第2話ママチャリ

 「ここは……うっ頭が! なんだよこれ、いろんな情報が頭の中に流れて、くる……?」


 突然酷い頭痛が走太を襲う。 


 だが、しばらくするとその頭痛も嘘のように治る。

 すぐに、今の強烈な頭痛の原因を生み出した存在をどうしてくれようかと考えるが、とりあえず今は置いときこの後どうするかを考える。


「まずは、此処から移動するとしますか。 まあ、絶対にこの頭痛仕返しはするけど……っと本当に凄いな知らないはずなのにここがどこだがわかる」


 神様は説明を面倒くさがり直接脳内に譲歩を入れるという暴挙に出た代償はとても高くつく事になった。


「とりあえずこの森を抜ければいいのかな? 街がある場所まで徒歩で3時間くらいか、もうちょっとちかいところでもいいんじゃないかな。まあ、うだうだ言ってもしょうがないし行くとしますか」


 余りに大量の譲歩を脳が処理出来ずにオーバーヒートを起こしたが、異世界スペックなのか思った以上に冷静にいる事が出来た。


 そして、早々にどうするかを決めた走太は人が住んでいる街に向かって歩き始める。


 ちなみにだが、走太が転移したこの場所は今から向かおうとしている、街から徒歩で約半日の場所にどこにでもるような名もなき森の一つだ。ここには危険な生物も珍しい植物もない本当にただの森、その為ここには滅多な事では人が来ない場所となったいる。

 そして、少し歩けばすぐに人の通る道に出る。


 それを神様から貰った情報の中にもあったので疑うこともなく森を進む。時折目にする地球では見たこともない植物を見て興奮を隠せないでいる、本人はまだちょっとした冒険気分でいた。


 走太はしばらくするとふと、違和感を感じる。この森には滅多な事では人が来ないはずなのにこの先で人の気配がするような気がしたのだ。それも一人や二人ではなくもっと大人数でハッキリとわかるわけじゃないがすくなくともこんな危険もない森に来るような人数ではない事だけは確かだった。


「なんだろう? 人の気配みたいなのが……なんでだろう、凄くテンプレな予感だぞ」


 疑い半分、好奇心半分、もし本当に危なかったら逃げればいいと、そんな考えで人の気配がする方向へ進む。


  「おい!早く連れて行くぞ!」

「わーてますよ。オラ!とっとと歩けあんまり駄々こねていると優しいおじさんも怒っちゃうぞ?」

「ぎゃははは。誘拐しようとしている奴が優しいとかふざけすぎだろ!!でも、まあそうだな……あんまり騒ぐようならちっとばかしその体に現実ってものを教えてやる必要があるかもなー?」


 走太が到着するとそこには某世紀末伝に出てきそうな男たちが十数名で、おとぎ話の世界から紛れ込んだんじゃないかと勘違いしそうな美少女一人を囲っている。美少女の口にはロープらしきものが噛まされており声が出せないようになっていた。


 ここが地球ではない異世界だとしても緊急事態なのは見て取れる、だがこの世界には電話一つで駆けつけてくれるおまわりさんはいない。

 とりあえず、どうすればいいかと考えていると男たちが騒ぎ出す。


「お頭それは名案ですが、これだけの綺麗処だきっと初物でしょうが……いいんすか?」

「んーーー!?んーー!!?」


 少女は必死に抵抗するが全くの力不足簡単に腕を捕まれ身動きが取れなくなってしまう。


「初物の方が高く売れるがここまで生きがよすぎると運ぶのも手間だしな。少し回して大人しくさせねぇとなぁ? ああ、最初は俺が味見してやるからそのあとお前らにやらせてやる。壊すなよ?大事な商品だからなー!」

「違いねぇ!」


 お頭と呼ばれていた男がそう叫ぶと周りの男たちも楽しみが出来たと言わんばかりに大声で笑う。


 あからさまな異世界テンプレ茂みからそっと見ていた走太はそれはもう……超ビビっていた。

 ちょっと異世界にきて気分が高揚していてもガチな犯罪の現場に出くわしたら大体の人間はビビるだろう。それがごく普通の日本人なら尚更だ。



 いやいや、どうしよう?!このままほっといたらあの子はきっといや間違いなく大変なことになるよな……でも今の僕じゃなにも……いや駄目だ余りにもリスクが高すぎる、でもこれ以外に方法なんてないし。てか、あの神様が用意したスキルって本当に大丈夫なのかな……


