第5話 手掛かりと天使襲来と
シオンが展開した魔法は〈
魂の深層に潜行し、干渉できる魔法だ。
その上、干渉した魂の過去、本質、状態を見ることができる。
「あとはお前にかけた〈王子の口付け〉を解除する方法だが・・・」
そこまで言うと、再びカレンの顔が紅くなる。
「魔法を掛ける時の手順を逆から行う、というものだ。前世の俺なら〈終末の魔眼〉で片付くのだが、今の魔力では発動できない。許せ」
「うん・・・全然大丈夫だよっ。むしろ何度でもーゴニョゴニョ」
「・・・?最後の方はなんと言ったんだ?」
「な、なんでもない!」
「そうか。なら始めるぞ」
再び、シオンとカレンは口付けをする。
だが、今回もぐずぐずしている時間はない。シオンは口付けが終わるとすぐに、カレンの勢いを取り戻す前の魂魄に魔法をかける。
「〈
カレンの魂魄が魔法を焼き切ってしまう程に強いなら、抑えつけるのではなく、
「まあ、30分で十分なのだが、念の為にな」
そして、シオンの意識はカレンの魂魄へ入り込んでいく。
「ふむ。ここか」
ストン、とシオンは真っ暗闇の中に着地する。
当然シオンの思念体、意識だ。肉体は現実世界で眠っている。何も見えない暗闇だが、シオンが奥に目をやると、ビキリ、と空間にヒビが入り、何百枚ものガラスが割れるような音と共に暗闇が崩れていき、紅い光が辺りを満たして風景を形作っていく。
カレンの魂魄の深層。その風景はー、燃え盛る大地だ。
元は綺麗な草原だったのだろうが、今は全てに火が付き、燃えている。
「…どうりで、通常の
シオンの説を裏付けるように、燃える草原の中心部に一際紅く輝き、脈打つ柱が突きたっていた。明らかに、この深層世界では異質な存在。
その柱から紅い魔力が流れれば、それは地面を伝い、炎を更に大きくする。
近付いて見れば、それは柱ではなく、紅い、炎の魔力に覆われた一振りの長剣であることが分かる。
柄から剣先まで真紅の流麗な剣。鍔に竜と剣が重なるような紋様が刻まれた蒼い宝石が嵌め込んである。
「
歴代の聖王が使っていた様々な神器の内の1つだ。剣自体がとんでもない炎属性の魔力を秘めており、その熱は城を融解させる程の力を持つ。その上、炎に関するあらゆるモノの上位存在なので、それらを従え、吸収して己の力に変換するというオマケ機能付きだ。
だが、そんなとんでも神器でもー
「俺が永久氷塊に封印してやったがな」
魔王に届くことはなく、コテンパンにやられた後、折るのは流石に可哀想だと思ったシオンが溶けることも砕けることもない永久属性を付与した氷に封印したのだ。しかし、その30年後に聖王となったアーネストの使う〈
因みに紋様が刻まれた蒼い宝石は、聖王を示す装飾でもある。
この時点で、シオンより前に人族に縁のある誰かがカレンの魂魄に干渉したことが明らかになった。
熾焔剣からは凄まじい熱が放出されているが、シオンは逆にそれを吸収、魔力へ変換し、自身の力を少しづつ回復させる。常人ならすぐに許容量を超えて暴発するのだが、シオンのカンストした魔力量を回復させるには全く足りない。
シオンは簡単に熾焔剣の元に辿り着き、柄を握り、大地から抜く。
すると、突然刃が突きたっていた場所から炎が吹き上がり、それが翼を持ち、炎で出来た無貌の巨人を創り出す。
『許さぬ…許さぬ…魔王シオン・クロスロード…』
「ほう、〈火焔の天使〉か」
天使とは、神が手ずから創り出す分身体だ。
目の前の天使は〈火焔神〉の天使だ。
「お前の主に危害を加えた記憶はないが?」
『神は世の秩序を、与えた理を狂わす事を、許さぬ…』
「は、笑わせるな。人々を滅びに導く神も、終わりを強要する秩序も理も俺達は必要としていない」
『許さぬ…神に逆らうこと、許さぬ…』
