第16話 憎悪と魔王2

怨絶剣から伸びた魔力の大剣は、難なくシオンの〈反魔法アンチスペル〉や魔法耐性を、その身を切り裂く。

がー、

「ッ…!?」

胴どころか、服にさえ傷1つない。

しかし、ドクン、と怨絶剣の魔力が躍動すると、体全体に黒い呪いのような痣が生じる。

「『魔王シオン・クロスロード。汝に怨嗟の審判を課す』」

すると、突然シオンの視界が一転する。

荒れ果てた練魔の森から燃え盛る戦場へ。

そこには、人が居た。老若男女、種族、格好問わず、様々な人々が。

どれも、シオンには見覚えのある者達ばかりだ。

『憎い、憎い…!』

『よくも、わが父を…!!』

『返せ…あの子を返せぇぇ』

『報いを、受けろぉぉ!』

『死ねぇぇっ!このバケモノめぇぇ!!』

全て、シオンが今まで殺した人族と魔族たち。その数は、視界を埋めつくしても有り余る程。

そして桁外れの怨嗟、憎悪、憤怒あらゆる負の感情が闇となってシオンを襲う。

「ふむ。これはなかなか…」

即座に後退して、〈防御魔法シールド〉と魔力障壁、〈反魔法アンチスペル〉を何重にも展開するが、またもや闇は魔法をすり抜け、シオンに纏わりつく。

瞬間、とてつもないダメージがシオンの魂を襲う。

「なるほど、マーキングした対象を魔法空間に引き込む魔法か」

世界の中にもう1つ世界を創るようなもの。

魔法空間は構築に凄まじい技量と知識、魔力が必要な分、空間を支配する理をある程度自由にいじる事が出来る上に、魔法攻撃が

無防備な魂に、死者の怨みや怒りが突き立てられ、シオンの魂を傷つけ、破壊していく。

常人ならば、この負の感情に耐えられず、自ら命を手放すだろう。

「『怨嗟の審判は、終わる事のない報復。汝が今まで他者に与えた傷と痛みがそのまま返ってくるのだ』」

闇は更に勢いを増し、シオンの魂を蝕む。

怨念の刃が四肢を切り裂き、怒りの炎がその身を焼き、憎悪の雷が全てを貫く。

「『だが、それでも汝を始末するには時間がかかる』」

そう言って代行者は手を伸ばし、魔法を展開する。

「『〈天罰魔法ジゼ簒奪オクトリア〉』」

神々しい魔力を発する魔法陣が現れ、シオンに光を浴びせる。

すると、シオンの体から魔力、いや魂そのものが漏れだし、代行者に吸収されていく。

「『汝の力、我が貰い受ける』」

だがー、

「『がふっ!?』」

突然、代行者が吐血して膝を折る。

そして、その体からバチバチと黒電が漏れだした。

「『ば、馬鹿な…!?有り得ぬ、代行者である、神の名代である我がっ、許容出来ないだとっ!?』」

その間にも黒電は代行者の体から漏れだし、その身を傷つけていく。

まるで、肉体を内側から破壊されるような痛みに、代行者は顔を顰める。

「力が10分の1にまで落ちている、か。確かにな。だが、それが、どうした?」

「『ッ!?』」

目の前の闇の中からシオンの声が聞こえる。

「魔王が持つ滅びの魂は代々歴代の魔王によって受け継がれてきた。それは何故か?」

闇の中から、とてつもない魔力が膨れ上がる。

闇よりも更に深い、漆黒の魔力。

「魔王のみが握る事のできる神器、虚滅剣の力に耐え、それを御する為だ。そしてー」

ドドオオッ!と漆黒の雷が立ち上り、シオンに纏わりつく闇のみならず、魔法空間の空に亀裂を入れる。

「魔王の滅びの魂、虚滅剣の万象破壊の魔力が1つになったらどうなると思う?」

幾重にも魔法陣が描かれ、シオンを最強たらしめた魔法が展開される。

「答えは、こうだ」

神威魔法〈破滅黒雷ルイン〉。全てを破壊する無音の黒雷が周囲を走り、魔法空間ごと〈紫怨絶斬ギルヴァン〉を破壊した。

「『ぐ、ああぁぁ!?』」

魔法空間が砕け散り、練魔の森に風景が戻る。

「俺の魔法は魔力の多寡に関係無く、本来以上の破壊力を発揮する。お前達がどれだけ俺の力を削ごうと、奪おうと、結果は変わらん。全てが等しく滅尽するのみ」

シオンはゆるりと歩を進める。

代行者は、辛うじて立っているものの、既に満身創痍だ。戦う力は残っていないだろう。

「そんな俺の魂を取り込んだのだ。無事な訳がない」

「『…!!』」

シオンは、漆黒の魔力を漲らせながら魔法式を構築する。

「さあ、茶番は終わりだ。そろそろリリアの体を返してもらうぞ」

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