第9話 研修旅行

 最近、蓮が遠慮なくなってきているのが怖い。

 リーファに注意するように言っても慣れてきたって事でしょと取り合ってもくれない。

 魔力の暴走事故があってから魔族を理解してくれたらしいことは嬉しいのだが。

 傷が癒えて久しぶりに自分の部屋に帰って来て寝ていたらいきなり蓮に抱きつかれトラウマが再発しそうだった。

 その後でいろいろと聞かれたけれど答えられる範囲で答えて煙に巻いておいた。

 勇者組合(異界特別対策機関)を作ったのは本当だけど師匠が居たから勇者の力を抑えることが出来たこと。

 自重しない連中は締め上げたことや国家のトップシークレットだということなど。

 日本だけなんて事は絶対にないと思うけど大国なら大喜びしそうな気がする。

 勇者はある意味超人なのだから。

 あの香ばしい勇者は放置してきたが勇者は勇者同士で何とかしてくれよと言う話だ。

 そのための組合なのだから。


「ハルさん。準備できました」

「ご苦労さま」

「で、研修旅行って何処に行くんですか?」

「リアルな異世界かな」

「はぁ?」

 指定通り白いワンピースに編み上げサンダルを履いている。

 キャメル色のフード付きマントを渡すと無理と言われてしまう。

「どうしたんじゃ。蓮。行くぞ」

「えっ。でも」

 師匠に行くぞと言われても尻込みしていたのにリーファが耳打ちしたら途端に行く気になったようだ。

 うん、良くわからん。

「蓮も女の子じゃの。妾にもよく分かるぞ」

「…………」

「ロリ婆のくせになんて考えておらんじゃろうな」

 少女の見た目で300歳オーバーは十分すぎると思うけど。

 師匠の杖は木製に見えて木じゃないんだからそんな物でポンポン人の頭を叩くのは止めて欲しい。

「気合が足らんのじゃ」


 リアル異世界って……

 ハルさんが連休に研修旅行に連れて行ってくれるからとワクワクしていたのに。

 行き先がハルさん達の住んでいた世界って、もう旅行ですらないでしょ。

 それって異世界召喚だよ。


 ハルさんがいない間はすごく不安だった。

 それでも学校や仕事を休むわけにいかないから出来るだけ普通に過ごしてたつもり。

 リーファさんの話では魔力が戻り次第帰ってくると言われたから我慢だよね。

 魔族については身体能力が高くて見た目が違うだけなんだと理解したつもり。

 本当は駄目なんだけれどって人狼の姿になったリーファさんは凄く可愛くてリーファはリーファさんなんだと思うから。

 この倉庫風の建物の周辺は魔族特区になっていてこの倉庫市場で働いている人は殆どが他の種族だと教えてくれた。

 八百屋さんで働いていた憧れの生徒会長である大崎先輩はハーフエルフで工房の元気な後輩ちゃんはドワーフだって。

 流石に本人には聞けないけど、そんな事は些細なことだと思う。

 何故ってみんな親切で優しいし、みんなにとってはこの世界が異世界だもんね。

 私はそんな人達と仲良くしたい。

 いろいろな話を聞いて私なりに考えて答えは出したつもり。

 自分の力に付いてもハルさん達の師匠であるライナちゃんに少しずつ教えてもらっている。


「よし、今日も頑張ろう」

 いつものように制服に着替えて空中階段を降りていつもと違うことに気づいてハルさんのベッドを見ると何かがモゾモゾと動いている。

「ハルさん?」

「ん? 蓮か。おはよう」

「ハルさん!」

 思わず起き上がったハルさんに抱きついちゃった。

 嬉しかったんだから仕方がないよね。

「蓮、苦しい。む。胸が」

「うん、大丈夫」

「大丈夫じゃないから。僕が」

 そこにリーファさんが顔を出して朝からいちゃついてんじゃない遅刻するよと言われちゃった。

 それからしばらく私を見るとハルさんの目が泳いでいるんだけど私のせいなのかな?


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