第11話 授業初日とチーム決め
試験から2日後。
今日から魔法学院での授業が始まる。シオンとカレンは黒を基調とした制服を見に纏っている。
今は入学式の最中だ。シオンは国王が来ることを期待していたのだが、残念ながら行われるのは学長挨拶のみだ。
「流石に、本物の前にはそう簡単にでてこないか・・・」
だが、眼前で祝辞を述べている学長、スカサハとは旧知の(殺しあった)仲だ。流石は悠久の時を生きる神竜というべきか、ほとんど力が衰えていない。
「ーそれでは、新入生諸君の大いなる飛躍を期待しています」
そう締め括って入学式の全行程が終わり、教室へ移動する。
1年は2クラスあり、シオンとカレンは同じ2組だ。
「はー、友達できるかな…」
「はは、その心配か」
「だってせっかくの学院生活だよ?友達くらいいないと楽しくないよ」
「それも一理あるが、この学院の生徒にはあまり期待しない方が後の為だ」
などと話していると会話が聞こえたのか、2人の男子生徒が不機嫌そうな顔で近づいてくる。まあ、持っている魔力はかなり弱いのだが。
「おい、そこの魔族。お前、俺たちにケンカ売ってんのか?」
予想通り、突っかかってきた。
「何を言う。ただの会話をお前達がそう解釈しただけだろう。それとも、この国には貴族のご機嫌を取らなければならない法でもあるのか?」
「お前ら平民は貴族の為に存在しているようなものだ!平民は平民らしく我々の手駒となって大人しく媚へつらえていればいい!」
男子がそう言った瞬間、何人かが顔を暗くする。
この中にも平民の人間はいるようだ。
しかしー、
「ははは…」
「な、何がおかしい!」
シオンの言葉が自然と魔力を帯びる。憤りを感じているからだ。
「いやなに、王や貴族の存在意義も知らぬ小物が、随分と大層な口をきくものだと思ってな」
そして、バッチリ喧嘩を売った。
「んな…!!」
「民は貴族の為に存在しているのではない。逆だ。貴族が民の為にある。力の乏しい彼らの為に命を賭けて国を、法を護る者が勇者ー、お前たちの言う貴族だ」
大戦の時代に、人族の最高戦力であった勇者たちは決して人に対して傲慢であったり、横暴ではなかった。誰もが魔王という強大な敵を倒すために全てを賭け、民はそんな彼らに絶大な信頼を寄せていたのだ。
今の勇者の後継、つまり貴族が特権階級であるのもそのためである。
だが、今の貴族はその信頼を、誇りを失い、差別し、自分のことしか考えない愚物に成り下がっていた。
あの誇り高くも優しく、全てを護らんとした勇者や聖王たちの名を汚している彼らに、シオンは怒りを覚えている。
「民なくしては国は成り立たない。王なくしては国は滅びる。国が存続する上でお互いが要不可欠なのだ。その基本すらも分からぬ愚か者が、軽々しく人を侮辱するな」
しん、と辺りが静まりかえる。
誰も彼もがシオンを見てポカンと口を開けていた。
カレンがため息をつきながら距離を取る。
「き、貴様…、下等な魔族の分際我らに反逆するつもりか!」
「その言葉は反逆罪に当たる。ー死ね」
だが、2人の魔力が昂り、魔法が展開される寸前にー、
『自分の席に・黙って・座っていろ』
そう、シオンが命ずる。
すると、急に2人の魔力が霧散する。
驚き、声を上げようとするが、口が開かない。
その上、必死にもがく本人たちの意思を無視して、体が勝手に動いて彼らの席に着席して正しい姿勢をとって動かなくなる。
対象に命令通りの行動を強制する魔法、〈
捕まれば、10分は身動きが取れない。
そして、周りに目を向けるとー、
「「……」」
カレンを含む2、3人を残して全員が立ったまま気を失っていた。
シオンの常軌を逸した魔力に当てられて、体が反射的にスイッチを切ったのだ。もし、まともに受けていたらそれだけで死にかねない。
生物の防衛本能というやつだ。
「ふむ、少々やり過ぎたな」
シオンが指を鳴らすと、生徒達は一斉に意識を取り戻す。
「あれ?俺たち、何してたんだ?」
「急に目の前が暗くなった気がしたんだけど…」
「う、うーん…なんか頭が痛いな…」
すると、不意にカレンがシオンの肩に手を置く。
「シオン君。学院の中ではなるべく大人しくするって〈
目が全く笑っていない。
もし逆らえば、命を落としかねないダメージを負う事でも有名な魔法だ。
「
どんな魔法にも1箇所は穴がある。この場合は正にそれだ。
これは複合魔法〈
いくらカレンが強いといっても、まだまだ才能に任せて力を振り回しているに過ぎない。
「…じゃ、じゃあ周囲に被害を出さないでっ!」
「それ位なら簡単だ」
などと話していると、後ろから高圧的な声がかけられる。
「貴様ら、教室の入口で何をしている。さっさと席につけ!」
他の生徒は慌てて着席するが、カレンは、
「うへぇ…」
と、女子からぬ声を出し、渋面を作る。
教室にやってきたのは、入学試験の時にカレンに突っかかってきた教師、マグナだった。
マグナは全員が着席すると、黒板に名前を書いて自己紹介をする。
「マグナ・グスカムだ。2組の担任をする事になった。この私の栄えあるクラスに少々、下賎な魔族や下民が混ざっているようだが、まあいい」
どうやら、この教師も血統主義のようだ。
確かに、やけに貴族の縁者が多いとは思ったが、この男が裏で何かしたか。
「私がこのクラスを受け持つ以上、半端者はいらん。ボロを出さない内にここを去ることだな」
そう言って教室の1箇所をチラリと見る。
