放課後トーク
第25話 【化学】理系とセラミックス
「そういえば今朝、先生方凄く怒ってたわね。何があったのかな?」
「ああ、どうやら校長が自分の壺を一年坊主に割られたらしいな。相当大事なものだったみたいで、午前中は職員室で落ち込んでいるのを見たぞ。まあ教頭がずっと側で慰めていたが」
「ふふ、なんだか微笑ましいコンビね。でも、それならどうして他の先生もあたふたしてたんだろう?」
彼は立ち上がり、廊下の方を指差した。
「現場に行けば分かるぞ」
※
「なるほど...。かなり傷ついてるわね」
例の壺が割れた場所には不自然な凹凸があり、派手に衝突したことが伺える。
「高級な壺ってこんなに破壊力あるんだなあ」
「おそらく陶器よりも硬い磁器の壺だったんだろう。そうでなければ壺が割れたくらいでこうも床を抉ることはないはずだ」
「陶磁器って言葉はよく聞くけど、本当は別れてるんだね」
「ああ、原材料はたしかに長石、石英、ケイ砂と同じものなんだが、固める温度は陶器よりも磁器の方が高いんだ。一方で、土器は粘土を700〜900度と比較的低い温度で固めるとできる」
「そうなんだ、じゃあ手間かけてる分完璧に仕上がった磁器の方が、値段もお高くつく訳ね。校長先生が落ち込むのも無理ないわ」
「いや、そうとも限らない。土器、陶器、磁器の中で一番硬いのはもちろん磁器だが、吸湿性に関しては一番劣っている。逆に、土器は非常に湿気と相性が良いし、陶器だって程々に湿気を吸ってくれる。だから用途によって、需要も変わってくるぞ」
「やっぱり、物事には一概に良い悪いって評価をあげられないんだ。科学分野とか特にそういうもの多いわよね、原子核の研究が生活を豊かにすることもあれば、兵器に使われることもあるし」
「君の感想は、いつも的を得ているんだな」
「へへ、当然よ!教師たるもの、いつだって客観性が大事だもの」
「でも、材料の化学だって着実にいい方向にシフトしているんだ。例えば、ファインセラミックスが良い例だろう」
「聞き覚えはあるけど、ハイテクな機械とかに使われる部品か何かかしら?」
「君の言うとおり、刃物であったりエンジンであったり、アルミナや炭化ケイ素などの特別な機能を持った物質を組み合わせて、その性能にあった加工をしている。土器、陶器、磁器にガラスやセメントを含めてセラミックスと呼ばれていて、金属以外の無機物質を高温で加工したものだ。対して、自然界にない人工の化合物を加工したのがファインセラミックスだ。これらは、俺たちの生活を段違いに便利にしてきたんだぞ」
「なんだか、大手工業品メーカーの回し者みたいな饒舌っぷりね。でも、またこれで一つ賢くなった気がするわ」
「ちなみに校長はもともとセラミックス系企業からの転職組だ」
「じゃああれは買ったんじゃなくて思い出の品だったのね...なんか不憫すぎて泣けてくるわ」
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