その辺は現実社会と同じなのね……

 青と緑。クワガタとカブト。二つの機影はすり鉢型のスタジアムの中で反時計回りの弧を描き互いに距離を詰め、ついにその中央で激しく衝突した。


 が、きぃん!


 思いの他激しい衝突音に、私は思わず身を竦めた。


 こっわ。そういやなんとかコアは金属製って言ってたっけ。


 弾かれた二機は片方はその場で回転し、片方はスタジアムの縁ギリギリまで弾け飛ぶ。

 だが、その縁に設けられた一段高い段差に引っかかり、今度はその縁沿いにスタジアムの外縁を高速で周り始めた。


 そこに中央で回転し続けていたクワガタが猛然と襲いかかった。

 周回コースに乗って、スタジアム中央に対して横腹を見せていたカブトムシに、クワガタが猛然と体当たりし、カブトムシはすっ飛ばされて高く宙に舞った。


 そのまま放物線を描いてカブトムシは音を立てて床に落ちた。


 はっ⁉︎ ジャッジしないと……!


「あっ、アウト! スタジアムアウト!」


 わあっ、とギャラリーから歓声が上がる。


「マサル選手、1ポイント!」


 私はトーナメント表のマサル君の名前の横に黒点を一つ打った。

 

「第2ゲーム。シューターにギアをセットしてください」

「シューター? コマンダーね?」


 ギャラリーのキッズからツッコミが飛ぶ。

 私は軽く無視して進行を続けた。


「レディー、セット」


 二人がコマンダーを構える。


「3! 2! 1! ゴービート!!!」


 発射された二機のギアは、スタジアム中央でぶつかり、二機ともがバラバラに弾けた!


 え⁉︎ 嘘! いいのこれ?


「ば、バースト! ビートルバースト! え、でも同時……ドロー!」


 ギャラリーから溜息が漏れる。

 選手たちは自分のギアのパーツを集めるとパチパチとすぐに組み上げてギアを復元した。


「ビートルギアはパーツがモジュール化されてて、共通規格でパーツを変えられる。パーツはライフロックっていうジッパーパーツで固定されてて、これは衝撃を受けるとロックが進む。完全にロックが外れると、さっきみたいにバラバラになるんだ。組み立ててロックを戻せば簡単に元どおりなんだけど」


 私の後ろでユウスケがそう呟く。


「ロックはアームドヘッドとビートルコアのタイプや個体差で硬かったり弱かったりする。硬いヤツの方が勿論有利だから、お金のあるガチ勢は同じギアを何個も買って、硬いロックの個体を選んだりする。『厳選』っていうやり方だけど、俺ら子供はそこまでできないよな」


 そう言ってユウスケはディープフォレストの連中を睨んだ。


 なるほど。あの人たちはそこまでやってる、ってことか。

 その厳選、ってやつ。選ばれなかったギアはどうなるのだろう。転売とかするのだろうか。それとも、ただ捨てられるのだろうか。


 投下可能な資本が大きい方がゲームを有利に運ぶ。


 その辺は現実社会と同じなのね……。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る