第10話 入学試験とカレンside

カレンは、シオンの引き起こす蹂躙劇を呆れながら眺めていた。

シオンの放った大雷魔法メガ・ライトニングが1人の生徒を消し炭にするが、周囲への被害は一切ない。相変わらず、異常なほど精密な魔力操作だ。

「うわ、あの男子、絶対トラウマになったでしょ」

カレンも蘇生魔法ネクロンはなんとか使えるし、使われたこともある。

あの体験は何度やっても慣れないものだ。

などと思案していると、校舎の玄関に取り付けられた魔法掲示板の文字が変化し、次の受験者を表示する。

『試験番号168 カレン・ユークリアス 試験場へ入室して下さい』

「わ、もう順番来ちゃった」

カレンは小走りで試験場へ向かう。

建物に入り、指定されたドアを開けると、広い訓練場のような場所に出た。

中央には試験官の教師が5人、待機している。

「む、カレン・ユークリアス君で間違いないかね?」

その中の1人、白髭の大柄な老人が声をかける。

どうやら彼がまとめ役のようだ。残りの4人とは雰囲気も、秘めている魔力も、桁が違う。

「はい。よろしくお願いします」

カレンはそのプレッシャーに当てられて、自然と体が固くなってしまう。

「ははは、そう緊張せんでもいい。1発魔法を撃ってもらうだけなのだから」

パチン、とその老人が指を鳴らすと中央に魔法陣が描かれ、〈創造魔法アーツ〉が展開される。

「試験は簡単。この私が創った魔法金属の柱に攻撃すること。威力、操作性、知識を一度に問う試験だ」

老人が創り出したのは聖剣や魔剣の芯材にも使われる魔法金属だ。

ちっとやそっとの衝撃では傷一つ付かない。

「剣と魔法、どちらが得意かね?」

「どっちもです」

即答する。

カレンの回答に他は不思議そうな表情をするだけだが、1人、噛み付いてきた。

「小娘風情が、我々が何も分からないと舐めているのか?剣も持たずによくも偉そうに言えたものだな」

メガネを掛けた神経質そうな男だ。

「ああ、聖剣の類を使う、という方が正しいでしょうか」

「それこそ有り得ん話だ!聖剣は、我ら選ばれし一族のみが手にできる最高級の武器!貴様のようなぽっと出のー」

「黙りなさい、マグナ先生」

突如、とんでもない殺気が空間を支配する。

「試験で家柄、身分は一切問わない。これは学院のルールですよ」

「し、しかしー」

「いいから口を閉じなさい。死にたいのですか?」

そこまで言われると、マグナと呼ばれた教師は納得のいっていない顔で渋々引き下がる。

「さて、話が逸れてしまいましたが…始めても?」

「あ、はい。大丈夫なんですがー、少し下がって貰えませんか?できれば10メートルほど」

「我らを遠ざけて何をすー」

「いや、普通に危ないので」

「貴様のような雑種にそこまでの力がある筈ないだろう!ホラ吹きも大概にしろ!」

カレンは心の中でうへぇ、とボヤく。

なんなのだコイツは。めんどくさい。とてつもなくめんどくさい。

「はあ、じゃあ貴方だけそこにいればいーじゃないですか。もう始めますよ」

「な、きさー」

話を強制的に打ち切って、カレンは手を上に掲げる。

「おいで。アルくん」

瞬間、カレンの頭上に巨大な火の玉が出現する。

それは次第に片手直剣のシルエットを取り、カレンの手に収まると、焔が弾け、流麗な紅い長剣が姿を現す。

「え、ちょ、待っー」

「疾ッ!」

熾焔剣の放つ膨大な魔力を焔に変え、カレンは長大な焔剣を振り下ろした。

凄まじい爆発と熱は魔法金属を蒸発させ、張り巡らされた結界を少々消し炭にしてようやく治まる。

「はっ、やりすぎた!?」

そう言えば、剣を振り下ろす瞬間にちょ、待っーと聞こえた気もする。

慌てて周囲を見回すと、教師陣は強固な防護魔法シールドを展開して爆発と高熱を防いだようだ。

一瞬遅かったのか、あちこち服が乱れているが。

「すすすすいません!やりすぎましたっ!」

謝る。超謝る。

「はっはっはっは!大丈夫ですよ。まさか神器を出すとは思いもしていませんでしたから、少し驚いただけですよ」

「え、えと…結果は…?」

「ご心配なく。文句なしの合格です」

ニコリ、と老人が微笑む。

