僅かな自由

神山 寝小

ビールと猶予

私にとって19歳とはとても忙しい1年であった。そんな思い出の多い19という年齢もあと5分後には一つ数字が増え変わってしまう。

20歳は成人だ。人生の一大イベントと言っても過言にならないほど『成人』という言葉の意味は大きい。15歳から16歳だとか22歳から23歳等とは格が違う。

「飲酒」「喫煙」「ギャンブル」等々まだまだたくさんあるが一般的にこれらが解禁されるようになるのも20歳から、故に少年少女らは楽しみにそれらを待つ。

実際私も高校生のときまでは大人に対して何らかの憧れの様なものを持っていた。お酒もタバコも経験してみたかったし早く成人にならないかと待ち削がれた。

そんな思いは今は全くない。別に大人が嫌だとか子供が好きなわけではない。自分が成人したときの損益を考えると圧倒的にリスクの方に軍杯が上がるのだ。

「誕生日おめでとう俺」

私は小さく呟いた。時間は待ってくれない、いろいろと考えているうちに5分は簡単に過ぎていた。事前に友人から買ってもらっておいた銀色のラベルのビールを「カシュ」と音をたててあけ、一気に呷る。口の中に広がる大人チックな苦さに思わず唸る。

「さて、これからが本番だな」

大人となったことを噛み締めつつ私は決意した。もう保証はない。家庭裁判所で済んだものが検察官持ちになってしまった。

突然どこからとなくサイレンが聞こえてきた。

すぐに荷物をまとめ急いで走る。私は犯罪者なのだという思いが甦る。急に目の前に警官らしき男が現れリボルバーの銃口をこちらに向けてくる。

「手を頭の上に組んでこちらに少しずつ近づいてこい」

流石に銃を向けられて逃げられるほど勇気のない私は彼の言った通りに頭で手を組み少しずつ近づいた。彼の目の前まで行くと私の名前と傷害罪の容疑で0時05分逮捕と淡々と言われ手錠をかけられた。

結局私にとって自由であった20歳は一本のビールと5分間の逃亡で幕を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僅かな自由 神山 寝小 @N_Kamiyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