第13話 決闘と圧倒

翌朝ー

練魔の森には、シオンとリリアが立っていた。

上空には〈通信魔法テレス〉を応用した、通して離れた場所を見る事が出来る魔法陣が浮かんでいる。

「おはよう。再起不能になる覚悟は出来たかしら」

「別に。俺が負ける事はないからな」

「んな…!?」

シオンの態度にリリアは青筋を立てる。シオンに掴みかかろうとした瞬間、魔法陣からマグナの声が届く。

『今から、個人対抗戦を始める。勇者の血に恥じぬよう、正々堂々と挑め』

やれやれ、どの口が言うのだか。

ため息をつきつつ、シオンは腰に下げた木剣を握る。

対するリリアの剣は、きちんと精錬された鉄剣だ。

「あなた、どこまで人を馬鹿にすれば気がすむの?」

険しい視線がシオンを射抜く。なかなかの殺気だ。

「まさか。いたってまじめー」

最後まで聞かずに、リリアは一瞬でシオンに肉迫する。

「二度とそんな口がきけないようにしてあげるっ!!」

鋭い横薙ぎの一撃。だが、シオンはリリアの剣身を柄で軽々と撃ち落とす。

その顔は、驚愕で染まっている。まあ、無理もないか。柄で剣を弾くなど、簡単に出来ることでは無い。

「どうした、貴族の力を見せてやるのではなかったのか?」

「ッ…な、めるなっ!!」

今度は1歩で死角に潜り込んでからの連撃。

この間合いから、普通なら反応すら出来ない斬撃を繰り出す技量は大したものだが、まだ、足りない。

今度は一足飛びで、瞬時に距離を取って回避する。しかし、もうリリアはシオンの目の前に迫っていた。

彼女はシオンの重心の位置と体勢から、次の行動を予測していたのだ。

「ふっ!」

リリアは閃光もかくやというスピードで距離を詰め、凄まじい速度でシオンの右脚、両腕に突きを放つ。

あまりの速度に残像が発生し、同時に3箇所を攻撃しているかのようだ。

「先程より速いな」

シオンは1段階レベルを上げて、3つの斬撃を柄で容易く打ち払う。

そして、ガラ空きになった胴体へ蹴りを入れる。

ドウッ!!という轟音。強烈な威力に耐えかねたリリアの体が大きく弾き飛ばされる。

「今のが限界か?」

「…あなた、何者なのよ…」

リリアはよろよろ、と剣を杖代わりにして立ち上がり、〈回復魔法ヒール〉を自分にかける。

しかし、まだ意識を失っていないとは驚きだ。とっさに後ろに跳んで、ダメージを軽減したのだろう。

その機転に免じて、答えてやるとするか。

「大戦の時代からこの時代に転生した。名前も同じだ」

「嘘よ。後にも先にも、〈転生魔法リライフ〉を発動出来たのは、2人しかいないわ…」

やれやれ、察しの悪い奴だ。

「だから、その内の1人が俺だと言っている」

「…証拠も何もないじゃない。ただ名前が一緒ってだけ」

「この俺自体が証拠だ。この体に流れる血、内包する魔力、全てがな」

もっとも、この時代の者は魔力だけでなく、感知能力も低すぎる。なので許容量を超えた魔力に触れると感覚が麻痺してしまうのだ。

強い魔力を持つものは、身に纏う雰囲気や迫力から違う。魔力や精神の弱い者は近寄ろうとも思えないのが普通だ。

それならシオン相手でも同じ事が起きてもいいはずだが、前述の通り、誰も彼もがシオンの魔力に当てられて感覚が麻痺している。

それ故に、入学式の時のような事が起こるのだ。

「もう少しマシなハッタリは無かったのかしら?」

「ふむ、困ったな。まさか話が通じないとは」

そう言いながらもシオンはリリアの斬撃を躱し、撃ち落とし、一切の傷を負わない。

「いい加減に、まともな剣を使いなさいよっ!!」

「はは。何だ、相手の武器が気になって集中出来ないか?」

「このっ!」

更に速度が上がるが、シオンにはまるで当たらない。

なかなかお粗末な剣だ。あれだけ大口を叩いておいて、まだこちらを気にかけている故に。

「やれやれ、仕方の無い」

「ッ!?」

これまで回避しかしてこなかったシオンが急に行動を変える。

足を止め、リリアの上段斬りを。バチイイッ!と刃がぶつかり合う。