「よ、良かったぁぁ…」

カレンは魂が抜けたようにその場に座り込む。

「君は本当に面白い。可能なら君が師事している人物の事も知りたいものですね」

それを聞いて、カレンは、やはり踏み込んできたーと気を引き締める。

シオンからは遠慮なく話していいと言われているが、それが吉とでるか凶と出るかは未知数なのだ。

そんなカレンの警戒が伝わったのか、老人は苦笑しながら言う。

「大丈夫ですよ。誰に教えを請おうと、それは個人の自由です。我々がとやかく言う問題ではありません」

そこまで言うなら、開示しても問題はない、とふむ。

「私は今日、一緒に試験を受けに来た魔族の男の子から全てを教わりました。名はシオン。シオン・クロスロードです」

名前を言うと、やはり少しざわめきが走る。

「伝説の魔王と同じ名前ですね。かなり高位の魔族なのでしょうか」

「いや、なんの爵位も持たないと言ってました」

そこまで聞くと、老人は満足気に頷く。

「まあ、君程の実力者が全幅の信頼を置く者なら問題はないですね。ありがとうございます」

「いえ…」

「先程も言ったとおり、試験は合格です。入学式は2日後になりますので、合格通知を持って、制服で午前10時までに来て下さい」

魔力で、合格通知と制服がカレンの目の前に飛ばされてくる。

「はい!ありがとうございました!」

カレンは深く一礼して試験場を出る。

「〜♪」

シオンに自慢しよう、とカレンは走って建物を出て行った。


一方、試験場ではー

「いやあ、驚きましたね。マーウィン先生」

先程の老人と1人の若い教師が残っていた。

「笑い事じゃないです」

カラカラと笑う老人にそこそこイケメンの若い教師が突っ込む。

「いやはや、まさかが弟子をとるとは」

「…僕は信じ難いです。シオン・クロスロードは転生した後、のですよ?話にでた彼が偽物なのでは?」

そう。それこそが今の常識。

シオン・クロスロードは神を討伐してこの時代に転生し、約50年に渡って今も国王として在位している。

「ああ、はただの贋物ですよ。実際に会った者にしか見抜けませんがね」

「無茶言いますね!?もうこの国で大戦の時代を経験している人物は貴方しかいませんよ、スカサハ学長!」

「ふふふ…」

すると、老人の体が光に包まれ、弾ける。

現れたのは、綺麗な金髪金瞳をしたグラマスな美女だ。

スカサハ・ベルデディート。

永きに渡って人族を護り、歴代の聖王と共に魔族と戦った、上位竜の中でも最上位とされる〈神竜〉の1柱だ。

知らぬ者は居ない、生きる伝説である。

「ふう、やっぱり異性に変身するのは疲れますね」

「まあ、骨格から違いますから。それはそうと、今の国王が偽物なら本物はどうするんですか?」

「ああ、彼ならもう私に気づいているでしょう。目的は、アーネストの情報を集める為でしょうね。近い内に向こうから接触してくるでしょう」

スカサハは気まずそうに虚空を見つめる。

「聖王様はまだ転生できていないのでは?現に学長の情報網と魔法でも手がかり1つ掴めていないんでしょう?」

マーウィンはそう言うが、スカサハには確信めいたものがあった。

「王宮に安置されていた神器と聖剣のほとんどが突然姿を消した事件を知りませんか?行方知れずとなった剣たちはどれもアーネストが使っていた剣なのですよ」

霊器や神器は持ち主を選ぶ。そして、呼ばれたらその持ち主の元へ駆けつける。

「つまり、聖王様はすでに転生転生しているが、なんらかの事情で姿を現すことが出来ない、と?」

「そういうことです。恐らく、まだ何も終わってはいないのでしょう。むしろ、ここからが本当の始まりなのかもしれません。ですがー」

シオン。この世で唯一、スカサハに刃を届かせた最強の魔王。彼ならばー

「彼ならば、どんな理不尽も思惑も乗り越えてくれるでしょう」

「…」

そうして、入学試験は幕を閉じた。


ーちなみに、シオンは、喧嘩を売ってきた試験官を一方的にボコボコにした上に、神殺紅雷槍ロンギヌスまで使って、見事合格したとさ。




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