第2話 ログアウト
私達が登録しているギルドは街の広場に面しているギルドの寄り合い所の一角にあり。
ギルドは『ラッヘンカッツェ』と言う名前で何でも屋と言ったところかな。
モンスターの退治を頼まれれば出向いたり、ダンジョンのボス攻略のパーティーに加わったりすることもあるが。
少しだけ入手困難なアイテムの入手などが殆どだ。
「ご苦労様。アスハ」
「もう、無理」
木製のカウンターで帰ってきた私たちに微笑みかけて労をねぎらっているのがギルド『ラッヘンカッツェ』の創設者であるリュークさん。
中性的な顔立ちをしていて黒い衣装を纏った神父さんの様な出で立ちをしている。
多分だけどアギルさんもエルフだと思う。
いつも穏やかで誰にも優しく怒った所は見たことがない。
「アスハ、今日はこれからどうする?」
「部屋に戻ったら今日は落ちるけど」
「ミナは?」
「サクヤさんはどうするんですか?」
私にこれからの予定を聞いてきたのがサクヤ。
黒のショートパンツに胸にはさらしを巻いて黒いロングベストを羽織った露出狂みたいな格好でブレストプレートとグリーヴと呼ばれるすね当てを装着していて。
男勝りで薙刀に似た長刀使いの綺麗な水色のポニーテールが救いの猫耳と細身の尻尾を持っている獣人(猫系)
獣人は少しだけ俊敏性に長けている。
ミナは一言で言えば小柄なゴスロリ少女で赤いゴスロリ服を身にまといピンク色のミディアムヘアでアイドルのように人気があるが。
戦闘となった場合は二刀流で真っ黒な大型のサバイバルナイフの様なダガーを使用し相手を切り刻む。
普段は元気いっぱいで見た目通り子供っぽいところがある、ミナも獣人(猫系)。
二人の横で黙々と飲み物を飲んでいるのがアリシア。
女の子の中では長身で黒髪を三つ編みにしている酋長の娘というかワンショルダーのフリンジがあしらわれているキャメル色のミニワンピを着ていて。
ブレスプレートにガントレットとグリーヴを装備して色とりどりの刺繍が施されたポンチョを羽織っているロングボウ使い。
いつも大人しいというか口数が少なく寡黙なシルフ。
シルフはエルフと殆ど変わりないけれど飛び道具が得意だ。
依頼にもよるけれど大体この3人と行動することが多い。
「今日は楽勝だったぜ。お、良い香りがすると思えばお前らも帰還してたんか」
ギルドのドアを勢い良く開けて冷ややかな視線を集めているのがクリスヒースで通称クリス。
侍だか忍者なのか分からない格好をして軽装の赤と黒の甲冑を付けて腰には太刀が差してある。
長い髪を一つに纏め時代劇オタクでムードメーカー的な存在。
私達より歳上なのに節操がないサラマンダー。
サラマンダーは腕や足に鱗があり身体の耐久値が少しだけ高い。
そんなクリスの後ろで呆れた顔をしているのがロックブラウド通称ロック。
フルアーマーも物ともしないような褐色の肉体を活かし槍と斧が融合した大型のハルベルトを武器としている。
短い髪にあごひげを生やし人懐っこい顔つきでヒースと違い沈着冷静で頼れるタフガイだけど何故か獣人の犬系で犬耳とモフモフの尻尾が。
本人曰く、迷っていたらランダムになっていたらしい。
「乳ばっかり見てないで早く精算しろ」
「へいへい。しかしサクヤは良いもの持っているのに勿体ねえな。マシュマロモドキをさらしで押しつぶしたら可愛そうだろうよ」
「う、うるさい。俺の勝手だろう」
サクヤが胸を隠すようにして涙目になっていてリュークさんですら呆れた顔をしている。
依頼の内容によってはクリスやロックとも行動をともにすることがある。
それはリュークさんが判断した危険度によってパーティーが構成されるから。
仲が悪いわけじゃなく言いたいことを言い合えるからこそ時には厳しいことも言い冗談も言い合えるのだけど。
「はいはい、それじゃ今回の報酬はサクヤちゃんの精神的苦痛の慰謝料を差し引いた」
「おいおい、リュークさん。勘弁してくれよ」
「さて、クリス君はどうするのかな?」
ロックが困惑しリュークさんが提言する前にクリスは土下座をしていた。
「武士なら腹切りをして詫びろ」
「それだけは勘弁。武士じゃなくてマニアだから」
ヒースが懇願する姿を見て笑いが溢れ彼自身もホッとして照れ隠し気味に頭を掻いている。
当然、危険が伴うほど報酬は高くなるけれど危険度が低いからと言って簡単にクリア出来るとは限らない。
「で、アスハ達の今日のクエストは何だったんだ」
「ヴァルト村でクーンとヘアの捕獲だよ。すばしっこいし畑は荒らせないしで。ヘトヘト」
「それはご苦労だな。村人にしてみれば作物を荒らす動物がいなくなって肉と革が手に入るのだから一石二鳥だけどな」
「まぁ、その代わりにヴァルトの森で採れたワイルドベリーで作ったエールをもらったけどね」
クーンはアナグマのような生き物でヘアは小型の鹿で動きが早い。
それとヴァルトのエールは美味しいと人気がある。
何故だか私以外は妙に盛り上がっていて嫌な予感しかしない。
いつの間にか酒盛りが始まってしまった。
酒盛りと言っても酔うことはなく気分がいくらか抑揚して、その時の感情が表に出やすくなるだけ。
それでも私は酒盛りが苦手で。
「それじゃ、私は」
「アスハ、一緒に飲もうよ」
「付き合い悪すぎです、アスハさんは」
サクヤが私の腕を掴んでミナは頬を膨らませて猛抗議し。
アリシアは何故かうんうんと頷いている。
「いやぁ、今日のパーティーはルーキーで大変だったんだぞ」
「それも先輩である俺等の仕事だ。報酬は発生するのだし」
どうやらクリスとロックのクエストは新米パーティーの道案内と言うかダンジョンのボス攻略だったみたいだ。
ロック曰く後輩を育ててなんぼらしい。
ダンジョンに現れるボスは階層毎でランダムに登場するから何度攻略しても楽しめて時にはドロップアイテムが手に入れられる。
低い階層でもHPがゼロになってしまえばデスペナルティを受けてランダムで装備やアイテムがドロップさせられてしまい暫くの間ログインできない。
盛り上がっている仲間には悪いけれど嬉しそうに皆を見守っているリュークさんに目で合図を送り私はゲームから落ちた。
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