第13話 【政治】体育会系と計画性

「よお君津!テストも残すところあと一日だけだな」


「あら、中谷君久しぶり!そうね、今回はいつも以上に解放感が大きいわ」


「翔に言われて、理系教科も頑張ってるからだろ?」


「うんうん!なんって言ったって今回は彼の中学時代の秘密を教えてもらう約束があるからね」


「そ、そうか」


「どうかしたの?」


いつも人の目を見て会話をする彼が、少しだけ目をそらす。私の知る限りでは、彼の困った時の癖だ。


「まあ、なんでもねえよ!」


そういう時には決まって、相手を気遣って爽やかに笑い飛ばしてしまうのが彼の癖でもあるのだけれど。


「それより、俺と翔が中学一緒だったってこと知ってるか?」


「彼から聞いたわ。全然接点なさそうだったから、すっごい意外だった。部活も同じ野球部だったんでしょう?」


「おう!あいつは怪我してやめちゃったけど、中学時代はレギュラーで凄く頼もしい奴だったんだぜ」


「そんなに優秀だったんだ...なんだか驚いてばかりだなあ」


「まあそれだけ翔ってギャップがあるんだろ。なあ君津、話変わるんだが必修の政経って今回どこが範囲だっけ?」


「平和主義から戦後民主政治までよ。結構広いし覚えることも多いみたい。...それで、中谷君は勉強大丈夫なの...?」


「う、ああバッチリだ。今なら満点取れる」


彼がまた目をそらし始めた。今範囲を聞いてきたことを考えると、彼が嘘をついていることはなんとなく分かる。

ちょっとだけ、意地悪してみようかな。


「そういえば、憲法25条の生存権についてなんだけど、朝日訴訟の時に国が示した立場ってどんなものだったっけ?」


「え、それはまああれだよ、お前は生存すべきだっていう...基本的人権の保障だ」


「憲法改正の時って、衆議院と参議院それぞれどのくらいの割合の賛成で国民に発議できるのか分かる?」


「あ、当たり前だろ!えーっと、過半数だった気がするぞ」


「中曽根総理が民営化したのは国鉄と専売公社と、あともう一つはなんだったっけな」


「郵政民営化だ!あれ、でもそれは小泉総理だよな...」


私は軽くため息を吐く。彼は運動もできるし、人当たりも良い上謙虚で気遣いが出来る。長所を挙げたらキリがないとは思うが、計画性だけはどうやら短所みたいだ。


「1個目はプログラム規定説。生存権の保証は国の義務じゃなくて、あくまで達成目標って立場ね。2個目は両方3分の2で、3つ目は電電公社よ」


「ああー!そうだったな。そういえば授業で聞いた気がする」


「試してたみたいでごめん。でも、貴方の状況がなかなか心配になってきたわ」


「う、本当のことを言うと結構やばい...」


やっぱりか。でも、これで口実ができた。


「中谷君さえよければ、下校時間まで貴方の勉強に付き合うわ」


「お、まじで!じゃあ付き合ってくれ!」


「え...!」


「どうしたんだ?勉強、教えてくれるんじゃないのか?」


「な、なんでもない...」


やばいやばい。顔の赤らみを悟られまいと、私はくるりと身体を回転してそっぽを向いたのだけれど...


「おい、耳赤いぞ?熱あるんじゃないのか」


どうやら無駄だったみたいだ。

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