3.戸惑いシック
39.7度
.......やってしまった。
夏風邪にならないようにと、細心の注意を払っていたのにもかかわらず.......
「川ちゃん......大丈夫?」
ベッドに横になっている俺に、必死に看病してくれている真空。
手には体温計と、スーパーのビニール袋に入った氷水。
おまけには、俺の額に熱さまシートまで貼ってくれた。
「すまん、真空。こんなに迷惑をかけるつもりじゃなかったんだが」
「いいから川ちゃんは静かにしとって!」
真空は俺に向かって、人差し指を指した。
多分、絶対に動くなという意味だろう。
頭もガンガンするし
悪寒も凄い。
元から熱は引きやすい体質だったが、ここ数年は音沙汰も無かったのに。
.......しっかし、喉が渇いた。
「真空......水を取ってくれないか。
喉が渇いた」
「川ちゃんの望みとあらばッ!」
俺の声を聞くや否や、陸上選手もびっくりの速さで(陸上選手の速さがどれほどかは知らんが)
舞い戻ってくる。
「うお!はや!」
「風邪引いてる川ちゃんは、そこのサークルから出る事は禁止されている。
そこから出ると、銀色の騎士がくるぞ!」
......いやどんな世界観やねん。
とりあえず、ペットボトルの水を飲み干す。
体温が熱くなっている時ほど、水が身体に染み渡る事は無い。
「よし、じゃあ川ちゃんはそこで寝とって。
真空がご飯作るから」
よいしょ、っと小さく呟きながら真空は立ち上がってキッチンへと歩いていく。
いや、待て待て中学一年生とはいえ料理なんて調理実習くらいだろ! ?
俺あの頃なんて、ゆでたまごもロクに剥けなかったぞ。
「待て待て待て真空!早まるな!
晩飯作る気力くらい残ってるって......」
「川ちゃん、人の事言えないでしょ!
得意料理、カップラーメンの癖に!」
痛い所突いて来よる......この少年ッ!
「まあまあ、ちょっとくらい俺が手伝うって。
火とか危ないし、な?」
俺は、足元が安定しないながらにキッチンへと足を向けた。
しかし、その行動に銀色の騎士こと真空は見逃さなかった。
「少なくとも川ちゃんよりかは、いいの作れますから!
寝とけ!このおじさん!」
......なんか、真空が俺に対して手荒くなってる......
「仕方ねぇな......」
俺は、またまたベッドに逆戻りする事になった。
そういえば、
なんか今日の真空おかしいな。
いつもそんな面白いか?っていう所で笑うし、
喋ってる言葉にいつもビックリマーク付いてる様な子が、今日は妙に落ち着いてるし
厨二病感あるし。
最近の中一ってこんな感じなのか?
晩飯が出来たのはそこから一時間後くらい。
丁度、ご飯どきの時間だ。
「川ちゃん、ご飯出来たよ。
風邪引いてる川ちゃんには、生姜がたっぷり入ったお粥だよ」
目の前にドンッと置かれた"それ"は
食欲をそそる良い香りがしていた。
「食べていいのか?」
「いいよ、召し上がれ」
真空は俺が食べるのを隣でじっと見つめている。
俺は、湯気が立ち込めるアツアツのお粥を、一口
口に流し込んだ。
.......美味い。
正直言って、俺のより断然美味い。
真空にこんな才能があるなんてな。
「美味いぞ、真空。
最近カップラーメンばっか食べてたから、体に染みるわ」
「......ほんと?良かったー!」
そのまま真空は小さな手で、自分の顔を覆った。
「ど、どうした!?真空!」
真空の顔を覗き込む。
「良かったー!!!
川ちゃんが、風邪で死んじゃったらどうしようかと思ったー!!」
「死ぬなんて余計だな」
でも、真空には余計な事なんて無いのかもな。
こんな小さい歳で姉亡くして、
いきなり知らない人の家に来て
コイツもコイツなりに色々考えてるんだろうな。
今日の態度も、姉の事と少しリンクした事が原因か。
.......色雨。君の弟は、本当に純粋だな。
「.......ありがとうな、真空」
俺は真空の頭にそっと手を置いた。
「わー!俺、こういうのやっぱり慣れてない!
恥ずかしい!」
「わー!!!川ちゃん何するんよ!!
髪わしゃわしゃになった!!」
気付いたら真空の髪を、乱しに乱していた。
「な、なんもねぇ!!俺はもう寝る!!」
思わず夏用の小さいタオルケットで、顔を覆った。
あー、やっぱり真空と居ると調子狂うな。
いきなり弟が出来た様なもんだし。
そう、考えているうちに俺は眠りに落ちていた。
しかし、夢の中で銀色の騎士に追いかけれてうなされる事になった事は、
真空には秘密だ。
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