第4話 アグニ・スミス
簡単に夕飯を済ませシャワーを浴びてからヘッドセットを付けてベッドに横になりログインする。
目を開けるとギルドの二階の自分の部屋の天井が見え起き上がって下に降りた。
「おはようかな? アスハ。今日はどうしたの。まだ誰も来てないけど」
「うん、たまには装備の手入れもしないとね」
「いってらしゃい」
ギルドを出ると今日も広場は賑わっていて噴水の前にあるゲートに向かう。
ゲートと言っても一段上がった舞台のような場所に石造りの二本の柱が立てられその間に石でアーチが掛かっていて柱にはルーン文字の様な文字が書かれている簡素なもので。
RPGで言えば転移門。この世界ではゲートと呼ばれていて、ゲートを使えば他のMMORPGにも行くことが可能だけど。
他の世界に移った際は初心者と変わらない状態からのスタートになってしまう。
ただしステータスだけは自動調整されて元が強ければ別の世界でも強いステータスになる。
装備も一から揃えなければならないがバンクシステムと言う金融みたいなシステムが有り所持金はある程度借りることが出来て強いステータスがあれば直ぐに返済することも可能だ。
個人的な貸し借りも出来るがトラブルを防ぐために低めの上限が設定されていた。
アーチ状のゲートの下で行き先を告げれば転移できる。
行き先のリュクサンブールは職人が集まっている街で私の頭上には石造りの四角いゲートが見える。
リュクサンブールは小高い丘の上にある領主の館を中心に広がる重厚な石造りの街並みが広がっていて至る場所で露天商が武具を売っている。
石造りの家は1階が店になっていてウインドウの中には剣や盾が飾られていて2階から上が住居になっているのが普通だ。
この街には大小様々な店がありギルドを組み大量生産している所もあるけれど人気がある店はやはり腕の良い鍛冶職人がいる店だろう。
これから向かおうとしているのはメルテルト地区にあるお店で。
しばらく歩くとアグニ・スミスと書かれた木の看板が見えてきた。
行き交う人がウインドウに目を留めている横にある木製のドアを開けると店内には数人のお客さんが品定めしている。
「いらっしゃい、アスハちゃん」
「ご無沙汰してます。カスミさん」
カスミさんはお姉さん的な人でモスグリーンのワンピースに帆布で作られたポケットが沢山あるエプロンをしている。
ブラウンのキレイな髪が魅力的なこの店の看板娘らしく、鍛冶としての腕前も確かで剣の腕前も凄いと聞いたことがある。
「下ですか?」
「うん」
低めのカウンターの脇の工房に続くドアに手を掛けるとお客からどよめきが上がった。
その理由としてはこの店がリュクサンブールの中でも群を抜いて人気があるお店で工房に向かうという事は懇意にしている証だからで。
リュークさんの紹介だからこんな事が出来るのだけどリュークさんのギルドに入らなければ私もお客さんと同じ立場かウインドウを眺めるだけだったかも知れない。
「お、来たな」
「シュミットさんお久しぶりです」
均整が採れた身体にタンクトップとゆったりとした煉瓦色のズボンを履いてカスミさんと同じようなエプロンを付けて頭にはタオルを巻いて色付きのフェイスシールドを付けて。
フェイスシールドの下からあごひげが見え優しそうな瞳をしているのがシュミットさん。
私達のパーティーの装備は全てシュミットさんが作ってくれたものだ。
お店のアグニは名前かと思っていたら火の神と言う称号みたいなものなんだって。
人気があるはずだ。
「ほれ、剣と装備を出しな」
「う、うん」
台の上に防具と剣を出すとシュミットさんが剣を鞘から抜いて……
折れた剣が何本も入っている木箱に投げ込んでしまった。
「シュ、シュミットさん。な、何をするんですか!」
「女の子に怪我なんてさせたら女神に怒られるかんね。レベルが上がる度に剣のレベルも上げていかなきゃ。そろそろ来る頃だと思って新しい剣を打っておいたさ」
「でも……」
あの剣は一番最初めにカスミさんに作ってもらった剣で思い入れがあったのに。
それでも名工とまで言われているシュミットさんが言うのだから間違っていないのだろうと思い新しい剣を手にとって。
「す、凄い。しっくり来るというか」
「オーダーメイドだかんね」
シュミットさんの嬉しそうな顔を見て私達がどれだけ恵まれているかが分かった。
はじまりの広場で途方にくれていたらリュークさんに声を掛けられて簡単なクエストを何度もクリアして所持金が溜まった頃にシュミットさんの店を紹介してもらえて。
カスミさんの剣だって私の所持金じゃ買えなかった筈なのに。
「遠慮なんかしたら駄目だかんね。リュークのとこからは質の良い材料を採りに言ってもらっているんだからよ」
「ありがとうございます」
今は感謝することしか出来ない。
カスミさんと少しだけ話をして店を後にする。
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