第14話 【倫理】文系と恥

「...ん、なに...これ?」


「午後ティーだ。昨日のお礼だと、部活に行った竜吾から託されたよ。大変だったな」


「大変だったわ...まさか彼が政経の知識まっさらな状態でテスト前日を迎えているとは思わなくて」


「でも君のおかげで、赤点は回避できてるはずだと言っていたぞ」


「それは、教えた甲斐があったかな...げほっ」


「おい、大丈夫か?今日はもう帰ったほうが良いと思うぞ」


「そうね...心なしか寒気もするし。昨日無理しすぎちゃったかなあ」


そういって彼女はグッタリと正面の机に倒れ込み、頭を伏せた。


「竜吾と一緒にいられる口実が出来て、張り切りすぎたんだろう。試験も終わった事だし、ゆっくり休め」


「あのさ」


「どうしたんだ」


「...くした」


「何か言ったか?」


「告白した」


「...それは、本当か?」


机に突っ伏したまま、彼女がけらけら笑いだした。どうしたというのだろう。


「うそだよ」


「そうか...今日の君は少しおかしいぞ」


「そうね」


そう言ってまた笑い出した。やはり今日の彼女はどこかおかしい。もしかして...


「ひゃっ、どうしたのいきなり!」


「やっぱりか、凄い熱だ。今すぐ保健室に行くぞ」


「えー、面倒くさいなあ」


「君が歩かないなら俺が負ぶっていくだけだ。君は恥と労力どっちを取るんだ?」


「...重いとか言わないでよ?」


彼女が歩く労力を惜しんで、恥をかくこと選んだのは意外だった。俺自身も恥ずかしくない訳ではなかったのだが、高熱の病人を前に四の五の言ってる暇はない。


肩に腕を掛け、俺の背中に彼女が乗る。そして、バランスを崩さないよう慎重に廊下を進んでいった。


「...ちなみに私、恥とかよりも罪を気にするから」


「確かベネディクトだったな。西洋は罪の文化で日本は恥の文化と述べたのは」


「ご名答ね...恥の場合、悪いことっていうのが相対的になっちゃうでしょ」


「いけないのか?」


「...そういう訳じゃないんだけど、肝心な時に意地を張ったらダメだなあって思うの」


「そうだな」


「げほっ」


保健室について熱を測ると、39度2分と出ていた。相当無茶をしたんだろう。


「テスト最終日だったことが不幸中の幸いだな。今日はゆっくり休んでおけ」


「...うん、ありがと」


「あと、さっきの話だが、本当に嘘か?」


「ふふ、本当は言おうとしたんだけど、恥ずかしくなっちゃってダメだった」


「君は恥より罪を重んじるんじゃなかったのか」


「それはそれで、これはこれなのよ...」


「君はいつも気高いイメージがあったが、たまには弱々しくなるんだな」


「...まあ私も1人の女の子だからね」


「そうか、今思い出したぞ」


酷いなあと彼女が控えめに笑うのにつられて、俺も少し笑った。


「お大事にな」


そう言って保健室の扉を閉める。






ずっと前にも、こんなことがあった。

場所も人も状況も全て違うのに、相手が良くなるように祈る気持ちだけは同じだ。







理乃は今、どうしているんだろうか。

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