第19話 凡ミス

 彼の手を引いて、街中を進んでいく。特に目的地のない、寄り道だけれど。

 こんなことで彼の心を救うことができるなんて、そこまで自惚れてはいない。他の誰が否定しても、彼が彼の人生を間違いだと思ってしまうのだから。

 だから、いくら「間違えてない」なんて表面だけの言葉を並べても、彼は救えない。


 でも、普段生真面目過ぎるひとが、一度くらい学校をサボって遊びに行くくらいは許されるのだと――何もかもが正しくなくてもいいのだと、分かってくれるかもしれない。


 それを期待して街に連れ出してみたのだけれど――


「…………」

「…………」

「ここかな……」

「…………」

「よしよし――来たっ!」

「……おぉー」

「はぁー……けっこう難しいね、これ」


 そう言って、彼はしゃがみ込んで――景品のスナック菓子の袋詰めを、筐体から取り出した。そして、彼から預かった袋には既に複数の筐体から獲得した景品が詰め込まれている。


 いや、うん。生駒くん、クレーンゲーム上手すぎる。

 初めて遊んだとか言う癖に無双し過ぎじゃないだろうか。ここまで大体2プレイ1ゲットの割合。どうもさっきから店員さんが集まってきているのは気のせいじゃいと思う。


「……えっと、どうかした?」

「いや、どうかしたっていうか……」


 ほら、こういうのって、お互いにいくらやっても全然取れなくて、でも百円玉と時間の浪費それ自体を楽しむものだと思うのだ。だと言うのに、さっきからこの通り。

 三つ目の人格でも持ち出したのかと思うほど、いつものどこか抜けている生駒くんとは思えない驚異的な集中力と技術でひょいひょい持ち上げるものだから、こう、高校生らしいいちゃつきというかなんというか……とにかく、そういうものの介在する余地が無さ過ぎる。べ、別にいちゃつきたいとかいう話じゃなくてね!?


 というか、彼の天然ぶりにツッコミを入れる担当のナナキは何で何も言わないのやら……。


 店員さんの警戒度の高まりに耐え兼ね、つい生駒くんに声をかける。


「ねぇ生駒くん、あんまり取り過ぎるとお店に悪いから、そろそろ移動しない? ほら、お昼も近いし」

「え? ……あ、うん、そうだね、そうしようか。何か食べたいものとか――あれ」

「どうかした? 何か――あ」


 生駒くんの視線の先を見やると、そこにはパーカーとフードで隠しているものの、明らかに制服姿の少年が、銃型のコントローラーで、一台あたり同時に二人がプレイできるタイプのシューティングゲームに勤しんでいた。

 ……こう、制服にも横顔にも見覚えがあるというか、なんというか……。


 なんて若干の戸惑いを抱えていると、店内ランキング2位を更新を意味する表示を画面に映してゲーム終了した彼が、視線を感じたのかこちらに振り返る。

 何となく話しかけにくいというか、あまり見てはいけないものを見てしまった感というか……0.5秒前までこのまま立ち去ろうとしていたわたしの目論見は、振り向いた彼とうっかり目を合わせてしまったせいで、次とこれからのプランが瓦解してしまったというか。

 まぁ、有り得ない話ではないんだけど、正直想定してなかったというか……。


「……驚いた。君らって、学校サボってまで遊びまわれる性質だったんだ」

「あ、あはは……えーっと、奇遇だね、佐橋君……」


 問.学校を断りなく休んで男の子と遊んでる最中に、同じく断りなく休んでいると思わしきクラスメイトと遭遇してしまいました。

 この場合、適切な行動は一体何でしょうか。20文字以内で答えなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る