リリアはまたもや驚愕するが、シオンの木剣をかなり注視して、初めて気付く。

よく見れば、シオンの木剣を魔法文字の帯が取り巻いているのが見える。

武装強化魔法アームズ〉と〈付与魔法エンチャント〉の魔法だ。この2つをシオンが使えば、どんな玩具でも神器をも受け止め、鋼さえも切り裂く名剣へと変わる。

「この程度の剣くらい、容易く斬り捨てて見せろ。それが出来たならば、お前が欲しているものをくれてやる」

「な、なにをよ…!」

ズガンッ!と剣ごとリリアを吹き飛ばして、シオンは言う。

「もっと上に行きたいのだろう?」

「ッ…!」

の事を、もっと知りたいのだろう?」

「それは…」

明らかに動揺した。

どうやら昨夜、シオンが魔法ごしに聴いた心の声は、やはり本物だったようだ。

「信じられないのならば体感させてやろう。大戦の時代の、剣戟を」

シオンは自身のギアを更に上げて、攻めに出る。

その速度は、先程の回避よりも数段上だ。

「うっ!?」

リリアも素晴らしい速度で木剣を防御するがー、

「甘い」

シオンは力任せに木剣を振り抜く。

周囲の木ごと、リリアを吹き飛ばす。

「立て。まだまだこんなものではないぞ」

「こ、の…ッ!!」

リリアは瞬時に立ち上がり、シオンの間合いに踏み込んでくる。その歩法は、先ほどよりも洗練され、無駄が無くなっている。

その手元が消え、鉄剣が閃光のように奔る。

「やるな」

今度もシオンは力任せに木剣を振り、リリアを弾き飛ばす。

だが、手応えが殆ど無い。斬撃の威力をほぼ完璧にいなされたのだ。

「今ので、限界を超えたと思ったのに…」

やはり、先程よりも簡単にリリアは立ち上がる。

顔には悔しさが浮かんでいる。

良い顔だ。ならば、それに付き合ってやるのが年長者の務めだろう。

「何をほうけている。何度でも挑むと良い。俺はここから逃げも隠れもせぬ」

そう言うと、リリアはバッと顔を上げる。

取り繕っているが、抑えきれぬ期待と興奮が見え隠れしている。

「体感させてやる、と言ったのは俺の方だ。お前が足腰立たなくなるまで続けてやろう」

そして、ダメ押しとばかりに、シオンはその旨を記した〈契約魔法エンゲード〉の魔法陣をリリアの元に飛ばす。

それに躊躇いもなく調印して、リリアは笑みを覗かせながら言う。

「がっかりさせないでよね?」

「ははは。誰にものを言っている」

リリアは剣を正眼に構え、シオンはだらりと剣を下げる。

数秒の膠着。そして、リリアが動いた。

更に極限まで無駄を削ぎ落とした歩法は予備動作が一切無い。

魔法を使ったかの如く、シオンの目の前にリリアが現れる。

「ハッ!!」

横に一閃。もはや剣身を捉え、柄で撃つ事は不可能な速度。

「ほう。まだ加速するか」

工夫を重ね、全てを尽くしたリリアの一撃を、シオンは容易く、その膂力にて迎え撃つ。

だが、今度はリリアが弾かれる事は無かった。

その代わりに、彼女の足元には小さなクレーターが出来ている。剣が衝突した衝撃を全て流し、地面に吸収させたのだ。

「やるな」

シオンは更に数倍の力でリリアを打ち据えるが、全て防がれる。そして、反撃までもしてきた。

それもいつもの直線移動する剣ではなく、蛇のように曲がりくねり、変幻自在に襲いかかってくる。

だが、それさえも簡単に潜り抜けてリリアを蹴り飛ばす。

ここまで撃ち合って、シオンは確信を得る。

この少女は、ゼラに匹敵する程の魔力と剣才がある。

しっかり鍛えれば、彼女をも超えるかもしれない。

なにせ、シオンはさっきから少しづつ力を吊り上げていっているが、リリアは〈強化魔法エンハンス〉を最大限に働かせて、必死にシオンの動きに食らいついている。

「いやはや、こんなにも先が楽しみな勝負は久しぶりだ。簡単に止まってくれるなよ?」

「っ、当たり前よっ!!」

2人はニヤリと笑いながらも更に剣を交わす。









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