第9話 【生物】理系と分裂

「テストもいよいよ今週末だし、やること多くなってきたわね...」


「Yeah. But only we have to do is doing our best.」


「一体どうしたの」


「英語も要領を掴めば意外にできるものだな。君が何時間もかけて教えてくれたから今回の範囲だけならバッチリだ」


「それは良かったわ...貴方ってほんとに質問が絶えないから大変だった。まあ楽しかったけど」


「俺も君には感謝しているよ。しかしこうもやることが多いとさすがに疲れるな」


「そうね、この期間だけ身体が二つにならないかなあ」


「残念ながら人間に無性生殖する機能は備わっていない。ミドリムシやイソギンチャクにでもなれば分裂も可能だが」


「そこまで考えてないわよ。でも自分の身体の一部を使って、別の自分を作るってどういう感じなんだろう?」


「大きく分けてパターンは四つあるが、一番親心が芽生えやすいのは自分の生殖細胞をたくさん撒き散らす『胞子生殖』だろうな。小さな子供達に恵まれた気分になれそうだ」


「そうね。感覚的にも自分は親だって自覚できそう」


「次は、というかここからはあまり大差ないが、ジャガイモのように自身の栄養器官から湧いて出る『栄養生殖』と身体に出来た膨らみから別れる『出芽』はまだ自我の保てる範囲だろう。まあ膝に赤ちゃんが出来る感覚だな」


「いや膝に赤ちゃんが出来る感覚とかぜんぜん分からないんだけど」


「最後は身体がほぼ二等分される『分裂』だが、これはもはやどっちが自分か分からなくなるな」


「アイデンティティが拡散しそうね。もしかしたらアメーバも本当の自分ってなんだろうみたいに悩んでるのかも」


「それは思春期真っ盛りの我々の特権だろう。アメーバなんぞに横取りされる筋合いはない」


「あら、もしかして貴方も何か悩んでいることがあるの?恋とか」


「ないわけではないな」


「嘘!数字と現象にしか目がないと思ってたけど、貴方もちゃんと男子高校生やってたのね!初恋もまだかと思ったわ」


「俺のことはいい。それより悩んでいるのは君の方だろう。良いのか、竜吾とは最近何もないんだろう?」


「待って今竜吾って言ったよね、そんな仲良かったっけ」


「言ってなかったか?俺らは中学時代から学校も部活も一緒だったぞ」


「えー!!初めて知ったんだけど。なるほど、だから私と中谷くんのこと知ってたわけね」


「ああ。そもそも君が俺に話しかけたのは、てっきり俺を出汁に竜吾と近づくためだと思っていたが」


「そんな利用目的で近づこうなんてことはしないわ、しかも貴方は貴方でまた面白いし。でもこれは思わぬ副産物だわ」


「君がいつになく悪い顔をしている...」

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