 そうこう悩んでいるうちに男たちが休憩を終えて動こうとしていた。

 それに気づいた走太は覚悟を決める。今考えている作戦は森の出口が近いこの場所で、男たちが油断しきっている今しかできない、なら……



「ここでやらねばチャリダーの恥!」


 気が動転してよくわからない覚悟を決めてすぐに行動に移す、今いた場所から気づかれないように少し離れるとスキルを使用する。


「まさか、初めて使うスキルがこんな危機的状態だとは、萎えてもしょうがない。えっと【収納】をイメージしながら、自転車を取り出すっと……おお、本当に出た。次はこれを自転車に……今の状況ならママチャリがベストなんだけど、おお!これは凄いなイメージ通りのザ・ママチャリになった!」


 走太が今必要としていた自転車それは、ママチャリで間違いなかったが一言のママチャリといえど様々な種類がある。その中で走太が選んだのは前にかご付きで後ろには荷台があるタイプだった。本当はギアも一緒に付いている物がよかったのだがイメージ段階で魔力が足りないのが理解できたので諦めることにした。


「準備は出来た、よしやるぞ、そらやるぞ!」


 ママチャリにまたがり一気にペダルを回す。木々に当たらないように気を付けながら更に加速する、そして……


「うああああああ!?」

「な、なんだお前こっちくんぐぺ?!」



 少女を拘束していた男を全力体当たり(自転車)で吹き飛ばす。男たちは何が起きたのか一瞬で理解できずにフリーズする。その隙に少女を抱きかかえ荷台に座らせる。


「しっかり僕に捕まってて!」

「ーー??!!」


 少女はとっさの事でまだよく状況が理解できていなが、今自分を助ける手間に行動してくれているという事だけはわかったので大人しく指示に従う。

 こんな怪しげな乗り物に少女がしっかり乗ってくれてことに一先ず一安心したが状況は未だ最悪に近い。

 吹っ飛ばされた男は運よく気絶(走太は気絶だと信じている)してくれたので残るは九人なのだが、流石に僕がこの子を助けに来たと理解したようで僕達を囲むように人が立っていた。


「えーっとすみません。そこを通してはくれませんかね?」

「…………」

「いあ、お仲間を轢いたことは謝りますよ?でも、これはどうみてもそちらさんが……うっわ?!なにすんるんですか?!」

「おい、クソガキなに寝ぼけたこと言ってんだコラァ?俺達の仲間を一人ヤッておいて随分な物言いだァァ?」


 うわー、まあそりゃこうなりますよね。さて、武装した集団が9人僕達を囲っている。うんどうしようもないなこれ、よーしこうなったらあれしかないな。


 余りの極限状態によりアドレナリンが爆発しておかしなテンションになっている走太は起死回生の一手に出る。


「えーと、ここから逃がしてはくれないみたいですね……もうこうなったら大人しく捕まりますよ。あっ!!兵士さーんここでーす!!」


 突然の走太が助けが来たことに喜ぶとその場にいた全員の意識が声の向けた方向へ行く。勿論、その先に助けなどいるはずもないのだが、一瞬でも意識がそれれば十分とママチャリが動き出す。火事場の馬鹿力ともいえる爆発的なスタートダッシュで一気に包囲網を抜ける。


「馬鹿野郎!これはあいつの嘘だ!すぐに追え!女も多少なら傷ついてもいい!矢と魔法を打つんだ!!


 男の指示でいくつもの矢と魔法が二人めがけて飛んでい行くがどれとして当たらない否当たっているはずなのにすり抜けていく。


「っなぜだ?!なぜ、矢も魔法もあらたねぇんだ!?」

「ダメですお頭、あの速度じゃ走っても追いつけやせん。それにあっちの方向は……」


 弓を撃っていた男の一人がそう報告すると手にしていた弓を次目にたたきつけ怒鳴るように指示を出す。


「ちっ!くそが!!おい、お前ら撤収だ!ここにいたら街に帰ったあいつらから話を聞いた兵共が来るからな。もう、これ以上ここでは仕事はできん。次の狩場に移動するぞ!」

「「「へい」」

「あの黒髪のガキ……顔は覚えたからな、次あった時は絶対殺す」

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