6.プロミス・プロミス
俺は真空の声を聞く間も無く、話し始めていた。
「もしもし!真空か!
なんで勝手に出て行ったりするんだ!
いつも起こしてくれる時間に起こしてくれなかった事は、まあ、よしとして
なんだあの紙は!あれだけで家出出来たとでも思っているのか!」
気付けば俺は、自分でも話した事のない早口で話していた。
携帯越しの真空の声は、いつも聞いてる声より少し疲れている。
「......もう、いきなり話して来るから頭ガンガンしてるよ。
安心してよ、変な所に行ったりしてないから」
......こういう時、大人ってどう接するのが正解なんだ?
今まで真空の事を、子供と思って接していたがこういう慌てずに冷静な所なんて
まるで俺が子供みたいだ。
そのまま真空は、淡々と話を続けていた。
「気付いてたんだ。ずっとここに、川ちゃんの所に居てたらいけない事。
お互いが辛くなる気がしたからさ」
......これ、中学生の家出のスケールじゃねぇな。
とりあえずどこにいるかだけでも、知る必要がある。
「真空!お前、今どこにいる?」
駄目だ。俺自身が焦り過ぎてる。
心臓の音がバクバクしてるのが自分でも分かる。
.......なあ、色雨。
君ならこういう時どうしてた?
君なら絶対、向日葵みたいな微笑みで俺を励ましに来てくれるはずだ。
......俺にだって出来るだろ。
励ましたり、話聞いてあげる事くらい......
「川ちゃん......絶対来ないって約束できる?」
「あ、あぁ。約束する、約束するからどこにいるんだ?」
真空は、なかなか自分の居場所を話さなかった。
と、いうより話したくなかったんだろうと思う。
そっと、携帯越しの真空の重い口が開いた。
「姉ちゃんの......所......」
......は?
俺はしばらく、その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
それは、真空が色雨の墓にいるって事か?
いや、色雨の墓はまだ出来てないはずだ。
じゃあ、色雨の遺体を見に行ってるとか?
そんな事もありえない。
.......だとしたら......
「お前......死んでるのか?」
出来れば確認したくなかった言葉だ。
俺は、そうでないと願いたかった。
じゃないと、自分がおかしくなりそうだったから。
「ううん、死んでるんじゃないよ。
元々いないんだ、僕」
そうだったな。
色雨も真空も、想像の斜め上をいつも.....
「どういう事だ......真空......
俺の頭じゃ、追いつかねぇよ」
「僕は、姉ちゃんが生み出したもの。
姉ちゃんが死ぬ間際までずっと大切にしていた思い出。
......へへへ、ビックリした?」
「ビックリした所じゃねぇよ.....
俺どうすればいいんだよ......」
本当、どうしたらいいんだよ。
頭が追いつかない。
目の前の視界がグラついてくる。
よろけた体を携帯を持つ反対の手で、支えるのが精一杯だ。
「なあ、真空.....
じゃあ俺はもうお前と会えないのか?」
「......一週間後の神社の祭りが最後。
その時に神社の境内の前で待ってる」
「.......その日に会えるんだな、分かった!」
「.....でもその代わり」
「その代わり?」
「その日に会っちゃうと、僕と川ちゃんの思い出は川ちゃんの中で消えるんだ。
永遠に思い出せないまま。
会わなかったから、覚えたままで」
なんでそんな焦れったい設定になってるんだよ。
心の中でそう思いながらも、俺は迷っていた。
思い出が消える。
そんな体験をした事もないので、どうなるかと確信が無いが
また何かを失うんだ。
色雨を失った時と同じように。
二度と同じ事はしたくない。
だからと言って、さよならも無しに
真空と別れたくない。
「ほら、まただ俺。
肝心な事は言えずに、あやふやなまんまで」
知らぬ間に発していた言葉。
だけど、本心だ。
「じゃあ川ちゃん。
また来週会えるかな!電話、切るね!」
「あ、真空待っ.......」
電話は途切れていた。
まだ頭はクラクラしたままだ。
さっきから頭フル回転で働かせていたから
少し、疲れた。
俺はそのままベッドへダイブする。
深くて、そのまま沈みそうだ。
「真空は結局何者なんだ?」
色雨と俺の思い出、なんて言ってたっけな。
弟なんて設定もウソか。
俺はそのまま、
ベッドの中で深海へ溺れていった。
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