第11話 王国

ルハイン王国は温暖な気候らしくワンピースでも過ごしやすい。

「ライナちゃん。ハルディナ様ってもしかして」

「ハルのことじゃ。かの国ではハルの方が分かりやすいじゃろ。それにこちらでもハルじゃったからな。何でハルに聞かん」

「だって様付だよ」

 普段どおりにすれば良いのだけどなんだかな。

 ハシビロコウみたいな鳥はシャベールと言う魔物で騎士さんが鞍をつけて乗っているのも同じ仲間らしい。

 騎士さんが乗っているのは地味な色合いだから雄と雌の違いなんじゃないかな。

 王都の城門に近づいて来ると改めて城壁の大きさに驚かされる。

 門の前には馬車や人が並んでいて入国審査でもしているのだろう。

 そんな長蛇の列の横を通り馬車は門をくぐって行ってしまう。

「リーファさん。審査とか無いの?」

「無いよ。王室の馬車だからね」

「ふぇ? おうしちゅ?」

 豪華な馬車だと思ったけれど……王室って。

 窓の外を見ると活気溢れる街の様子が見えるのだけど段々と余裕が無くなってくる。

「蓮よ、街の連中に手でも振ってやらんか」

「師匠、無茶振りしすぎよ」

 ライナちゃんに言われてぎこちないかもしれないけれど窓の外に向かって小さく手を振るとケモミミの女の子が喜んで飛び跳ねているのを見ると心が少しだけ和む。

 そうだよね。王様だって人間だもんね。


 お堀を越えて城内に馬車が進んでいく。

 やっと馬車が止まってこれからお城の中に向かうみたい。

 これから王に謁見というイベントかな。

 少しだけ緊張しちゃうな。

 お城の外見も中身も宮殿と言ったほうが合っている気がするけれど軍事拠点だからお城なんだろうな。

 でもなんだか凄く絢爛豪華なオフィスビルの玄関ホールみたい。

 騎士さんが壁に手を当てると石の扉が両脇にスライドして。

「エレベーター?」

「魔導エレベーターじゃな。驚くことはなかろう。この世界では科学の代わりに魔法が発展しているからの」

 上に向かうものだと思っていたのに下に降りているみたい。

 エレベーターから降りると正面に見上げるような大きな扉があって。

「魔王陛下! 女神様をお連れしました!」

 今まで案内してくれた騎士さんの声で頭の中が真っ白になってしまう。

 魔王って?

 女神様って私のこと?

 ハルさんとリーファさんに騙されたの?

