5.幻想とリアル


「川野くん、またこんな所で寝てたの?

屋上なんて何も無いだけじゃない」



この鼓膜に優しく響く声は、色雨の声だ。

身に覚えのある声に起こされ、俺は目を覚ます。



......え?



しかし、体を起こしたその場所は何年も前に見ていた景色。

つまり、俺が高校時代の学校の屋上の景色だった。


ご丁寧に、制服まで着用だ。



「.......まさかな」



そう思い、恐る恐る隣を見てみると

何がおかしいのかと言わんばかりにキョトンと首を傾げた、色雨がいた。



「なんで......君が......」



「なんでって言われてもなあ。

寂しくなったから会いに来ちゃった」



冗談なのか本気なのか分からない口調で、微笑む色雨。



本当かよ、と言いそうになったが

そういえば色雨はそういう人間だった。



いつも、俺の想像の斜め上を超えてくる。




「色雨......君、生きてるのか?」




「じゃあもし、生きてるって言ったらどうする?」





「それは......」




「うそうそ。死んじゃったよ」




かける言葉がないあまりに、色雨に気を遣わせてしまった。




「でも......本当はちょっと川野くんに

それっぽい事、言って欲しかったりして」




そう言って笑う色雨は、少し寂しそうに見えた。



「そうだ!真空はどうしてる?

元気にしてるの?」



どうにか話題を変えようとした結果、真空の話になったらしい。


ちょうど俺も話したかった所だ。




「信じられないくらい元気だよ。

ちょっと変わってる所なんて流石、姉弟だなって」



「もう!変わってるって失礼じゃない」



そう言って片頬を膨らませる。

そういう所も流石、姉弟だ。



俺はなだめるように、平たく謝る。






「じゃあ色雨は、いつまでここに?」



素朴な疑問だ。

まず、ここがどこなのかもどういう仕組みなのかも分からない。



「うーん、そろそろかな。

久しぶりに川野くんの声聞けて、嬉しかったな。

やっぱり私、川野くんの事......」



「どうした?」



「ううん、何でもない!

じゃあそろそろ行くね。

あと、安心して。私、もう川野くんの所に来たりしないから」




そう言って色雨は、屋上の柵に手をかけた。




「じゃあね」



「おい......色雨、待っ......!」









.......そして、俺は目覚めた。



どうやら夢だったらしい。

目覚めが良いのか悪いのか不思議な寝起きだ。



ふと、時計を見ると時計の針が

午後一時を指していた。




......おかしい。



このくらいの時間まで俺が起きていると、決まって真空が起こしにくる。




俺は寝室を出た。

というのもリビングと寝室はほぼ一緒なのだが。




「真空ー?どうした、まだ寝てるのか?」




一向に返事がない。


それどころか、何となくだが嫌な予感がする。



キッチンもトイレも風呂も見たが、姿が見当たらない。

残るは、真空の部屋だけだ。



元はといえば俺の部屋だったが、

真空が来てからは真空の部屋になった。



「真空?開けるぞー」










......部屋には、真空はいなかった。




代わりに机の上に小さい紙が一つ置いてあった。






「探さないでください」





よくある家出少年の、決め台詞だ。




しかし、真空にはそれ以上の考えがあると思った。






......駄目だ。

真空をこのままにしてはおけない。






そして、俺はおもむろに携帯をとった。





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