第12話 指輪
「凄い、どうなってるの?」
目の前には広大な果樹園が広がっていて赤く色づいた林檎が収穫を待っている。
空は青く太陽が眩しいけれどここは滞在を許されているお城の地下で。
暇だからってライナちゃんにお城の中を案内してもらうはずだったんだけど。
「ここもハルが考えたんじゃよ。何でも野菜を作る工場があるらしいではないか」
「確かにあるけど。比べ物にならないよ」
「まぁ、魔法の恩恵を最大限に活かしたということかの。ドワーフの王国は地下にあるというしダンジョンには森林エリアや草原などもあるしな」
ドワーフになら広大な地下空間なんて造作もなく、森の民のエルフに任せれば自由に環境を設定出来るらしい。
こんな空間がこの下にいくつも有って桃や葡萄に梨・柑橘類が植えられていてフロアー毎に一年中何かが出荷出来るように調整されているんだって。
「それとのニホンミツバチを使ってハチミツも取っておるらしいぞ。ハルの受け売りじゃが、ニホンミツバチは野生種なので手間がかからないらしいからの」
「そうですよね。理想的な場所だと思いますよ。地下の密閉空間だから天候にも病害虫にも左右されないし。受粉もしてくれそうだし向こうでもニホンミツバチのハチミツはプレミアムが付きますから」
何でハルさんはカフェの店長なんてしているんだろうと思ったけれど。
向こうでみんなを守るために頑張っているんだもんね。
「蓮は優しいの。まぁ、ハルの懐には一生掛かっても使い切れないほどのお金があるはずじゃが。幸せはお金だけじゃなかろう。笑顔で過ごせればええんじゃよ」
「うん、楽しそうにカフェの店長をしているもんね」
他にハルさんが持ち込んだ物を知りたいと言ったらライナちゃんがあからさまに視線をそらした。
なんかとんでもない物を持ち込んでいそうな気がする。
「師匠、ここに居たんですか」
「お、蓮も一緒じゃ。相変わらず、ブラック企業が土下座するほど働き者の弟子を持って妾はしあわせものじゃ。まぁ、研修旅行じゃ仕方がないの」
「お願いしますから嫌味を言わないでくださよ。色々と大変だったんですから」
「まぁ、蓮の為じゃしな。ハルが居なければ困るからの」
あんまり蓮に気を使わせたくないからそんな事を言わないで欲しい。
蓮にとっては異世界であるここに連れてきたのは色々な意味で世界を知ってほしいからで。
魔族や他の種族のことを学んで欲しいためでもある。
「難しいことを考えんでも良いじゃろ。面白くない奴じゃの。蓮や、ハルが城下を案内してくれるらしいから。おねだりするのじゃぞ」
「お、おねだりは別に。ハルさんと一緒なら」
「何をブツブツ言っておるのじゃ。ハル、あれを渡してないじゃろ」
師匠に言われてこっちの世界に来た時に渡しておけと言われた魔道具を渡してないのに気づいて。
何処に入れたか忘れてポケットを弄り。
指に触れてホッとする。無くしたら酷い目に合うからね。
「蓮、これを」
「こ、これって。プロポーズ?」
「林檎畑でって、お主らはアダムとイヴか! 8人でも10人でも子どもを作ればいいじゃろ。GPSみたいなもんじゃ」
「す、ストーカー?」
リーファが笑いを堪えながら暴走しそうな師匠を羽交い締めにしている。
天然なところがあるなんて思っても見なかった。
『清楚系処女ビッチが!』なんてお子様が口にしたらいけないことをロリ婆の師匠が喚き散らしているのに蓮はクエスチョンマークを量産している。
「何か遭った時に蓮の居場所が分かる魔道具の指輪だからいつも着けておいて」
「はい。初めて指輪なんかもらったから驚いちゃいました」
「左の薬指はまだ早いからの。ハル、グズグズしとると閻魔大王を召喚するぞ」
師匠も色々とあちらの世界に感化されているらしい。
「勉強家と言わんか」
「毒されているだけでしょ」
一言多いんじゃと杖で小突かれてしまう。
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