「こうでもせんとお主は来ないじゃろ。魔王が会わせろと煩くての。ハルとリーファを悪く思うなよ。この計画がばれた場合にはお仕置きをする呪いを掛けておいたからの」

「それで何も話してくれないんですか?」

「ほれ、行くぞ」

 ライナちゃんに手を引かれながら謁見の間に足を踏みれる。

 豪華絢爛なロビーと相反する質実剛健という感じで両側の柱のところには案内してくれた騎士さんみたいな竜人さんが黒い甲冑を身に纏って長槍を持って微動だにしない。

 玉座には白髪頭に曲がった立派な角があり上品な白いヒゲを撫でて黒いローブを纏ったお爺さんが座っていて。

 その隣に立っている厳ついシルバーのプレートアーマーに青いマントを着けた大男の人は誰だろう。

 髪は短く黒黒とした口髭をはやしていて鋭い眼光でこちらを見ている。

「ライナちゃん。あの大きな男の人って」

「ん、ザルツ・ルハイン国王のことかの?」

「あの人が魔王かと思った」

 人は見かけで判断しちゃいけないという事なんだろうな。

 国王ですら怖いのに魔王ってどんだけなの。

 ライナちゃんが立ち止まり頭を少し下げたので真似して下げると、少し後ろでハルさんとリーファさんが片膝をついて頭を下げていた。

「大賢者ゴライア・ザギン・ドラィアス大儀であった」

「有難きお言葉」

 うわぁ、ライナちゃんの本名って可愛くないよね。

「ゴライアよ。其の者が女神だと」

「まだ。力の制御は未熟ですが間違いないかと」

「リーファよ。これを」

 魔王様より国王の方が怖いよ。

 自分自身でも未だに女神だなんて信じられないのに。

 リーファさんが短い返事をして国王から何かを受け取って来るけどそれだけは駄目だって。

 明らかにあの杖の本物でしょ。泣いちゃいそうだよ。

 クリスタルブルーの水晶が付いた杖を受け取ったけれど震える手で掴んでいることしか出来ない。

「(有難き幸せ。この国に女神の祝福があらんことを)ほれ、言わんか」

 ライナちゃんが小声で台詞を言えと言っているけれど無理だよ。

 力が暴走した時のハルさんの姿が浮かんできて胸が締め付けられて苦しい。

『蓮。何度でも守ってやる』

 頭の中にハルさんの声が聞こえた気がして全身から余計な力が抜けていく気がして。

 魔法について教えてもらったことを浮かべる。

 心から願うことだと。


「有難き幸せ。この国に女神の祝福があらんことを」

 何も起きなかったからホッとしてライナちゃんを見ると嬉しそうに顔をクチャクチャにして親指を立てている。

 すると胸元の水晶が光ったと思ったらドンと言う音と共に光の柱が天井に向けて放たれた。

 びっくりして見上げると光の柱の先に魔法陣が見えて光が吸い込まれていく。

 しばらくすると光の粒子が雪のように舞い降りてきて。

「ルハイン国王よ。彼女はまだまだ若いのじゃ。無茶振りも程々にな」

「ゴライアよ。忝ない」

「ルハインも気が済んだか。ハルディナ達も頭を上げ。宴の準備をしておる。よいな」

「「はっ!」」

 もうヤダ、お家に帰りたい!


 魔王様が用意してくれたお昼の宴はとてもフランクな感じだったのは穏健派の魔王様ならではらしい。

 いろんなお話を聞かせてもらえてとっても嬉しかった。

 人間だけの世界でも戦争したりするのだから人間と魔族の世界なら尚更なんだろうと思うし。

 自身で導き出した答えは間違ってないと確信が持てた気がする。

 私はもうこっち側の人間のような気がするし。

 今は少し休んでいなさいと言われて王国側の部屋にいるけど流石に落ち着かない。

 天蓋付きのベッドにアンティークみたいな調度品の数々。

 お姫様ならいざしらず普通の女の子なのに。

「女神様じゃ!」

「もう、大賢者ライナちゃんまで。視線を合わせちゃうよ」

「止めるのじゃ。恥ずかしいじゃろ。ハルとリーファはちょっと用事を済ませておるのでの。それと大賢者も恥ずかしいからやめるのじゃ」

 それじゃ魔法の特訓かな。

 回復系のヒールに状態異常に効くリカバーは解毒や麻痺の解除。

 特殊回復魔法のディスペルは呪いや石化に聞く魔法。

 それと結界魔法。

 どれも人を守ったり治したりする魔法ばかりなのは師匠であるライナちゃんの方針で。

 人を傷つける攻撃魔法は必要ないし女神にはこっちのほうが向いているらしい。

 そう言えばもらった魔法の杖ってどうしたら良いのだろう。

「そうじゃな。妾には必要ないからアイテムボックスを譲ろう」

「へぇ?」

 ライナちゃんが頭の上に杖を置くと一瞬だけビクンとした。

「手が届く範囲でアイテムボックスを意識して杖をしまってみるのじゃ」

「こう? あっ、無くなった」

「出す時は逆の手順じゃ」

 言われたとおりにアイテムボックスを意識して手を突っ込むとVRMMOみたいな画面が現れて……

 金のインゴット・ダイヤモンド・エメラルド・ルビー・イエローダイアモンドやら魔石なんて表示されていて賢者の杖って。

「杖は分かるけどこの金銀財宝ってなに?」

「国王の宝物庫からパチって来たのじゃ。大事な弟子を試すような真似をしたからの。必要がなければそのままで良いじゃろ。それと戻った世界では気をつけるんじゃぞ」

 ライナちゃんが釘を差したのは元の世界では魔力の素の魔素が希薄だからと言うことだった。

 でも確か魔法陣や転移魔法ってもの凄く燃費が悪かったような。

「流石、妾の弟子じゃの。よく学んでおる証拠じゃ。魔法の属性を言ってみい」

「火・水・風・土・雷・光・闇…… あっ、電気」

「逆転の発想じゃの。魔力を雷に変換できるなら逆も出来るのではないかとハルは考えた。運も味方に付いたのじゃ。最後に現れた魔物が恐ろしい程手強くての」

「それじゃ、その魔石で」

「うむ、あんな場所では暮らせんと思い何度も魔力を枯渇し死ぬ気でこの世界の座標を見つけたが。彼の地も住めば都じゃった」

 ライナちゃんが何度も魔力を枯渇ってそんなに大変だったんだ。

 今は我が家のようになりつつあるあの倉庫風の屋根にはソーラーパネルが設置されていたからエコなのだと思ったら違ったみたい。

 それに地下に電力設備まであるらしい。


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