第14話 決闘と真姿
ゴバッ!!とお互いの足場が砕け、十数メートルの距離をコンマ1秒程で詰める。
蛇のように曲がりくねる斬撃を幾重にも放ち、同時に蹴りを撃つ。
だが、シオンはそれらを全て防ぎ切るばかりか、リリアの力と速さを遥かに上回る攻撃をしてくる。
自分の攻撃が終わった瞬間、〈
リリアはその都度、自分で抑えてきた魔力を無理に引き出し、シオンの膂力と速度に食らいついていく。
ああ、楽しい。
何の気兼ねも、遠慮も無く、全てを振り絞って剣を振ることがこんなに楽しいなんて知らなかった。
また少し、リリアが速くなる。
シオンは更に力を上げる。
もっとリリアが成長する。
その分を上回る力でシオンが剣を振るう。
成長する。
もっとレベルを上げる。
それを乗り越える。
また更にレベルが上がる。
それの繰り返し。
リリアが限界を超えて成長すると、シオンは力を吊り上げて突き放す。
余波で木々がなぎ倒され、大地が抉れていく。
池が両断され、川が寸断される。
2人の戦いは、少しづつ大戦の時代に近づいていた。
もうただの人間が届く限界はとうに過ぎている。
後はひたすら自分のもてる知識、技、力、感覚、魔力、全てを総動員してシオンと剣を交わす。
「あ、あははははっ!!すっごい!何もかも出し切ってるのに、全っ然勝てない!」
「なかなか筋は良いが、まだ荒削りだな。お前が押さえ込んでいる、その力をも引き出せ。でないと死ぬぞ」
「言われなくても、やって、やるわっ!!」
シオンの発破に応えるかのようにリリアの全身から、更に光輝く魔力が放出され、リリアの全身体能力を強化していく。
カレンに勝るとも劣らない力。
もはや、常人が扱える魔力量を遥かに超えている。
だが、覚えているだろうか。
デルタの町でソリドが使用した、許容量を超える魔力での〈
次々に強化される肉体に精神(というよりも脳)が追いつかず、暴走状態になる。簡単に言うなら魔力に酔うのだ。
シオンは動きが拮抗した瞬間に、かなり力を込めてリリアを弾き飛ばした。
「ふむ。ここらが今の限界だな」
リリアの呼吸は相当荒い。その上、限界を超えた魔力の使用による反動が出始めている。
〈心視の魔眼〉でリリアの体の状態を見れば、あちこちの骨に骨折寸前になるほどのダメージが蓄積し、筋肉は軋みを上げ、内臓も損傷している。
とても戦える状態ではない。
だが、上気した頬に笑みのまま固まった口許。
興奮し過ぎたかのような目は虚ろで、焦点がいまいち合っていない。
それでも体から溢れ出る魔力は黒と白が混ざった光を放ち始め、留まる所を知らない。
「よせ。それ以上は体も魂も大きく損傷する」
だがー、
「ふ、ふふふ…あはは、ははははっ!」
リリアは正気を失ったかのように笑い始める。ゴウッ!と魔力が渦を巻き、リリアの目の前で形を成していく。
「やれやれ、しょうがない」
そんな異常な光景を前にしてシオンが何もしない訳がなく、すぐさま〈終末の魔眼〉でリリアの全身を睨み、過剰に展開された〈
突如、虚空に2種類の魔法陣が現れ、そこから射出された魔力の鎖が、リリアを雁字搦めにする。かなり強力な〈
恐らく、〈
指定された条件は、『リリアが暴走した時』で間違いない。
誰が、何の為に、というのは後で調べれば良い。だがー
「ふ、ぐ、あ、あアッ!!」
これ程の魔法でもリリアの動きを止める事が出来ない。ギチギチ、と魔力の鎖が軋み、歪んでいく。
「させると思うか?」
シオンはその〈
しばらくは身動き一つも取れず、魔法も使えない。
まあ、それも焼石に水だろうが…
すると、タイミングを見計らったかのようにカレンから〈
『ちょっとシオン君!一体どうなってるの!?』
「少々、想定外の事が起きた。上空の魔法陣を消して、クラスの連中を護れ。余波で辺り一帯がめちゃくちゃになる」
『ええ!?』
「頼むぞ。恐らく、リリアはお前と同類だ。止めるにはかなり手間がかかる」
『え?ちょっー』
シオンは強引に通信を中断し、リリアを見据える。
木剣を〈
装飾は一切無く、鋳型に銅を流し込んで作ったかのような不格好な魔剣。
銘は〈
剣自体の能力を最低限にまで抑える代わりにある特性を持たせた、シオンが手ずから創り出した魔剣である。
「いつまで猿芝居をやっている。放出した魔力を隠れ蓑にして何やら画策しているようだが、あまりにも隠蔽がお粗末過ぎるぞ」
シオンがそう言うと、目の前で荒れ狂っていた黒白の魔力が意志を持ったかのように動き出し、リリアの体を覆う。
あぶれた魔力は背中に集い、黒と白の四対の翼を創り出す。
バチバチと魔力が反発し合うかのように周囲をぶつかり合いながら奔り、大地をズタズタにしていく。
そして、リリアがかざした手の平に一振の剣が現れる。
それは、禍々しい強大な魔力を持つ深紫の剣。
幅は熾焔剣の4、5倍程、刃渡りも2メートルはある。
剣の中でも
「なるほど、初めに出現した2種類の魔法陣。あれは片方が〈
つまり、リリアには元々2つの魔法がかけられていた。
1つ目は、魔力の暴走を利用して何らかの変化をもたらす魔法。
2つ目は、暴走した魔力と、発動した1つ目の魔法を封じる〈
「お前は、魔法で瞳の色を変えていた。更に、この時代の水準を遥かに超える魔力を必死に抑え、隠していた」
1歩ずつ、シオンは間合いを詰めていく。
「これだけ証拠があればお前は〈
シオンがリリアの目の前に立つ。
「…」
「お前達は、コレが狙いだったのか。名も知らぬ天使よ」
「『いかにも。我は天使。憎悪を守護する天使である』」
リリアの肉声と、天使特有の少しエコーが入った声が同時に響く。
「『だが、我はただの天使に非ず。偉大なる我が主に、憎悪の復活を託された、〈代行者〉である』」
リリアー、いや、〈憎悪の天使〉は高らかに言い放った。
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