和感を覚えた。


 空気が変わったのだ、そして振り返ったその先には。



「ハァイ?キャットがぁ~る?探し物はこれ化な?」


「あぁ?」


 フレンズが一人、ミユも彼女のことは知っている。


 ちほーが離れているので頻繁に会うわけではないが、顔を合わせれば話くらいはする子だ。


「タスマニアデビルじゃん?なんだよ拾ってくれたのか?サンキュー?」


 なんでジャングルちほーに住む彼女がここにいるのか… 気にはなったのだが、そんなことよりも落とし物をさっさと手元にしまいたかったミユは先にそれを受け取ろうとした。


 がしかし。


「ノーンノンノン!こレは簡単に渡せな胃なぁ?」


 気持ちわりぃな… こいつこんなだったか?


「おい!なんの真似だテメー!早く返せよ!」


「口が悪いよ世キティ?損ナに大事なら取り返せばいいじゃ内科?できるものなら…!

 いーひ非ひははは歯!?!?ぎゃーは派は歯は派HA!?!?!?」


 気味の悪い笑い方、左右の目はあちらこちらを向いてギョロギョロ動いている、そして口が裂けて顔の半分くらいが口になっている。

 それはミユがこの薄気味悪いヤツをタスマニアデビルではなく頭のネジが飛んだ化け物と判断するには十二分な情報量であった。


「んじゃバトルスタァートォウ!?」


「クソ… ナメんなよ!」


 異様な雰囲気を持つ相手だった。


 何もかもが型破り、タスマニアデビルだったのは本当に最初だけで動物由来の動きなどあったものではない。


「オォウラァ!」


 ミユの鋭い蹴りは敵の顔面を捉えたかと思われたが。


「アッチョンブリケ!?」スポーン


「あぁぁぁぁぁあ!?!?!?頭が取れた!?!?!?」


 まるで某メガネっ子ロボットの如く頭を外しそれを回避、外れても尚ニチャニチャと笑い彼女を見下ろしている。


「リアクション最高!いイ蹴りだネーちゃん!キックde世界目指さねぇ化?」


「ッザケやがってこの…!」


 ミユはポケットに手を突っ込んだまま華麗な足技を繰り返し続けた、が相手は変わらずそれを意味不明な動きで回避、当たらないのだ。


 当たったとしても。


「しゃあっ!どうだオラ!」


「残像ダ!」


「は!?当たってんぞ!?」


 次の瞬間目の前で回し蹴りを食らったアイツは姿が消え背後に現れる。


「手応えはあったのに!」


「餞別代わりに… 見せてやったのだ…」


「るっせぇ!」


 すかさず攻撃に移るが、このタスマニアデビルのようなやつ。


 まったく攻撃も話も通じないのだ。




 なんなんだよこの気持ちわりぃヤツはよ!ぜってーフレンズじゃねぇ!例え博士チビフクロウがフレンズと言い張ってもオレはぜってー信じねぇ!


 オレだってこの歳になるまでいろいろ修羅場はくぐったつもりだ、その辺の雑魚セルリアンなんざ怖くねぇ… だがこいつはなんだ?フレンズじゃないならなんだ?

 喋るし訳わかんねぇトリックは使うしセルリアンにしたって型破り過ぎんぞ?



 ミユもまた、クロの娘でありツチノコに育てられた為か頭が結構キレるほうである。

 与えられる情報から答えを導きだし有効な戦いをするが、今回は相手が悪い。


 考えても無駄なタイプの相手だ。

 

「ねぇねぇ!?反撃し手もいいカナぁ!?いいよネェ!?」


「なに!?」


 今まで手を抜いていたとでも言うのだろうか、突如ヤツは距離を取ったミユに対しメチャクチャな動きで反撃を始めた。


「ハンマーたぁぁaaaaイム!」


「ゲェッ!?」


 ハンマー、それはまるであのハンターヒグマが使っていた物と同じ… 否、それの何倍も大きい。


「スイングswing水ん具ぅぅ!!ヒョエハアハhAAhA派葉刃波はぁ!?!?!?」


「っぶねぇなおい…!」


 ハンマーを軽々と振り回し周囲の木を凪ぎ払っていく。

 大振り故ミユにも避けられない程ではないにせよ当たったら最後… 全身がバラバラにされるかもしれない。


「いいねぇ!?いいね伊井ね良いねイイネeeネェ!?」


「やめろ!しんりんちほーを更地にする気か!」


「木より自分ノ心配すレ馬ぁ!?ほぉ裏ぁ!危ない危ナい!?危な胃よぉぉぉ!?!?」


 これでは近づけない。


 こんな時、母ならビームで対抗出きるのだろうか?とミユは歯軋りするほど悔しくなった、このままではしんりんちほーから木がなくなってどこからが平原なのかわからなくなる。


