第3話 魔法

「ただいま」

「ランです! スーです! ミクです! 3人合わせて」

「馬鹿なことをしてないで仕事をしろ。紹介だけしておく。エルフがティム。ダークエルフがリーナ。猫系の獣人がアリカだ」


 ティムはストレートのロングヘアーで腰のあたりまであり尖った耳をしていて、リーナはウエーブがの掛かったロングヘアーで褐色の肌をしている。

 アリカはミディアムヘアーで猫耳の小柄女の子だが……

 チューブトップやキャミソールにショートパンツかミニの巻きスカートだが露出度が高く。

 目のやり場に困る格好をした3人がうけるって聞いたのにと騒いでいるが若干間違っているし。

 いったい誰に吹き込まれたのだろう。

 そんな事は置いておいてまずは自己紹介だ。


「しばらくお世話になります。トウリと言います。皿洗いでも何でもしますのでよろしく」

「本当に何でもしてくれるの?」

「俺に出来ることなら。家事系スキルが高いと言われたので」


 ティムさんが俺の腕に抱き着いてきて柔らかいものを感じ困っていると人懐っこそうなアリカさんが手を引っ張りキッチンのほうに連れていかれる。

 出てくると言い残してシノンは不機嫌そうに店を出て行ってしまった。

 何か気に障るような事をしただろうか?



 キッチンで膨大な洗い物をしている。

 何でもしますと言ったのだから二言はないが嫌いなわけではなく。


「トウリって異世界から来たのでしょ。どこから来たの?」

「二ホンかな」

「どんな処なの?」


 洗い物を手伝ってくれているがティムの狙いはこっちだろう。

 質問攻めにあうとは覚悟を決めていたので聞かれたことには答えているとリーナがマナー違反だしクロが聞くなって言っていたと釘を刺している。

 どうやらリーナは姉さん肌らしい。アリカさんはキッチンを出たり入ったりしているので気になって仕方がないのだろう。

 変に気を使われるよりこっちのほうが楽だ。

 リーナに言われティムがオーブンの掃除を始めたので手伝う。


「最近、調子が悪いんだよね」

「何か詰まっているとかなのか」

「掃除しなきゃダメか」


 薪を使うらしく灰をティムがかき出して壺に入れている。

 ガスも電気もない世界なんて俺からしたら考えられないが慣れるしかないのだろ。

 煙突部分を軽くたたくと大量の煤が出てきて大掃除になってしまう。


「火はどうするんだ?」

「ええ、そうか。トウリはヒューマンだったよね」


 そう言いながらティムは簡単そうに指先に火を灯している。

 この世界に暮らす者ならこの程度の魔法は普通だと。

 呪文も何もいらないと言う事はイメージなのだろうと思い試してみる。


「あ、出来た」

「うわ、マジで。トウリって」

「俺の名前はクロが名付けてくれたんだ。だからかな」


 ティムが真剣な顔つきになってクロのネームを知っているのか聞いてきたが背後に漂う冷たいものに顔を引き攣らせている。

 振り返るとクロが立っていたが何事もなかったかのような顔をしていて。

 無闇にクロの名を明かすのはやめようと心に誓った。



 それぞれが買い出しに飛び出していき、俺はクロに連れられて街中を歩いている。

 ここはアルスブルクという王国のはずれにあるフラウと言う街だと教えてくれた。

 何でも海からも山からも近く要所であるために栄えているらしい。

 山の幸や海の幸があちらこちらで売られていてにぎわっている。

 色々な店に連れていかれる度に挨拶を繰り返す。

 洋服店に鍛冶屋それこそ街中に新参者の顔見せか、それとも……考えすぎか。

 俺の生活に必要な物を買ってくれているので勘繰るのはやめよう。

 食事をして部屋で休んでいたらクロに呼ばれて店に出るとクロは黒装束のままだけど、ティナ達はファミレスの制服の様な格好をしているけど胸元が大きく開いている。

 誰の趣味なのだろう。

 直ぐに常連に捕まり酔い潰されてしまった。



 翌日、酔いつぶれたせいか早く目が覚めた。

 早く起きたからと言って特にすることもなく部屋を出て店に降りてみる。


「一宿一飯の恩義か」


 目立ったスキルが無いのならあるスキルを活かすしかなく気になっていたキッチンから掃除しよう。

 昨日、アリカ達が水にコーガと言う粉末に柑橘系の汁を入れてソーダ水を作って飲んでいたのでコーガは重曹のようなものなのだろう。

 コーガを水で溶かしこびり付いた油汚れにつけると綺麗に落ちた。

 窓とドアを開けて普段は掃除しないような場所から掃除し始める。

 一通り掃除が終わったところにダークエルフのリーナが顔を出した。


「おはよう」

「なんだ、トウリか。盗賊でも入ったのかと思った」

「クロの店に?」

「まぁ、そらそうだ。そんな度胸あるやつがこの街にいる訳がないもんな」


 綺麗になったキッチンを見て感心していた。

 リーナがコンロに薪をくべ始めたので使い方を教えてもらい食材の名前を聞きながら味見していくと名前は違うが見た目は俺がいた世界の食材と似たようなものだった。

 時々だが似て非なるものがあるが仕方がない。

 ティムが出勤してきて裏庭に向かうというのでついていくと手洗いで洗濯し始めた。

 魔法があるのにと聞くとこれが普通らしい。

 上下水道まで完備されているのに便利なのだか不便なのだか分からない世界だ。

 夜は店に出て食器を下げたり洗い物をしたりして空いた時間に文字を教わる。

 数日もすると文字の読み書きもできるようになってきた。

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