第7話 再会とお仕置き
城壁の上からカレンとシオンが寝入るのを待っていたのは、シオンの読み通り、護衛騎士に扮していた魔族だった。
彼らは言葉を交わさず、ハンドサインのみでやり取りをし、二手に別れ、無音のまま恐ろしいスピードでカレンとシオンに迫る。
シャッと引き抜かれた剣が寝ているシオンに刺さる瞬間、シオンがスっと目を開いて襲撃者を睨むと、襲撃者の纏っている軽鎧、武器、道具がパンッと塵に変わる。
「!?」
襲撃者はその驚愕の出来事に一瞬、隙を作ってしまう。
たかが一瞬、されど一瞬。史上最強の魔王相手にほんの0.1秒でも隙を見せるというのは自殺行為に等しい。
シオンは襲撃者に〈
「カレンの方に3人行ったか…」
シオンがカレンの寝ている方角に目を向けると、ギュゴォォォッ!と夜空を煌々と照らす火柱が上がった。
耳を澄ませば、「ぐはぁぁぁぁっ!?」という悲鳴?も聞こえてくる。
そう予測しながらシオンは、自分を襲った魔族を魔力で浮かせてカレンの元へ向かう。
ーーだが、そこで見たのは、地獄だった。
鎧を破壊された魔族3人があちこち焦げた服で正座している。
しかも彼らの正座している石畳には常時熱を発する〈発熱魔法陣〉、踏んだ者の魔力を奪う〈強奪魔法陣〉と動きを封じる〈拘束魔法陣〉が刻まれていて、その上に正座。となると当然ー、
「たっ、頼むっ!陣を解除してくれっ!」
「あ、熱いぃぃぃ!!」
「ぐ、ぬう…」
こうなる。一方、魔法陣を設置した張本人であるカレンはなぜか恍惚とした表情をしていた。
「あぁっ、いいねっ!その悲痛に歪む顔っ!フフフ…見てるだけでゾクゾクしちゃうな…アハッ☆」
トリップしていた。
実はカレン、普段は誰にも分け隔てなく接する優しい美少女なのだが、その本性は、最強の魔王も回れ右して逃げ出す超ドSだったりする。
本人曰く、
『いつもはセーブしてるけどね、スイッチ入っちゃったらもう止まれないの…』
との事。
シオンは、スっと気配を消す。
「ほらほら、頑張って〈
魔力を常時強奪されているのに、無茶な話だ。
3人とも微弱な
「頼むっ…止めて、くれぇぇ!」
「もう、魔力が…限、界…ぁぁぁ」
「ッ…はあっはあっ…」
シオンは
その魔族が裏切られたような顔をする。
その間にも、カレンの蹂躙は続いてー、
「フフフ…さあ謝って。地べたに額を擦りつけながら『生意気言ってすいません』って謝って。そしたら陣を止めてア・ゲ・ル☆」
とても嗜虐的な、美しくも底冷えするような笑顔で言う。
シオンは自身の魔力反応も隠蔽する。
捕まえた魔族も魔力と身体の自由が効かない中、必死に魔力と気配を隠す。
「ふざけるな…!我ら誇り高き魔族が、人族如きに、がぁぁぁぁっ!?」
急に〈発熱魔法陣〉の熱が上がる。
「アハッ☆ごっめーん、魔力が滑っちゃった☆」
カレンがいっけなーい☆という感じの笑顔で、更に魔法陣へ魔力を送り、効力を強化する。
「「「あ"づあぁぁぁぁぁッッ!!?」」」
ついに
2分後ー。
「お願いしまずっ!だずげでぇぇ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「……ッ!!」
悪魔もドン引きするような恍惚とした顔のカレンと泣き叫び、目に生気がない魔族というカオスが出来上がる。
「クフっ、いいねぇ。そういう表情とか、足掻きって、いくらでも見てられるね…んうっ、興奮する…ハアハア」
カレンの闇堕ちが順調に進み、魔族達は熱さに抵抗する気力さえも削り取られていく。ついでにシオンの精神も削られていく。
シオンはその場に捕まえた魔族を置いて回れ右をする。
置かれた魔族は涙目で首を何度も横に振る。
それをシオンは華麗にスルーするが、
「…まさかな」
シオンは、拷問されている魔族の1人に見覚えがあり、また視線を戻す。乱れた少し長い髪で顔が隠れて誰か確認出来ないが。
「謝っただろっ!早く出じでぐれっ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
すでに熱は足元だけでなく体中を熱している。
「だぁ〜め。謝る時は、ちゃんとみんなで謝るのが基本でしょ?アハッ☆」
その瞬間、何も言わずにひたすら耐えていた魔族がついに怒声を上げる。
「ふざけるなッ!!私は、〈魔剣将〉のソリド・ウルースだぞッ!人族などにがぁぁぁぁ!?」
ソリド、という魔族の下にある魔法陣だけ効力が跳ね上がる。
「ねえねえ、今どんな気持ち?下等生物とか害虫とか言ってた人族に嬲られるのってどんな気持ち?クフッ☆」
カレンはさらっと無視して更に煽る。
だが、シオンは魔族の名前を聞いて固まっていた。
ソリド・ウルース。大戦の時代で、魔族最強の剣士と謳われた英傑だ。
「…冗談はよせよ…」
シオンは冷や汗をかく。