「ふむ、話にならんな。どうやってカレンの深層世界に入り込んだかは知らんが、とっとと出ていって貰おう」
今のシオンの魔力では、天使を殺しきる事は出来ない。
『できぬ…神に、その一部である天使に、人の力は届かぬ…』
「そうか?やってみなければ分からんぞ?」
そう言った瞬間、シオンは〈
『人の手は、神に届かぬ。まして、力を失い、神器すら抜けぬお前では』
火焔の天使は一瞬で複雑な魔法を構築し、展開する。
『〈
大量の魔力が込められた炎の流星がシオンに降り注ぐ。太陽を想起させる程の熱だ。
魔法は基準となる一番初期の魔法から建物が吹き飛ぶ
今回、火焔の天使が放ったのは上から二つ目の極限魔法。
今の力が1割も戻っていないシオンでは防ぐのは非常に困難だ。だがー
「聞こえなかったか?俺は出ていけと言ったぞ?」
膨大な熱を内包した流星は、シオンに触れる直前で掻き消えた。
『!?』
「天使如きが、俺の前に立つこと自体が烏滸がましいぞ」
シオンが殺気を込めて言うと、周囲の大気がパリパリ、と帯電し始める。
「さっさと消えろー、〈
すると、シオンの魔力がごっそり減るのと同時に帯電していた大気が紅い雷槍に変わり、凄まじい勢いで天使に殺到する。
初期段階で
『ぬうっ…!』
流石に不味いと思ったのが、炎の翼を何重にも重ねて強固な盾を作り、
『ぐ…ぬ…っ!』
両火焔の天使は手に魔力を集めて受け止めるが、ジリジリ天使の力が
「ほら、早く決断しなければー、死ぬぞ?」
シオンは更に氷の槍、炎の矢、風の刃、水と土の砲弾を雨あられのように打ち込む。だが、威力はそこまでない。
そう、完全に嫌がらせである。そしてー、
『おのれ、覚えていろ魔王っ!その内貴様らの選択が、間違っていたことを、思い知るだろうっ!』
「あいにくと、神や天使など元からあてにしていない」
冷たく言い放つ。
『我は、主の復活の為に再び舞い戻るっ…!そして、我らが主が復活した時こそが、貴様の最後だ…!』
突然、天使の体がブレたかと思うと、煙のように姿が消えていた。神界へ戻ったのだ。
「ふむ。とりあえずカタはついたか」
すると、天使の魔力が消えた為か、あちこちで上がっていた火の手が少しづつ衰え、消えていく。
このペースならじき消火も終わるだろう。
そしてシオンが
「なるほど。お前は暴走していたのではなく、カレンを天使の干渉から守っていたのか」
そう問うと、熾焔剣が返事するかのように明滅する。
神器には持ち主と認めた者を守る性質がある。カレンに魂魄弱体化が効かなかったのも熾焔神剣の抵抗だったのだろう。
「カレンを主として認めるのは構わないがな、もう少し何も分からぬ主に寄り添ってやってもいいのではないか?」
今度は少し間を空けて熾焔神剣が明滅する。
それを満足気に見届けて、シオンは今度こそ
目を開けると、グラスク侯爵とカレンが心配そうにシオンの顔を覗きこんでいた。
「遅くなったな。少々、居候を追い出すのに手間取ってしまった」
シオンは伸びをしながら〈
「もう、これで心配は全て消えた。髪色も暴走する力も偏見も、もはやお前を縛ることは出来ない」
唖然とするカレンにむけて、更に言葉を重ねる。
「そして、お前を強くする。どんな悪意にも屈さない強さを、くれてやる」
「なにそれ、ほんとに魔王みたい…」
シオンの言うことを信じていないのかそんなことを言う。
だが、シオンは、魔王はどこまでも不敵に笑う。
「何を言う。俺はシオン・クロスロード。最強で最凶の、全てを、運命であっても滅ぼす魔王だぞ?」
そうして、シオンとカレンの、国どころか大陸を巻き込む激動の日々は、幕を開けた。
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