第13話 城下

 城から出て伸びをする。

 やっと開放された気がするのはみんな同じようだと思っていたら1人だけ違ったようだ。

 竜人の騎士にお礼を言っている。

「蓮は真面目じゃの。客人なのだから構わんでもええのじゃ」

「ええ、だって出迎えてもらったのにお礼が言えなかったから」

「しかし、これで女神様の評判が鰻登りじゃのう」

 竜人族はトカゲ……おっと失礼。竜の様な顔立ちだから区別も付きにくいし表情も分かりづらいけれど。

 照れて仲間に小突かれてアタフタしていたのは良く分かる。

 それよりも女神の加護が街中に降り注いだ事を思い出し引き返したくなった。

「ハルちゃん、逃げ出さない」

「そうじゃぞ。妾だけじゃ庇いきらんからの」

 リーファと師匠に腕をホールドされて項垂れてしまう。

「そうだ、蓮ちゃん。ハグレないようにハルちゃんと手をつないだほうが良いかも」

「わ、私。そんな子どもじゃないから大丈夫です」

「ほれ、ハル。男じゃろ。リードしてやらんか」

 仕方なく左手を突き出すと蓮が恥ずかしそうに小指を掴んで俯いて真っ赤になっている。

 こ、これは何のプレーですか?

 あっちの世界ならともかくこっちでは俺の立場というものがあるが拒否権はないらしい。

「それじゃ、先に残っている要件だけ済ませますからね」

「よいよい。初々しいのう。ハル」

 落ち着け堂々としていれば問題ない筈だ。

 深呼吸をして小指を掴んでいる蓮の手を包み込むようにすると戸惑いながらも握り返してきた。

 こうしていれば街の連中に取り囲まれることもないだろうと思い目的地に向かってゆっくりと歩き出す。


 店のおばちゃんが飛び出してきて拝んだりしているけれど特にトラブルにはならないみたいで安心した。

「ハルさん。あの人狼の人が立っている建物って」

「コーバンだよ。師匠が導入したんだ。色々な種族が暮らしたり出入したりする街だからね。昔は衛兵が巡回していたんだけど」

「そうなんだ。向こうの世界でも交番ってシステムを導入している外国あるもんね。これから何処に行くの?」

「商人ギルドかな」

「やっぱりあるんだ。ギルドって」

 蓮が興奮するのも分かる気がする。

 何度かVMMOの剣と魔法の世界のゲームを体験したことがあるが転生者が考えたとしか思えないほどのクオリティーだった。

 それか向こうの世界の人間の想像力や妄想が激しいかのどちらかだと思う。

 立派な商人ギルドに踏み込むと歓声が上がって直ぐに静かになった。

「やはり、大人気じゃの。女神様は」

「師匠、晒しますよ」

 釘を指しつつギルドの職員に向かって手で待ったをかけて制して下に向かうことを告げる。

 見回りに来ただけで忙しいギルドマスターに迷惑をかけたくないが蓮がいるので必ず挨拶には来るだろう。

 ギルド内の魔導エレベーターで下に向かう。


「ハルさん。ここは何かの養殖場なの?」

「湖などに生息している魚をね」

 城の地下にある農場の様に空も有り日も照っているが作物を作っているわけではなく石造りの四角い池がどこまでも続いていて池の水が輝いている。

 そこに恰幅のいいギルドマスターが汗を吹きながら現れた。

「これはハルディナ様にゴライア様までいつもありがとうございます。本日はどの様なご用件で」

「ハルディナの見回りに付いてきただけじゃよ。陛下が女神に会わせろと煩いのでな」

「では、こちらが女神様ですか。先程の女神様の祝福には感銘しきりでございます」

「今回の旅はちいと短いでな。次回にでも」

 こういう場は師匠に任せるに限る。

 俺だったらこの後ギルマスの部屋に案内されグダグダする羽目になっていただろう。

 商人ギルドを後にして街の中をブラブラすることになった。

 蓮が魚や食べ物が見たいと言うのでいろいろな店を回る。

 アクセサリーの店もあるが向こうの世界の物のほうが洗練されていると思うのだが楽しそうなので良しとしよう。

 師匠に言われてすっかり忘れていた場所に寄ってから城に戻った。


 

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