なんとも嫌味な男だ。
お陰で、教室の雰囲気がギスギスしたものに変わる。
「今から時間が来るまで、2人以上のチームを作れ。学院の授業の座学以外は全てチームで受けることになる。チームができたらリーダーを決め、情報交換等をしておけ」
そう言うと、マグナはさっさと教室を出ていく。
「スカサハは何をしている…」
こんなのが幅を効かせている時点で、校則も何もあったものではない。
「ね、ねえシオン君」
「何だ?」
「一緒にチームを組まない?」
「友達が欲しいのではないのか?」
「あはは…ちょっと気力が…」
どうやらこちらにも問題があるようだった。
「…少しは頑張ってみろ」
「そんなぁー」
そして10分後ー
2人は見事に溢れていた。
シオンが敬遠されるのはまあ分かる。意外なのはカレンの方だ。
どうやら、「侯爵家の長女」という肩書きが周囲を躊躇わせているようだ。
そんな中、1人の少女が歩みでる。
他の生徒より頭一つ抜けた魔力、バランスよく鍛えられた体に鋭い目。何より後ろで1つに纏められた真紅の髪が特徴的だ。
彼女はシオンを素通りして、カレンの前に立つ。
「カレンさん。もし良かったら私のチームに入りませんか?」
否とは言わせない迫力。もはや脅迫の域だ。
「えと、あなたは?」
だがカレンには全く通用しない。鍛えられている内にシオンの闘気や圧に慣れてしまったからだ。
そんなカレンの返答に彼女は、ビシリと固まる。
「あ、あら。ご存知ないかしら?大抵の者はこの髪を見て気付くのだけど」
そう言われて、シオンは髪を注視すると、見覚えのある魔力を見つける。
「ほう、大戦の時代に〈幻閃剣〉と呼ばれていた人族の剣士、ゼラ・ミストレアスの血族か」
教室中の視線がシオンに集まる。
「え、シオン君、それ本当に言ってるの?あの伝説の?」
「何度か会ったことはある」
ゼラ・ミストレアス。
幻閃剣の名の通り、異常な速さで振るわれる剣が幻の様に消えては現れ、全く捉える事の出来ない特殊な剣技を使っていた、赤髪の女剣士だ。その上、使っていた2本の剣もかなりの物だった。
「魔族最強の剣士、ソリドと戦って唯一引き分けた剣士だ。アーネストが居なければ、あいつが人族最強の剣士と成っていただろう。生涯独身でいると思っていたが、まさか結婚しているとはな」
シーン、と教室が静まり返った。
「シオン君、知らなかった私が言うのも何だけど、流石に伝説の偉人を呼び捨てはどうかと思う」
「すでに世を去った者にヘり下っても意味はあるまい」
瞬間、その場にいた貴族全員が、明確な敵意を向ける。
血統を重んずる彼らにとって、祖先は何よりも大事なのだろう。できればその気持ちを他にも向けて欲しいものだが。
「貴様ッ!!」
1人が突如、魔法を放つ。それを一瞬で熾焔剣を抜いたカレンが斬る。
「生徒間での私闘は、正当な理由がない場合は認められないんじゃないの?」
この学院の校則だ。だがー、
「は、学院の教師風情が我々を裁ける訳がないだろうが!」
聞く耳を持たない。
「そもそもお前は何のつもりだ!なぜ魔族なんかに味方している!」
違う。カレンはシオンに味方した訳ではない。
ルールをチラつかせて、事態を収束させたかったのだ。
原因は、先程から口を閉ざしている少女にある。
「あ、あのねぇー」
「いい。もう遅い」
「へ?」
シオンが立ち上がった瞬間、剣身の真ん中に黒いラインの入った長剣が、残像が出来る程の速さで振るわれた。
シオンはそれを難なく魔力を纏わせた右手で掴む。
「ッ…!!」
「確かに、あの女の子孫だな。気が短い所も似ている」
「あの御方を、私の家を見下すその言動。絶対に許さない」
こちらの話を全く聞かず、2閃、3閃ととてつもない速度の剣を振るう。だがー、
「お前、本当に幻閃剣を継いでいるのか?」
「なんっ、ですってッ!?」
ただの人間では視認するのも難しい斬撃をいとも簡単に防ぎながら、シオンは問う。
「彼女の剣はそんな薄っぺらい物ではない。速さの中に隔絶した技と意思が同居し、彼女自身が一振の剣のようであった」
だから、力で人族に勝る魔族の中でも最上位の実力者であるソリドとも互角に渡り合えた。
「お前は、ただの狐だ。
堂々と、言い放つ。
もはや、周りにいる貴族は言葉を挟むことも出来ない。
それ程の気迫だ。
「ーーいいでしょう。ならば明日、私と戦いなさい」
「なぜだ?」
「そこまで言うなら、あなた方魔族が侮っていた人族の連綿と受け継いできた結晶を、見せてあげます」
立派な決闘の申し込み。特に断る理由もないし、何より気になる事がある。
「いいだろう。場所はどこだ?」
「学院の隣にある、〈練魔の森〉で」
ダラル・カターテに隣接する迷宮のように広大な森だ。
確かに、あそこは良い修練所だろう。
「わかった」
シオンが了解すると、そのまま少女は教室を立ち去る。
だが、その寸前に、シオンは声を掛ける。
「ああ、そうだ」
「なによ」
「受け継いできた、と言っていたが、形だけ真似た程度では到底、受け継ぐとは言わないぞ。そんなものはタダの猿真似だ」
「〜〜ッ、明日は地獄を見せてやるわっ!!覚悟してなさい!!」
今度こそ、彼女は教室を出ていく。
やっと終わった、と一息つきかけた時、
「ねえ、シオン君。後でお話しない?」
…まだ終わっていなかった。
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