そういうコーナーじゃありません

 当選番号の発表、参加券とQRコードの手渡し、名前の記載を繰り返して行く。


 これ結構忙しいな……もう一人いてくれたらな……。

 ま、言っても仕方ないから落ち着いて各自に……!


「15番!」

 歓声と悲鳴。

「41番!」

 ディープフォレストの一団が歓声をあげる。彼らの中からは既に二人が当選してるから、これで三人がトーナメントに参加することになる。

「7番!」


 枠はあと一つ。

 私はまた1番を引いていない。

 今日真っ先に来て待っていて、私を助けてくれた赤いキャップのクールボーイ。できたら彼を参加させてやりたい。

 チラリと彼に視線を送ると、1番の抽選券を手に柱にもたれかかって、じっと私のクジ引きの結果を待っている。


 私は祈った。

 1番来い1番来い1番来い1番来い!


 それは、公正を期すべき審判にはあるまじき願いだったかも知れない。

 でもま、これくらいはいいだろう。なにせ私は素人だ。


 えいっ!


「……1番!」

 大きな悲鳴が沢山上がる。

 そう、これが最後の当たり。

 ハズレた子たちはガックリと肩を落とし、「くっそお!」とか「マジかぁっ!」とか文句らしきことを言いながらイベントスペースから離れて行く。その人波に逆らって、赤いキャップが私に近づいて来る。


「はい、参加券の16番とビートルポイントね。お名前は?」

「ユウスケ。キッタカユウスケ」

「ユウスケ君ね。良かったね当たって」

「……別に」


 クールに決めたユウスケだったが、私は見ていた。

 私が彼の番号を読み上げた瞬間、彼が柱のそばで小さくガッツポーズをしていたのを。


「お姉さん。ディープフォレストの奴ら、当たり券をチームのエースに集めて、エース三人がトーナメントに出られるようにしてたよ」


 次の段取りの準備をしようとしてた私にユウスケが囁く。

 えっ、マジで……?

 あ、そうか、当たり券が発表された瞬間、それをエースに渡して受付するわけか……。そこまでする?


「うーん……」

「他の大会でもそうしてるらしいんだ。それを禁止するルールがないのは知ってる。けど、なんか感じ悪いよな、あいつら」

「…………」


 私はコメントに迷った。

 中立であるべき審判か、特定の選手たちの悪口を言うのは良くないだろう。

 けど。


「そうね……あんな奴らに負けないでよ。ユウスケ君」

 ユウスケはちょっと驚いたようなリアクションをしたが、すぐに少し俯いて目元をキャップのツバで隠しながらニッと口元だけで笑った。

「ったりめーだろ。まあ見ててよ」

 

 かっけえなお前。アニメのキャラかよ。


***


 私は光の速さで運営マニュアルに目を通す。


 次は選手にルールの説明か……!

 喋りっぱなしで死にそうだわ……!


「はい、ではルールの確認をします。今日の大会は勝ち抜きトーナメント。試合は3ポイント制。ポイントの取り方は三つあります! 相手をスタジアムから弾きだすのは?」

「スタジアムアウトー!」

「相手をひっくり返してそのまま3カウントたつと?」

「アップサイドダウンー!」


 流石に大会にまで出てくる子には細かいルール説明はいらないんじゃないかな……?


「もう一つ! 決勝、準決勝、三位決定戦の四試合はスリーオンスリーで行います。みんなビートルギアは三つ以上持ってるかな?」


「持ってるー!」


「よーし、じゃ、試合を始めて行くけど、トイレに行きたいお友達はいないかな?」


「大丈夫!」

「もう行った!」


「OK〜! じゃ、最後に何か質問はあるかなー!」


「ない!」

「おねーさん彼氏いるの?」

「貯金いくら?」


「……そういうコーナーじゃありません」

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