第5話 クエスト

ラッヘンカッツェに戻るとサクヤとクリスそれにロックが難しい顔をして顔を突き合わせていた。


「おっ、装備一新だね」

「うん。それよりリュークさん、アリシアとミナは?」

「狩りのクエストに行ってるよ」


アリシアが弓で射止めた獲物をミナが取りに行って嬉しそうに尻尾を振っている絵が浮かんできた。


「アスハは変な想像をしないの」

「リュークさんだって。で、どうしたの。あの3人?」

「まぁね。手当は弾むからって、今日は僕がクエストをお願いしたんだけど」

「そんなに難しいクエストなの?」


リュークさんに聞くと首を横に振りすこし困った顔をした。

簡単なクエストで手当を弾むなんてラッキーだと思うけど。取り敢えず3人に聞いてみよう。


「3人は何を難しそうな顔をしているの?」

「初心者でもできる掃除のクエストなのにさ。クリスとロックが尻込みをして」

「だって、なぁ、ロック」

「どの世界でもローリスク・ハイリターンなんて。リュークを信用しない訳じゃないんだが」


確かにロックの言うとおりローリスク・ハイリターンなんて裏が有りそうだけどリュークさんのクエストなら心配無用に決まっている。

愚図っている男どもを連れて表に出ると馬車が用意されていた。

剣の世界に車なんてある筈もなく少し離れた場所の移動には馬が使われる。

確かにここは剣の世界だけどあくまでゲームでHPがゼロになってからの蘇生アイテムは無いけれどポーションで回復できたり色々な水晶のような石で様々な事が出来たりする。



「そう言えばリュークさんのクエストって何なの?」

「城外の北西の外れに森に囲まれた湖畔に大きなログハウスがあるの知ってるでしょ。あそこの庭掃除だよ」

「も、もしかして蒼黒の森……」


サクヤにクエストの説明を受けて気が重くなってきた。

アークラインに居れば必ず耳にする場所で賊でもモンスターでもない何かが出ると言う噂の深い森で。

湖の真ん中の小さな島には木々が生えていて幻想的なんて言われたりするけど普段は誰も近づかない。

そんな場所に馬車で向かっていると辺りが暗くなってきて霧雨が降ってきた。


「おいおい、勘弁してくれよ」

「クリスは怖いんだ」

「アスハちゃんは何を言ってるかな。俺は雨が嫌だって」


馬車を操っているクリスが苦笑いをしてサクヤが腹を抱えて笑っているのにロックは石像みたいになっている。

しばらくすると馬車は鬱蒼とした原生林のような森に入っていく。

まるであの世に続く先の見えないトンネルに吸い込まれるように。

森の中は深い青紫色の淀んだ空気に包まれていて木々の間には黄色や白い花が咲いているらしく怪しげに浮かび上がっていて更に近寄りづらい雰囲気を醸し出していた。


「お前が深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いている」

「ろ、ロックは何を言ってくれるのかな」

「ロックもクリスも馬鹿なことを言ってないで着いたよ」


馬車を降りるとサクヤが馬の顔を撫でていて木の柵に囲まれた2階建てのログハウスが。



ログハウスには蔦が絡まり背丈ほどの雑草に囲まれ入るものを拒んでいるようにも見える。

そして一瞬だけど2階のテラスに白い女の子が居たような気がしたけれど気のせいだろう。


「雨が強くなる前にさっさと終わらせよう」

「そうだね」


サクヤがハミングしながら長刀で雑草を薙ぎ払っていく。

名工シュミットさんの長刀も形無しだ。

この世界ではプレーヤーハウスを購入してしばらく使用していないとこんな状態になってしまう。

多分ここはリュークさんの知り合いの家なのだろう。


「クリスもロックも賃金分働いてね」

「よっしゃ。いっちょ、やるか」


サクヤが長刀でロックはリュークさんに持たされた取っ手が付いている大鎌で草を刈っていき。

二人が刈れないような狭い場所や隅の草をクリスと手分けしてナイフで刈る。

表の草は刈り終わると裏手からサクヤの声がした。


「うわ、古井戸があるよ」

「へぇ、でも少し前まで使われていたんじゃない木桶も傷んでないし」

「そうだ、少し後ろを向いてて」


意味が分からないけど取り敢えずサクヤに背を向けるとクリスとロックも不思議そうな顔をしてサクヤに背を向けた。


「ねぇ、サクヤ? ヒッ!」


物音一つしないので恐る恐る振り向くと長い黒髪の間から虚ろな目が。

蒼黒の森に悲鳴が響き渡り無数の鳥が激しい羽音を立てながら飛び立っていく。。

逃げ出しながら後ろを見ると長い髪を振り乱した女が手足を広げて四つん這いのまま追いかけてきた。

何とか馬車まで逃げ出すとサクヤの笑い声が。


「もう、サクヤは脅かさないでよ」

「便利だね。この世界って」


サクヤが右手でメインメニューを操作しながら髪の色を元に戻している。


「寿命が百年縮まった~」

「クリスは大げさだな」

「それを言うならアスハ。ここに顔面蒼白の大男がいるけど」


後ろを見るとロックが肩で息をしているのを見て吹き出してしまった。


「俺にだって苦手なものがあるんだ。とっとと終わらせて帰るぞ」

「モンスターは怖くないくせに。大の大人が聞いて呆れるぜ」


クリスがロックに小突かれながら裏庭に向かっていく。



絡みついた蔦も取り払い庭も綺麗になったのに周りの木々のせいかここに住みたい

かと聞かれれば全身で拒否するだろう。


「そう言えば家の中ってどうなっているんだろう」

「だ、駄目だよ。アスハ」

「どうして駄目なの? 少しくらい良いじゃん」

「このクエストの条件の一つが決して家の中を覗かないことってリュークさんが怖い顔して言ってたんだから」


なんだか納得は出来ないけれどリュークさんが出した条件は絶対だから従うしか無い。

それにこんな場所に二度と来ないはずだから。


「でもさ、2階のテラスに白い女の子が居た気がするんだけど」

「「「…………」」」


3人の息を呑む音が聞こえロックに抱え上げられてサクヤと一緒に荷台に放り込まれるとクリスが涙目で飛び乗ってきた。


「ロック、早く出せ!」

「もう、私達は荷物じゃないんだからね」


そんな私の声も届かず。ロックが鞭を振るうと有り得ない速さで馬車が走り出した。

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