第4話 意外な人物

森を移動するユリアは、一路イースの村に向かっていた。家を出てあと半分の距離まで来ていた。


「ここまで来れば大丈夫かしら?」



ユリアは来た道を振り返り気配を探る。人の気配は無く小動物が僅かに居る程度だった。


「じゃあここで軽く食事をしましょう」


安全を確認してから大きな木の根本に座ると、背負っていたリュックから干し肉と、飲み物を取り出して食事を始めた。


「うん!美味しい……流石母さんのレシピだわ……そう母さんと言えばあの魔法は何だったのかしら?母さんには教わっては無いのよね……無詠唱が使えれば誰でも使えるのかしら」


そんな事を考え食事をしてると、ユリアは気配を感じたのだ。それも後方ではなくて、今ユリアが向かっているイースの村の方からだ。


「おかしいわね?あの村の人間がこの森に入ることなど、珍しい事だわ……て事は、盗賊かしら……」



イースの村の住民は、この森を恐れているためめったに森には入らない。そのためこの森で取れる薬草などは、ユリアが定期的に採集して物々交換をしていた。



ユリアは気配を消し身を隠して、今こちらに向かってきている人間を確認していた。



(動きが素人じゃないわね?何者かしら……)



ユリアの肉眼で確認出来る距離に現れたのは、身長180程の体格の良い四十前後の男性だった。


(あれは……いや、あの男の人は……でも何故?この森に)



現れた男をユリア知っていた、とういうより今その男に会いに行こうとしていたのだ。



「村長!何故森に来たのですか?」



姿を隠していたユリアは、見知った顔が現れたので姿を現した。



「おっ!なんだユリアか、ビックリするじゃないか」



村長と呼ばれた男は、突然目の前に現れたユリアに驚いた。


「そんな事よりどうして森の中に?」


「そんな事……まぁいい、いやお前が盗賊が居ると言っていたから、確認しようと向かう途中だったんだよ」



この男今は村長だが、一昔前は冒険者として活動をしていた。冒険者ランクはDランクだった。



「でも一人で行くのは危険ですわよ?」


「ああ流石に俺一人じゃ無理だ、だから先ずは俺が確認してからとおもってな」


「そうなのですか?」


「それよりお前の方こそ、村に来るにはまだ早いんじゃないか?確かこの前来たばかりじゃないか?」



ユリアは村長の質問に一瞬戸惑ったが、これまでの事を打ち明けた。すると村長は少し俯き考えてからユリアに話し掛けた。


「そうか……それは災難だったな……それでお前はこれからどうするんだ?」



「そうね……とりあえずイースの村に行くつもり……そして王国に報告しに行こうと思うわ!」



「そうか……」



ユリアは全てを話してはいない。無詠唱の魔法やアポスを殺した魔法の事は、流石に言わない方が良いと考えたのだ。



(流石に言わない方が良いわよね?騒がれると面倒だわ……それにしても……この男がもっと早く行動してさえいれば……私があんな目に遭わずに済んだのに!本当に使えない男!)



「それじゃあ……私はこれから村に行くわね」



ユリアは村長に別れを告げ、イースの村向かう事にした。






「たくっアポスの野郎……昼で交代だって言ったろう!どうせまたやり過ぎで時間忘れてやがるな!」



ピサロはアポスが交代の時間に戻って来ないので、ユリアの家に来たのだが、人の気配を感じない事に嫌な予感がした。


ドカドカ


「おい!アポス!何処だ」


ピサロはユリアの部屋に勢いよく入ると、中を見回す、そしてベットの上でシーツ掛け寝ている、アポスを見つける。


「おい起きろ!アポス!あの女はどうした?」


ピサロはシーツを剥ぎ取って、アポスを起こす。だがアポスは反応は無い。ピサロはまさかと思い首もとに手を当てると、脈を確かめる。


「おい……嘘だろう……アポスお前……クソ!あの女が居ないとなると疑い無いな……」






ユリアは森の中を走っていた。そんなまさかと思いながら、必死になっていた。



「まさかあの男が……さっきまで全然気配を感じなかったのに、でも間違いないわあの男気配だわ……兎に角急ぎましょう」



ピサロはユリアを補足しながら、追い掛けていた。ただ追いかけてるだけでは無く、上手く弓で攻撃し誘導しながら追い掛けている。



(不味いわね……少しずつ、村の方角からずれてるわ。でもなんで直接攻撃して来ないのかしら……)



ガサガサ


ユリアの進行方向から気配がした。


「しまった!後ろばかり気にし過ぎたわ!っまさか仲間が居たの?」



「こっちだ!」


目の前に現れたのは、意外な人物だった。


「そ、村長!何故!」


そう目の前に現れたのは、村長だった。


「良いからこっちだ!」


村長が前を走り、そのあとをユリアが追いかける。そして大きな木の後ろに隠れ気配を消す。


「あれがお前の言っていた盗賊なのか?」


「ええ……そうよあの男は、ピサロという盗賊よ……頭の回転が早く、慎重な奴よ」



「確かに絶妙な距離で追いかけてくるな。斥候としての腕は確かだ……武器は短弓……おそらく決定力は無いから少しずつ、体力を削り追い詰める戦いを得意としてるんだろうな」


「なる程、だから……接近してこないのね?」


「ああそうだ……そこでだ俺に考えがある。おそらく奴はこのままの距離を保ちつつ、攻撃してくるだろう……そして俺達に戦い形がバレてる事も分かっている筈だ」



村長はユリアに驚く作戦を提案してきた。その作戦とは、向こうから近づいて来ないのならば、こちらから近づき攻撃をする。しかもユリアが近づき攻撃をしつつ、相手を誘い出した所を隠れていた村長が、背後から近づき殺すと言うのだ。



「本当に成功するのかしら?そんな簡単にいうけれど?」


「ああ、大丈夫だ彼奴はよほどお前を殺したいらしい……だから、お前が前に出れば彼奴も出てくるだろう」



ユリアは村長の話しを聞き入れることにした。考えると村長の作戦は一理あると思った。



「じゃあ作戦決行するわ!」


ユリアは村長に合図をすると、ピサロに近づく為に気配を消し、森の中に入って行った。



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