 今しんりんちほーは、シロの突然の消失によりそこを守る百獣の王が欠番なのだ、クロユキやその妻の助手、ヒロユキだって弱者ではないが、今ここで敵に対峙しているのは自分だけ。


 自分がここを守らなくてはならない、何よりここにはナミチスイコウモリや他の友人達も暮らすのだ、彼女は引くわけにはいかないとあの型破りな怪物を睨み付けた。


「避けるネェ!?じゃあ凝れは?」


「ッ!?」


 まずい!?


 ハンマーの攻撃が当たらないと見たのか、ヤツは裂けた口を大きく開き光線のようなものを吐き出した。


「うぉあぁぁぁ!?」


 ミユは間一髪それを大きく仰け反り交わすことに成功した、勢いよく仰け反ったため背中から倒れると、そのまま光線の行き先が目に入る。


 ドンッ!と音がなると後ろの木が吹き飛んだのが見えた。



 あんなん食らったら…。



 恐怖心が彼女の体を駆け巡るがその時。


「おっしーい!おっぱいちっちゃくて助かったねぇ!?きゃぁ~っとがぁるぅ???」


 ブチッ

「てんめぇ… 女は胸だけじゃねぇぇえ!!!もう許さねぇぞぉぉ!!!!」


 ミユは… ある日ヒロとサンが包容力は胸に比例してるみたいな話をしてるのをたまたま聞いてから、めっちゃ気にしてた。


 おばあちゃんの慎ましいDNAは産みの母スナネコを凌駕していたのだ。


「オラァァアッ!!!」


「おやおやぁ!?おっきいおてて!しかも2つ!!!」


 サンドスターコントロール、ミユはクロユキ同様両手から攻撃用の拳を作り出すことができるのだ。


「ちょこまか逃げんじゃねぇやぁあ!!!」


「ふぃーははハ母刃は!?!?!?殺るじゃんキティガール!?ぱぱに習ったのぉ!?」


「親父になんか聞かねぇよッ!この!」


 のらりくらりと避けるアイツ、力任せに拳を振り回すミユ。


「ぬぁぁ!クソ!当たらねぇ!」


「おじーちゃんもダディも鼻が高いダろう根ぇ?こんなにじょーずになって?おじーちゃんより上手いよキティ?」


 こいつ… おっちゃんのこと知ってんのか?


 怒り狂っているように見えるが、ミユは常に達観として冷静な自分を必ず心の隅に置いている、故にヤツの言葉を聞き逃すことはない。


 ヤツはシロの事を知っているのだ。


 いつ?どこで会った?


 シロはもういないのだ。


 妻を連れてフィルターの任に付き、何者とも顔を会わせられないし話すこともできない。



 おっちゃんとコイツはいつどこで会ったんだ?


 捕まえて吐かせてやる!お守りも返しやがれ!


「ほらほラぁ!?そんなの当たら内よぉ!?わんぱったぁーん!ツマラナイ!」


「あぁそうかい!」


「わっつ?」


 ミユの力任せな連続攻撃、その最中、小さな光の玉をヤツの前に放り投げる。


「吠え面かきやがれ?」


 カッ!

「ギャッ!?」


 ミユがフードを深く被り己の目を庇ったその瞬間、光の玉は目映い光を放ちヤツの視界を奪う。


 これは閃光弾、例の花火を見たとき考えたミユオリジナルのサンドスター閃光弾だった。


「オラ!捕まえたぜ!オレのお守りを返せ!そんで洗いざらい喋ってもらうからなぁッ!!!」


「あぁぁんびりぃぃばぶる!?!ライ怨ちゃんよりずーっと頭いい邪んキティ???fantastic!ヤラレタゼ!」


「はぁっ!?」


 彼女が面食らったのも無理はない、捕まえたはずのヤツが隣で一緒に自分の手の先を見下ろしているのだ。


 では捕まえたのはなんだ?誰だ?


 なんと向き直すとそこにはジャパリマン。


「食べてゴラン?おいしーよ?」キュル~ン


「て・め・え・が食ぇっ!!!」ガボッ


「んスッぱーい!?!?でーも後味スッ忌りすぃーくわぁーさー!!!!分けてアゲユ~?」


 突如、幼子のような声をだし口移しを迫られるミユ、思わず寒気がしたので必死に抵抗してみるが…。


「ぎゃぁぁぁあ!?やぁめぇろ!?放せっ!!!」


 な、なんて力だ!動けねぇ!


 迫る唇、なんと言うことだ… ミユキさんの大事なキスがタスマニアデビルの皮を被った意味不明な怪生物に奪われてしまうのだ。


 きっとこの経験は彼女にとっても忘れられない思い出となり心に大きな傷を残すことになるだろう、しかもヤツの口内で生成されたジャパリマンスムージーまで流し込まれるのだからきっともう元の生活には戻れない、ミユは覚悟を決めた。



 かーちゃんに母ちゃん… それにおっちゃんおばあちゃん、親父にミミさん… ヒロ、そしてサン…。


 ミユはこれからメチャクチャに汚されてしまいます… きっと帰ってはこれねーでしょう。


 今までありがとうございました。




 が…。


「ガァァァアッッッ!!!」


「うっぷす!?」


 そんな雄叫びと共にドンッ!と鈍い音が、そして目の前に迫っていたヤツはミユの前から消えていた。


 続けて声がする。


「まぁた会えたなぁお嬢ちゃん?意外に早い再会だ」


「んっんー?今日はオメーに用はナイゾ?おとなしく別の世界リョコーしてロよ?邪魔寸な!」


「孫に手ぇ出しといてこの俺が黙って見逃すとでも思ってんのか!食べた物外に出すんじゃあねぇ!!!」


 ミユは、この声をよく知っていた。


 小さい頃から知っている。


 大人のクセに一緒になって遊んでくれて、サンドスターコントロールだってその人が教えてくれたのだから。


「ミユちゃん?大丈夫?よく頑張ったね?」


「あ、あ… あんた… なんで?」


 目の前で手を差し伸べるこの女性も良く知っている。


 手先が器用で絵が上手、幼い頃服とかぬいぐるみとか… そんな女の子らしいものは全てこの人が作って持ってきてくれた。


 一緒におままごともしたし貝殻拾いもしたのだ、よく覚えている。


 そう、彼女はよく知っている。


 とてもとてもよく知っている。

 

「ミユ?無事か?」

「あとは任せて?」



 彼女の前に現れたのは。



「おっちゃん!おばちゃん!」



 シロとかばん、彼女の祖父母である。


「気味の悪いヤツめ、前にお前と戦ったこと全然思い出せないけど… 今度は確実にぶっ飛ばしてやる、覚悟しろ?」


「2対1です、僕だって決して弱くはないですよ?」


「ダメダ目ダメ打芽駄目!お呼びジゃない野!せっかく楽しんでたノにわざわざ見付け手くるナンテおまいら暇スギィ!今度また構っ手よ!アチシはドロンでごっざーる♪あでゅ~???タスマジック!」


「おいこら待て!」



 ボンッ!



 煙になってタスマニアデビルのようなヤツは消滅、瞬間森の中だったはずの空間が真っ白な空間に変わる。


「逃げられた」


「なんなんでしょうか?あれはなぜ異空間を移動できるの?」


「知らないけど… しばらく顔を見ることはなさそう」



 そこには、何も言わず消えたはずの祖父母。


 ミユは二人の背中をじっと眺めていた。


 ここがどことか、何がどうなったとかは考えてもわからない。


 だからじっと二人を見ていた。


「ミユ、立てるか?」

「怖かったでしょ?もう大丈夫だよ?」


「何で…」


 ペタんと座り込み、二人に問い掛けた。



「何で勝手に消えちまったんだよ!残されたヤツの気持ち考えたことあんのかよ!」



 二人も困った顔で彼女を見ていた。


「すまない…」「ごめんなさい」


「まぁ… いいよ!家族だろ?許してやんよ?帰ってくるんだろ?」


 涙を擦りながら、久しく会えた祖父母にはさすがの彼女も甘かった。

 ミユはこの時再び会えた事実以上にこのまま三人で帰れるんだとそれが嬉しかった。


 が無論そんなことは不可能、思い込みだ。


 彼らにはフィルターの任がある。


「ミユ?じいちゃんの言うことをよく聞くんだ?」


「え… なんだよ?」


「今お前は本来入れないとこにいる、ここはどこでもない次元の狭間みたいなとこだ?だから俺達とも偶然会えたんだ、その辺はあのタスマニアデビルの皮を被った変なヤツには感謝だ結局敵なのか味方なのかわからんやつだけどな」