魔族最強の剣士をいとも簡単に制圧してしまったカレンはどれ程強いのか、という話になる。
すると、
「この小娘がぁぁぁぁ!!!」
ソリドが激昴し、魔力が昂る。すると一瞬だけ、ほんの僅かに胸元が発光し、シオンの眼がある魔法を捉える。
次の瞬間にはシオンはカレンの真横に移動し、終末の魔眼で魔法陣を睨んで停止させる。
長い苦しみから解放された魔族達はその場に崩れ落ちた。
「あーっ!シオン君!まだ遊び終わってないのにーっ!」
カレンが子供のように頬を膨らまして抗議してくるが、シオンはカレンの額にバチンッと強烈なデコピンをお見舞いする。
「あうっ!」
「お遊びはそこまでだ。ちょっと黙っていろ」
シオンはソリドに向き直り、声をかける。
「よう、ソリド。久しぶりだな」
ソリドは、大戦の時代にシオンを支えた3人の英傑、三魔将の1人でもあった。
シオンの姿を見たソリドは驚愕に目を見開いて、何かを言おうとする。
しかし、またソリドの胸元が一瞬発光し、表情が切り替わる。
「
そして、魔法が効果を発揮してソリドの人格が、魔族最強の剣士から魔族至上主義者へと切り替わる。
「貴様…薄汚い人族の味方をするとはどういう事だっ!恥ずかしくないのか!?」
「何を言う。ソリド、俺は500年以上前から口を酸っぱくして言い続けたハズだぞ?憎しみ、怒り、欲に捕われるな、同胞を護る為に力を振るえ、と」
「ふざけるな!私こそが、魔族こそが正しいのだっ!!」
シオンは、言葉に魔力を込めてソリドの魂を揺さぶっているが、
「いいか?俺達は互いに、相手に足りないものを持っている存在だ。人族には魔族のような力と知識がない。魔族には人族のような数と技術がない。それらを理解した上で手を取り、補い合えば、世界はもっと豊かに、平和になると思わないか?」
シオンは更に強い魔力と、切実な想いを言葉に乗せる。
それはより強くソリドの魂を揺らし、
「私、は…うー」
だが、ソリドの眼からあの狂気の抜け落ちたかに見えた瞬間、突如、町の中心に展開されている
その魔力はシオンの想いと魔力を跳ね除け、
「ふむ、
恐らく、この
「シオン君!」
ソリドの隣で気を失っていた残り2人の魔族をいつの間にか回収していたカレンが熾焔剣を抜いてこちらに走ってくる。
「来るな、お前では勝てん」
「でもっ」
「あの
「う、うんっ!」
カレンはそのまま方向を変え、町の中心に向かう。
「邪魔ヲスルナ…」
カレンに気付いたソリドが恐るべき速さで魔法を展開し、放つ。
「まあ待て。ゆるりと話をしようじゃないか」
シオンが終末の魔眼でその魔法を破壊する。
「魔王…もウお前ノ時代は終わっタ…速やカニさレ」
大量の魔力で能力を強化しすぎるあまり、精神が肉体についていけていない。言葉も片言になっている。
「今更、魔王の座にも力にも執着はない。だだ、お前の様な馬鹿ものに雷を落としに来ただけだにすぎん」
シオンは瞬時に
だが、ソリドの手がシオンでも視認しづらい程の速さで閃き、魔法が全て斬り払われてしまった。
いつの間にかソリドの右手には柄から刃まで白い長剣、〈斬魔剣ガーベラ〉が握られている。
その名の通り、魔法を斬ることのできる魔剣だ。
ちなみに、この世界の武器には3段階の等級が付けられていて、
最下位が、ただの鉄などで造られた 鉄器。
真ん中が、魔剣や聖剣など強い力を持つが神器に及ばない物を霊器
最上位が、神や天使とも素の性能で打ち合える力をもつ神器となっている。
ソリドが主に使うのは7本の魔剣だが、どれもが神器にも勝るとも劣らない逸品で、どれも相当使い込まれている。
更にソリドが左手を上げると、そこに深い紅の刀が現れる。澄んだ魔力をした流麗な刀。
〈斬魂剣ギリティルス〉、あらゆる物質を透過して命の根源である魂のみを切り裂く魔剣だ。
500年前に何度も見たソリドの臨戦態勢。
「ヌンッ!!」
一息に100を超える連撃が左右同時に繰り出され、シオンを多角的に襲うが、その全てが漆黒の魔力に阻まれる。
「どうした?大量の魔力を用いた
「ば、バカな…っ!!」
今度は先程よりもさらに斬撃の鋭さと数が増すが、シオンはそれを〈複合魔法・
バチバチと魔剣と黒い障壁がぶつかり合い、火花を散らす。
「な、なぜだ!なぜ斬れない!?」
「
そして、斬魔剣と斬魂剣はただ当てればいいのではなく、技をもってきちんと斬らなければならない。
「おのレェッ!」
ソリドが更に攻撃を重ねようとするが、その前に青白い魔力の刃がソリドの胸に刺さる。
「いい加減に目を覚ますといい。〈
そしてソリドにかけられた
「剣はあっても、技がなければそれはただの鈍らだ。覚えておくんだなー、と言っても遅いか」
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