お姉さん素人?
「み、みなさーんこんにちはー!」
時刻は10時30分。
私はぎこちない笑みを浮かべながら、サービスカウンターの横で抽選券配布を待つキッズたちに挨拶した。挨拶は大事だ。
「こんにちはぁーーーッ!!!」
絶叫とも言える挨拶が返ってくる。
お、おう。みんなすごい気合いだな。
「えー、みんなはビーストギアの大会参加希望者かな?」
「ビーストギア?」
「ビーストギア?」
「ビーストギア?」
手に手に工具箱を持ったキッズたちがザワ付く。
「お姉さん素人? ビートルギアでしょ」
待機のキッズの先頭に並んでた赤いキャップを被った赤いシャツの男の子がちょっと怒ったような表情でそう言った。
素人だよ!!!
と、いう叫びをグッと飲み込み、
「あ、そーね、ごめんね。ビートルギアだねビートルギア。ビートルギア大会参加希望のお友達ー?」
「はァァァいッッッ‼︎」
キッズたちが再び絶叫で応える。
キミらな……スイッチオフか全開だけなの? 弱とか中は?
「よし。じゃあ先頭のお友達から参加抽選券を配っていくねー! この後は、ビートルギア売り場前のイベントスペースで、参加枠16人の抽選をするから、抽選券を持ってそっちに移動してねー。あ、抽選券は無くさないように注意してーっ!」
「はァァァいッッッ‼︎」
あ、なんか私も釣られてガラにもなく声を張ってしまった。
気付けば仕切りが始まったのに気が付いて集まったのか、私が来た時15人くらいだったキッズたちは、今や30人を越す団体となって、目を爛々と輝かせながら参加抽選券の配布を待っていた。
先頭はさっきの赤キャップのクールボーイだ。
私が彼に1番の番号の抽選券を渡そうとしたその時、キッズたちが一際大きく騒いだ。皆一様にお店の入り口近くを見ているようだ。自然私もその視線の先を目で追った。
そこには、揃いの黒いポロシャツに身を包んだ、十人余りの子供の集団が手に手にシルバーのアタッシュケースを持ってこちらに向かって来ていた。
「ちっ、こんな地方のグレード4大会まで荒らしに来やがったか」
吐き捨てるようにそう言ったのは、キャップのクールボーイだ。
「何? あの人たち? 有名人?」
「お姉さんほんとに素人なんだね。黒いユニフォームにヒイラギの葉のマーク。あいつらは東京のビートルギアのチーム『ディープフォレスト』だよ」
「ビートルギアのチーム?」
「そ。関東圏の G3大会を荒らし回ってるんだ。関西のシックスフィートと並ぶ国内有数のビートルギアチームさ」
「君、詳しいね……」
「動画で見た」
なるほど……色々あるのね……。
とはいえ、私は私の仕事をするだけよ。
「じゃ、参加抽選券配りますねー。次は10時45分。イベントスペースねー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます