猫ワガママを言う4

 まず、イエイヌさんの元を訪れた。


 少し休みたかったのと、その優しさに期待してきっと彼女なら俺の気持ちもわかってくれると思ったからだ。


 綺麗事で構わない、あの人みたいな何かを天秤にかけたような言い方はしないはずだって勝手に決めつけていた。


「シロさん?どうしましたそんなに汗だくになって?」


 急な訪問で驚かせたことだろう、でもどうか許してほしい。


 その優しさに甘えてしまうことにはなるが、どうか一人の友人と見込んで話を聞いてほしい。


「走ってきてさ?はぁ… ちょっとお話しない?」


「もちろん大歓迎です!さぁどーぞ?疲れたでしょう?」


「ありがとう」


 イエイヌさんは突然現れた俺に対しても当然のようにとても優しかった。

 彼女の言動には裏がないのがよくわかる、思ってることは口に出した言葉の通りなのだろう。

 

 きっとこの時嫌と感じたなら嫌そうな顔をするだろうし、今のこの対応は歓迎してくれたからこそこうしてニコりと笑いかけてくれているのだと思う。


 そんな優しさはここ数日“あの人”が本心では何を考えているのかとずっと不安だった俺にとって、イエイヌさんの姿を輝いて見せるのに十分な効果を発揮していた。


 その姿にとても安心感を覚えた。


「思っていたより早く会いましたね?もっと先になるかと思っていたので驚きました… あ、あの子には会えましたか?」

 

 ここで言うあの子とはかばんさんのことで間違いないだろう。


「うん、まぁね?それより元気そうでよかった、イエイヌさん寂しがりだから」


「え?えへへ… わかりますか?」


 もちろん会えたのだがこの状況だ、適当にはぐらかして話題を変えると軽く談笑などしてこの時間を過ごすことにした。

 彼女との裏表のない会話でここ数日の荒んだ気持ちもゆるりと癒されていくのがわかる、紅茶も頂いてリラックスできた。


 では本題… というか大事な話がある。

 聞いておかなくてはならない大事なこと。


「あのイエイヌさん?」


「はい?」


 ここで俺が聞くのは俺自身のことでもあり、ここの一番の問題と言っても差し支え無いであろうこと。


「一つ聞いておきたいんだけど、いい?」


「何ですか?」


「ビーストのことなんだけど」


 そう、ビーストの問題だ。

       

「ビースト…」


 小さく呟いた彼女はオッドアイを細め少し険しい表情をしていた、彼女自身何度かビーストの被害に遭っているのかもしれない。

 わざわざよく現れるというところに住んでいるのだから外を歩けば一度くらい遭遇しているだろう。


 それを踏まえた上で俺は尋ねた。


「あの子は確かに暴れ回ってみんなを傷付けているよ?でも何らかの方法でフレンズとして考えたり心で思ったりすることを覚えて、力も上手にコントロールできたらその時は… あの子もみんなと同じフレンズとして受け入れてもらえると思う?」


「ビーストをフレンズとして?」


「うん」


「私は…」


 あの人の時同様に返答に困る質問だろう、だがそれでもやがて考えがまとまったのか、表情は険しいままに少しうつ向いて小さな声で答えてくれた。


 でもその答えは…。


「既に傷つけられた子もたくさんいます… 仮にそんな方法があったとしても、みんながみんな許すとは思えません… 意見が別れて、ビーストはビーストだと毛嫌いする子はいると思います」


「イエイヌさんでも、拒否する?今後の被害を考えたらやっぱり…」


「いえそれは!その… その時が来てみないとなんとも…」


「そっか…」


 目は伏せがちに申し訳なさそうに答えてはいるが。酷く… 悲しい気分になったことをよく覚えている。


 だって父さんも母さんも言ってたんだ、「ケモノはいてもノケモノはいない」って。

 俺の知ってる博士たちだってそう、「だからフレンズって呼ばれてる」って。


 だから…。


 だからすごく優しいはずのイエイヌさんもかばんさんも、拒否の姿勢を見せたのが正直辛かった。

 俺の聞き方のせいでもあるが、かばんさんに至っては始末の方向で考えていることもわかった。


 セルリアンは言うなれば自然災害みたいなものだと思っている。地震や台風に見舞われているようなものだと。

 だが彼女には彼女としての存在があり、それをビーストとして拒否するということは即ち、俺がもし一度でも暴れたらみんなビーストになったと判断して二度と受け入れてくれなくなるってことだ。


 俺は野生解放の時だけ暴れる、それでも一度皆を傷付けてしまえば正気の時でもきっと信じてもらえない。


 嘘ついてるとか、どーせまた暴れるとか思われるだろう。


 だってずっとそうだったもの、わかりきっていたことさ。


 かばんさんも、イエイヌさんでもダメ…。


 じゃあ彼女はどうする?


「じゃあ行くよ、おじゃましました」


「シロさん?どこへ行くんですか?何をするつもりなんですか?」


 やらなければならないことがある、これは俺の為でもあり彼女の為でもありパークの為でもある。


「あの子と話すんだ」


「ビーストと!?やめてください!危険です!」


 既にドアを開け外へ一歩踏み出していた俺の腕をイエイヌさんは掴んで離さなかった。


「平気だよ…?」


 だからその手に優しく俺の手を添え、ゆっくりとフレンズの姿をさらけ出ていく。


「俺も似たようなものだから」


「シロさん?そんなシロさんはビーストなんかじゃ…」


「どうかなそれは… だって俺はこれまでこの力で取り返しのつかないことをしてきたんだよ?」


「え…」


 それを聞いたからなのか、その時俺の腕を掴む彼女の力が緩んでいくのがわかった。


「イエイヌさん?もし彼女と話すことができたなら、その時は一度でいいからこれまでのこと抜きにしてお話聞いてあげてほしいんだ?お願い… じゃあね?」



 俺はそう言い残すとそのまま彼女の手を振り払い森へ駆け出した。

 何度か名前を呼ぶ声が聞こえた、だが決して振り向くまいと走り抜けた。


 出てこい… 出てこい…。


 ビースト… いやかばんさんが言っていた、彼女はアムールトラだ。


 アムールトラのフレンズ。


 俺は君と同じだ、きっと些細なことが切っ掛けで誰かに怪我をさせるだろう。

 外でノケモノとして扱われ、パークでもノケモノとして扱われることになる。


 そしたら君の居場所なんてどこにも無いのかもしれない。


 だから、俺は絶対君のこと諦めない。


 暴れるなら俺が相手になってやる、だから暴れ疲れたら俺の声を聞いてほしい。


 きっと下手くそなだけなんだよ?俺も君もたまたま力の使い方になかなか慣れてなくてさ?だからってみんなを傷付けていい理由にはならないよ?もし仮にフレンズとして生まれ変わっても、これまでしたこと覚えてませんじゃ済まないさ?


 でも。


 だから、一緒に謝ろう?

 なんとかできるんだってみんなに証明してゆっくり受け入れてもらおう?


 傷付けてばかりの人生なんてやめてみんなを助けるヒーローになろう?



 一緒に!




「ウォォォォォオアアアァッ!!!!」




 その時咆哮が森全体に響き渡る。

 

 近くにいるようだ、今度は逃げずに正面からぶつかって対話を試みる。


 言葉は通じないのかもしれない、でも彼女だって生き物だ。

 言葉もなく心を通わせることのできてる生き物なんてたくさんいるじゃないか?


 やるぞ!


「わかんなくても聞いてくれ!アムールトラさん!」


「ウォォォォォオッ!!!!」


 瞬間木の間から勢いよく飛び出してきたアムールトラは俺の前に立ちはだかった。


 今度は俺も出し惜しみなどしない、向こうはビーストだなんて呼ばれるくらい気が狂って真正面から向かってくるのだから。


 なら俺だってリスクなんて気にせずに真っ向からぶつかる。

 俺もフレンズで君もフレンズだ、何も捩じ伏せようだなんて考えてないよ?返事なんていらない、とにかく聞いてくれ。


「ガァァァァァァアアアッ!!!」


 俺はフレンズの姿へ、これ即ち野生解放。

 

 フレンズが獣本来の力を惜しみ無く引き出す時に使う、言わば戦闘モードとでも言うべきだろうか。


 サンドスターが活発になり両目がぼんやりと輝きを放ち、全ての肉体的スペックが元動物由来の上昇を見せる。


 そして俺はこれをしたときだけフレンズの姿になるが、その時内に秘められている野生が文字通り解放されてしまいやがて意識を失うと猛獣のようにただ暴れ回る。


 まさにビーストになる。


 だから一緒なんだ。


 だから彼女との対話は俺が皆に認めてもらうのに必要なこと、避けて通ることはできない!

 

 相手の踏み込みに合わせその手を防いだ。


「俺は敵じゃない!味方だよ!」


 強く組み合った指、その時に気付いた。


 まるでトラその物のような両手、このように変質してしまったのかあるいは猫科の子がしてる手袋みたいなものが何らかの理由でこの形になり、これを外すとヒトの指が見えるのかもしれない。

 鋭い爪が向けられとんでもない力が掛けられている。

 だが、俺の目に入ったのはそれだけではない。


「前から気になってたよその手枷… 何度も何度も暴れてやっと引きちぎれたんだね?」


 ちぎれた鎖に頑丈な手枷、それには無数の傷が入っている。

 

 ヒトはその昔ビーストを操ろうとした、そしてあの鎖はその為の拘束。

 

 かばんさんから聞いた話だ。


 尤も本当かどうかは定かではないし父からもそんな話は聞いていない。

 父も言い出せなくて隠していたのか、パークにもそういう裏があって上の人間のしかもほんの一握りしか知らないことなのかもしれないが。


「誰も守ってくれなかった… そうだろ?君に味方してくれるヒトもフレンズもいなかったから酷い目に逢わされてきたんだ!違うか?」 


「ゥゥゥゥウッ…!」


「俺も… 俺もそうなってたかもしれないんだ?向こうでは俺を使って実験するとすら言われてた、でも父さんが守ってくれた!俺にはまだ家族がいた!最高の親友もいた!だから今日まで生きてこれた!」


 そうだ、彼女は本当の意味で孤独。


 俺のように味方がいたわけではない、言葉も通じずただ怪我をさせるばかり。

 彼女を見るなり皆追い払う為に威嚇して逃げてしまうか、あるいは立ち向かうフレンズもいるだろう。

 

 誰も会話しようだなんて思わなかったはずだ。


「ヴゥ!!!」


「くっ… くぅ!さすがに強いな!でも負けるもんか!」


 しばらく続いていた組み合いだったが幸い俺の半端な力でも意外に対応できていた。

 その時、それを部が悪いと感じてたのか彼女はドンと手を弾き後ろへ跳んで距離をとる。


「ゥゥゥゥウッ…!」


 威嚇している、俺が力を見せながらも反撃してこないから混乱しているのかもしれない。

 まさか、あるいは彼女に言葉が通じているのでは?俺の言ったことを何一つ聞いていないってわけでもなさそうな気がしてくる。


 証拠に距離を取りながらもこちらの様子を伺うように睨み付けているだけだし、不利だと感じているとしたら既に逃げているはずだ。


 よし!


「恐くないよ?君がどういう状態なのか俺にはわからないけど… 俺も君みたいに不器用でさ?この姿で長くいるとみんなを怪我させるくらい暴れてしまうんだ?」


 大丈夫、伝わっている。


 俺は味方だよ?ってちゃんと教えてあげればきっとわかってくれる。


 友達にだってなれる!


「だから一緒に練習しよう?そしたらきっと上手にコントロールできるよ?二人で苦手なところも補ってさ?話せないなら俺が教えてあげるよ?慣れてきたらいつかみんなにも許してもらって、そしてフレンズに… いやフレンズを守れるくらいになろうよ!」


 いつか憧れたヒーローに、二人で…。


 俺はゆっくりと手を差し伸べた。

 友達を切り裂く為の爪ではない、強い力はみんなを守るために使うんだ。



「行こう?大丈夫、俺がついてるよ?友達になろう?アムールトラさん?」



 握手の為の右手を伸ばすと、風で葉が揺れる音が聞こえるほどに彼女は静かになった。

 

 獣のように四つん這いになり、ゆっくりと… ゆっくりと寄ってくる。


 


 伝わった…?


 やった… できたよ母さん?俺にも誰かを救うことができたんだ!




 あと1メートルというとこまで彼女が来た時、スッと立ち上がり背中をやや丸め、だらりと腕を下げたままこちらを見ていた。


 牙を見せ小さく唸っているが、とりあえず襲ってくる気配はない。

 

「握手だよ?さっきみたいなのじゃなくて、優しく手を握るんだ?」



 その手に触れようと一歩踏み出した。



 だが…。





「ウォォォォォオアアアァッ!!!!」




 

 無情にも、瞬間雄叫びを挙げた彼女は勢いよくその手を振り下ろし俺を地面に叩きつけたのだ。


「がっ…!はっ…!?なん… で?」


 その時脳裏にあの人の言葉が何度も鳴り響いていた。



『どうにもならないことも… あるんだよ?』

 


 そんな… そんなのわかってるけど…!




「ガァァァァァァアアアッ!!!クソォォォ!!!!!!」




 その時、ぷっつりと何かが切れてしまい目の前が真っ暗になった。








「イエイヌさん!どっち!」


「こっちです!匂いが続いています!ビーストの鳴き声がさっきから何回も… シロさん?なぜそんな無謀な…」


 飛び出したシロを追いかばんは博士と助手に留守を任せるとすぐに支度をしてバスを走らせていた。

 ビーストの話の後ならと、時間に合わせたビーストの出没エリアを回りやがて例の森へ。

 そこで家の前でソワソワとしていたイエイヌと合流し、共にシロの行方を追っていた。




「ガァァァァァァァアアアッ!!!!」

「ウォォォォォオアアアァッ!!!!」



 二つの咆哮、同時に木々が揺れる音や地面に叩き付けられるような音がする。


「今のは… まさか!?」


「いけない!早く助けないと!」


 急ぎ二人が現場に向かったとき、そこには我を忘れビーストに猛攻を加える白き獣の姿があった。


 追い討ちに追い討ちを重ねビーストを追い込んでいく、我を忘れ獣の如く彼が戦うことはあったが、これほど怒りに満ちた戦いをしたのはこれが初めてだろう。


「ウァァウッ!」


 劣勢に追い込まれたまらず背を向けて逃げていくビースト、それを逃がさんと走り出す彼を二人は見逃さなかった。


「いけない!シロくんやめて!もうビーストに戦う気はない!」


「やめてください!もう終わったんですよシロさん!」


 二人はバスで進行を防ぐとすぐに彼を取り押さえたが、ビースト同様に力の限り暴れているために押さえ付けることができない。


 ホワイトライオン対ヒトとイエイヌ。


 二人掛かりでも分が悪いことに変わりはないのである。


「グァァァァウウウ!!!」


「す、すごい力です! …ふぁ!?」


「イエイヌさん!?シロくん聞いて!」


 イエイヌを片手で投げ飛ばし、かばんも振り払おうと暴れる彼。


 それでも尚懸命に声を掛けるかばんには、強い決意がある。



 大丈夫、私は君を一人になんかしない。

 決した見捨てたりしない。

 だから戻ってきて?

 もう一度話をして?

 また他愛ない話で笑って…?


「ルァァァァァアゥッ!!!」


「シロくんあなたはビーストじゃない!料理上手で優しくて!ほんのちょっとだけ臆病だけど頼りにもなる!私達の友達フレンズ!何か悩みがあるなら私が!私達が力になる!君の為にできることをしたいの!」


 決死の叫びの直後だ、彼は先ほど自分に起きたのと同じように、かばんを無情にも地面に叩きつけた。


「アッ… !?」


「かばんさん!?」


「まっ… て!平気!来ちゃダメ!」


 それでも尚、駆け寄ろうとしたイエイヌを止め爪で傷つき血を流す肩を押さえた。


「ルルル…!」


 とどめを差すつもりなのか、彼はかばんの方を向き直す。

 牙を剥き出しに、ビーストさながらに背中を丸め両腕をだらりと下ろしている。


 その目の野生の輝きはまだ消えない。


「シロさんやめて!?かばんさん逃げましょう!?」


「シロくん…?ごめん… ね?気付いてあげられなくて?」


 彼は追撃をやめないのだろうし、かばんは逃げられないだろう。


「ガァァァァァァアアアッ!」


 踏み込み、襲い掛かる。


 が、かばんも力を振り絞り立ち上がったその時…。









 何か暖かいものに包まれている感覚を覚えた。


 さっきまで辛くて悲しくて仕方なかったのに、やけに安心した。


 すぐに声がした…。



「よしよし… もう恐くないよ?ここにいるからね?」



 優しく髪と耳を撫でながらそう声を掛けてくれる人。

 こんなのは母以来ではないだろうか?とそう感じた気がする。


 やがて視界がハッキリとしてくると、俺はそれの正体を知る。



「かばん… さん?」


「良かった、戻ったんだねシロくん?」



 抱きしめてくれていたのはかばんさんだった、俺が不信感を抱き冷たい人だと突っぱねてしまった人。

 彼女にもいろいろ考えがあったはずなのに、それが自分の意見と違ったからってそれだけで押し付けるみたいに反論してしまったんだ。


 ドロ… となにか温かい物に触れた、彼女の右肩だ。


「あ… あぁ… 俺、俺また…!?」


 赤く染まる手のひらを見て、トラウマが脳裏に甦る。


「大丈夫、大丈夫だから?ね?」


「全然大丈夫じゃない!俺… 俺なんてことを…」


「でもちゃんと戻ってきてくれた、凄いよ?良くできたね?」


 かばんさんは、下手したら俺に殺され兼ねなかったのに笑って許してくれた。


 それだけじゃない、俺が責任を感じ心の傷が残らないように「平気だよ?」って痛みを堪え抱きしめ続けてくれた。


 こんな… こんな人が冷たいって?


 こんなに暖かいのに…。


 ただ俺がバカで、ガキだったってだけじゃないのか?










 その後、かなり塞ぎ込みはしたがおかげで安心はできていて、イエイヌさんも俺が戻ったことを喜んでくれて乱暴したのも気にしてない様子。

 それから一度イエイヌさん宅でかばんさんの手当てをしてから家に帰ることになった。


「シロくん?帰ろうか?」


「あの俺… 本当にごめんなさい」


「許してあげない!」


 腰に手を当てぐっと俺の顔を覗き込むかばんさん、顔こそそれほど怒っていないが…。


 まぁ仕方ないだろう。


「帰ったら美味しいご飯を作ること!そしたら許してあげる?」


「え… え?」


「気にしないでなんて言わないけど、これで1つ学んだでしょ?本当に辛い時は頼ってもいいんだよ?協力して乗り越えよう?」


「はい…」


 

 野生解放で疲れていたせいか、俺はバスに揺られて眠ってしまった。


 その時夢を見たんだ…。


 なんで俺と母は、父や他の皆とは違うんだ?って聞く夢だったと思う。


 でも俺は母さんとすら別の存在だった。


 だからあんな夢を見たのかもしれないし、かばんさんやイエイヌさんが優しかったから「些細な事だって」父に言われるところの夢だったのかもしれない。




 


「あ…」 


 目が覚めた、酷いな… 涙で顔がグシャグシャだ。


 目覚めるとそこは図書館のいつもの寝床。

 外ではツチノコちゃんとスナネコちゃんが野菜を切っている、どうやら俺の手伝いをしてくれているようだった。


 寝惚けてボーッとしてたけど、なんだか一人じゃないんだなって安心もした。




 その翌日はいよいよパーティーだ、いろんなフレンズが俺を一目見ながら料理にありつこうと集まってきた。

 そうして皆様方が俺が必死こいてだす即興料理を待って厨房に固まっている時だ、なにかが図書館の敷地に入ってきた。


 あれには見覚えがある、そうだあれは確かジャパリバスだ。


 フレンズを数人乗せたバスには皆に愛される有名人が乗っていた。



 ヒトのフレンズである彼女。



 そんな彼女はやがて俺の元へ挨拶にきた。



 俺は彼女が近づくにつれ急に身なりが気になり始めた…。



 そして彼女の名を名乗る。


「かばんです、シロさん… ですよね?初めまして」


「あ、えっと…はい、その… シロです、よろしくね?」



 彼女を見ると、胸が苦しくなるのはなぜだろう?


 目も上手く合わせられず、言葉もしどろもどろになるのはなぜだろう?



 同時に…。



 彼女の姿にどこか安心感を覚えたのはなぜだろう?





 おわり

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