エピローグ
第30話 死ねない僕と、妹と、魔法街の何か
さて、僕はトイレの前で待っている。
理由は簡単、今日は細雪と共に、とあるスイーツショップへ行く途中、まといがトイレに行きたいと最寄りの駅にあるトイレに行ってしまったからである。
僕は黙り込んで耳を澄ましている。別にまといの排尿音を聞きたくて仕方が無いとか、そう言う変態めいた話ではない。
ここにあるのは備え。そしてその使い道が来るか否かが中から聞こえる音にかかっている。
細雪から冷たい視線を感じるが、それを気にしてはいられない。
「っくしゅ」
控えめな声が聞こえた直後、ざああああ、と雨のような音が聞こえる。外はお出かけ日和、快晴である。
「あああ! ほんっともう!」
中から打って変わって激しい怒号が聞こえてくる。
「くすくす」
と、隣でなゆたが笑っている。僕もそれを見てにやりと笑う。
「亜斗、一回燃えなさい」
出て来たまといは、開口一番そう言った。全くもって僕の予想通り。
先日二時間ほど燃やされた身分としては、その意見には賛成できない。
「細雪さん、お願いします」
パチン、と指を鳴らすと、細雪は楽しそうに前に出た。
両手を振り上げ、
「せーの」
の声と共にまといの両肩へ手をやる。
その瞬間、豪雨のようにまといの服から滴が払い落とされる。
細雪がする魔法についての説明は思った通り下手なようで、事前に聞いていた内容とは全然違う光景にひどく驚いてしまった。
「ふふん」
僕と同じく驚いているまといに、細雪は満足そうに胸を張る。
「あ、ありがと」
まといはぶっきらぼうにそう言うが、細雪は満足そうである。
「さあ、今日はたっくさん食べるのです!」
「なーも食べる!」
「よしよし、じゃあ僕も」
「あんたらほどほどにしときなさいよ。こないだみたいに動けなくなっても、今度はほっといて帰るから」
「ふふ。じゃあ、兄さんは私が連れて帰ってあげます」
いろんな物を取りこぼして、人間かどうかまで怪しくなって、それでも僕たちはこうして楽しく生きている。
そんな感じで、僕ら五人は楽しく幸せに暮らしているのである。
死ねない僕と、妹と、魔法街の何か 二月のやよい @february_yayoi
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