 祖父の言ってることがよくわからなかった、ここがどこだなんて関係ない、会えたのなら一緒に帰れる、それだけのことではないのか?と彼女はそう考えていた。


 だがだんだんと、この時間が仮初めであることにミユ自身も気付き始めていた。


「俺達は家には帰れない… 今の俺達は幽霊みたいなもんなんだ、別の世界ではぼんやり存在はできるけど、元の世界ではフィルターとしてでしか存在できない、わかるか?」


「なに言ってんだよ?意味わかんねぇ… そんなんやめて帰ってくりゃいいじゃねぇか!」


「ダメだ、これは俺がやりたいと思って始めたことだ… かばんちゃんまで付き合わせてしまったけど、俺達がいないとせっかく復興したパークがセルリアンパークになってしまう」


「ミユちゃん?いつも火山まで遊びに来てくれてありがとう?お返事できないけど、声はちゃんと届いてるからね? …シロさん?時間です、もう行かないと…」


 そう言うと、ミユの視界は霧がかかったようにボヤけ始め二人の姿が消えていく。


 彼女は叫んだ。



 待って、行かないで。


 

 最後に、視界から完全に消える寸前に祖父母は言った。


「ここを出るとお前は全て忘れてしまうだろうけど、いいか?覚えておけ?」


「いつかずーっと明日になってフィルターの代わりになるような物ができたら、その時きっとまた会えるよ?」


「だから、その時まで元気でな?みんなによろしく?それと、もっと女らしくしろよ?」


「「バイバイ?」」



 手を伸ばしても伸ばしても、二人に届くことはない。


 走っても走っても、追い付くことはない。


 そのまま視界が真っ白になにも見えなくなり、ミユは眠るように気を失ってしまった。






「おーい?みゆみゆ?」


「ん… あれ?」


「なんでこんなとこで寝てんの?用事あったんでしょ?」


 目を覚ますと、目の前に友人ナミチスイコウモリ。

 

 大胆にも地べたに横になり眠っていたところを見つけて逆に驚かされたナミチスイコウモリは、すぐに彼女に声を掛けた。


「オレ… あれ?なんで寝てたんだ?」


「えー?知らないしー?それよりハイこれ?落としたでしょ?」


「お、ジャパリコイン!よかった~!サンキューナミちー!かーちゃんの形見なんだよ!」


「そんな大事な物落とさないでよー?首から下げたりすれば?」


 そうだ、落としたことに気付いて引き返そうとしてたんだった。


 で、それから… それから… なんで寝てたんだ?



 考えても思い出せない時は、多分どーでもいいことなのだろう。

 そんな風に気に掛けるのをやめ、彼女はまた歩きだした。


「ねー?結局どこ行くのー?」


「あぁ?あー… 火山だよ」


「ふーん?アタシも行っていい?」


「勝手にしろ… あ、なら飛んでくれよ?」


 ナミチスイコウモリあからさまに面倒そうな顔をしていたが、彼女にも火山に何があるかくらい知ってる。

 ぼやきながらもミユを抱え空へ飛び上がるとまっすぐ火山へ向かった。




「ねぇ?そういえばこんなの落ちてたんだけど?」


「ジャパリマンか?なに味だこれ?つーか拾い食いかよ?」


「でもいい匂いじゃない?痛んでもないし?みゆみゆ半分こしよーよー?せーので食べよ?」


「ったくしゃーねーな!」


「「せーの!」」



 パクっ


 口に広がるシークワーサー。



「「酸っぱ!?!?!?」」


「「と思ったらさっぱり!ウマい!」」







クロスオーバー


猫シリーズ(気分屋)×おじさんとパフィンちゃん(楽々)


おじさんとパフィンちゃん クロスお返し回


おじさんとパフィンちゃん~コラボ編~

猫は次元を越えて悪夢を見る↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888141375/episodes/1177354054890008660


おじさんとパフィンちゃん↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885636399


楽々先生 ありがとうございます。

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