第5話 みずいろ

「よろしくお願いします」


そう言って店に現れた彼女はデニムのショートパンツにブラウスといった今どきの女の子の格好で挨拶をしていて。

そう言えば一度も私服姿を見たことがないのを今更ながらに気付いた。


「お店の前の可愛いスクーターってリーファさんのですか?」

「蓮ちゃんが使っていいからね。難題をクリアーしたお祝い」

「何から何までありがとうございます」

「荷物を運んじゃおうか」

「はい!」


リーファが蓮の持ってきた大きいキャリーバックを2階に運んでいく。

彼女が言っていたスクーターはリーファが買ってきておいたものでタンジェリンとホワイトのツートンカラーで電動らしい。

電気自動車や水素燃料車の性能は飛躍的にアップしインフラも整っているけれど未だにガソリンやディーゼル車と共存していてリニアの計画も天災の影響で頓挫中らしい。

好きか嫌いかで言えば電気よりガソリンで走るバイクや車のほうが好きだ。

例え古いと言われようと。


「今日からよろしくおねがいします」

「自分が選んだことなのだから頑張れとしか言えないけどね」

「ありがとうございます」


エプロンをしているので仕事をするらしい。

週末だし休んで居れば良いのにと言ったら店長もリーファさんも仕事をしているのに部屋でじっとしているのが堪えられないか。


この店は特殊な肉を扱っているのにその説明も完璧でメニューも直ぐに覚えたみたいで頭は良いのだろう。

子供連れのお客のあしらいも上手くお客だった頃の容姿からも優等生タイプなのだと思う。

そろそろ賄いの時間かな。

今日は店長の気まぐれメニュー(日替わりプレート)のオーストリッチのカツレツ 完熟トマトのソースにしよう。

テラス席からの視線を感じて2人前用意して声を掛ける。


「神楽さん、賄い」

「はーい」


いそいそと渡されたプレートに五穀米とサラダをセルフで盛り付けるとカウンターから飛び出すように出ていく。

その後を少し困ったような顔をしたリーファが籠に入ったカトラリーとグラスにピッチャーを運んでいる。



一日の仕事が終わりこれからの事を少し話そうと思ったのに。


「ハルちゃん。明日は臨時休業にしたから。組合の方に顔を出してね」

「あ、ああ。そうだな」

「まぁ、面倒で嫌だろうけどね。ご褒美あげるから」


リーファは蓮が生活するのに必要なものを買い出しに行くらしい。

で、話し合いをと思ったら丸投げされた。

一応、責任者である店長の知らない所で世界は回っているようだ。

で、なんでこうなった。

自室は広めのワンルームでドアを開けて直ぐにバス・トイレがあって少し先にクローゼット(物置)のドアが有り。ドアの向こうにセミダブルのベッドがあって。

ソファーやらが自己主張しない程度に揃えてあるのにトイレのドアの先に……階段が出来ている。

それも無駄に小洒落た壁からダイレクトに板材が飛び出しているような片持ち階段で。

宙に浮いているような感じに見え。天井から垂直にポールが降りてきていて階段と平行になるように∨字に折れ曲がった手すりが天井まで続いていて。

どうやら屋根裏部屋に続いているようだけどそんな部屋があったなんて記憶の片隅にですら無い。

あいつらに頼めばあっという間なのだろうけれど。

覚悟していた事が根底から崩れそうだが屋根裏部屋には布団が一式あるので一安心だ。


「お風呂、お先にいただきました」


明日の憂鬱な事を考えながらベッドに体を投げ出していたら風呂から出てきたようで。

彼女がゆるゆるのワンピース姿で階段を駆け上がっていきベッドから転げ落ちた。


「えっち」


不可抗力だと思うのだが宙に浮いたような階段がベッドの上に伸びているのだから仕方がないと言うか。

気をつけないと色々と大変な事に気付かされる。


「水色がご褒美?」


一瞬だけ視界に飛び込んできたほぼ下着姿が浮かんできて……

今日はシャワーを浴びてとっとと寝よう。

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