第5話
『佑輝へ
突然こんな手紙を送ってごめんなさい。
本当は送るつもりはなかったんだけど、私がなんで急に別れて欲しいなんて言ったかを分かって欲しくてこうして書いてしまっています。
まず、ひろし君とは何もありません。
別れる為ににどうしたらいいかと相談したり計画を立てたり、その為にご飯を一緒に食べたりしたけどそれ以上の事は何もありません。もちろんあなたと別れた後もそれ以上の関係にはなっていません。だからひろし君のことは責めないであげてください。
ここからが本題です。なぜあなたと別れたかと言うと、あなたに幸せになって欲しかったからです。本来ならおじいちゃんおばあちゃんになってもずっと一緒に過ごしたかったよ。
でも私はそれが出来なくなっちゃったの。私もう長く生きれなくなっちゃった。それを聞いた時、どうしようかなっていっぱい考えたよ。最後の瞬間まであなたと一緒に笑って過ごしたいとも考えた。
でもね、そうやって過ごしたら私が居なくなったらあなたがどうなるのかなと考えた。そしたらね、一人で過ごしていくあなたが見えた、だからこのまま、あなたと過ごしてはあなたの残りの人生を寂しいものにしてしまうのかなって思ったんだ。
そうなるくらいなら私と別れ。私への思いを断ち切って、新しくあなたの人生を新しいパートナーと歩いて欲しいと思ったの。
だから、悲しいし未練もあったけど、あなたのことを思って別れようと決意しました。わがまま言ってごめんね。
あなたは今、幸せに過ごしていますか?
幸せだったらいいのにな。
愛より』
涙で視界を滲ませながら手紙を読み終えた。
「こんなの、こんなの読んでどうしろって言うんだよ。こんなの読んだらお前への思いなんて断ち切れないだろ。ばかやろう」
愛の想いを知って昔の事を思い出した。
付き合うきっかけになったあの出来事。あの時も俺はあいつの思いに気づいてやれなかった。
交際して結婚もしたのに全く成長してないな。そう思うとこんな状況にもかかわらず。少し笑えてきた。
「どうしたの?大丈夫?」
彼女がこちらの心配をして聞いてきた。
「ああ、ごめん、急にびっくりしたよな」
「うん、急に泣き崩れるから心配しちゃったよ」
携帯の音が鳴ったので画面を見ると、そこには知らない電話番号が表示されていた
「ごめん、ちょっと電話が」
誰からの電話か分からないが出た方がいいそう感じ出る事にした。
「もしもし」
「もしもし、佑輝か? 手紙はもう読んだか?」
誰だか分からなかったが手紙というワードで浩だろうと気がついた。
「浩か?
どうしてこの番号を?」
「その話は後にしてもいいか。とりあえず大学病院に今すぐ来てくれ。ロビーで待ってるからな。じゃあな」
「おい、浩。今すぐ病院に来いってどういう事だよ。おい」
質問したが返事は返って来ることはなく機械音だけが耳元に聞こえていた。
とにかく急いで行くか。
「ごめん、急用が出来た今すぐ病院に向かわないと帰りは遅くなると思う」
「私も連れて行って」
「は?連れて行けってお前には──」
「私も連れて行って」
よく見ると見たことのないような真剣な顔でこちらを見ていた。
「分かった。付いて来い」
「ありがとう、早く行きましょ」
「ああ」
急いで病院へと向かった。
車中ではなんで病院なんだ。なんでこのタイミングなんだ。そんなことが頭の中をぐるぐる回っていた。
病院に到着するとロビーで浩が待っていた。
「浩、こんなところに呼び出して何の用だ?」
返ってくる答えはなんとなく想像出来たがそうで外れていてくれと願い質問した。
「実は愛が──」
「やっぱり、そういうことか。病室は何処だ?
案内してくれ」
「分かったこっちだ」
一緒に来た彼女のことは忘れてしまいそのまま病室へと向かう。
病室に着くとそこにはやせ細った愛が酸素マスクをつけてベッドに横たわって居た。
「愛、お前……」
続く言葉が出てこない。
「佑輝、来てくれたのね」
力ない声で話す愛。
「当たり前じゃないか」
「そう、ありがとう。また会えてよかった」
何かに気づいたように愛の視線が何かを捉えた。
視線の先を見るとそこには彼女が居た。
「新しい彼女?」
「うん」
「可愛らしい子ね。少し話しさせてくれる?」
「ちょっと待って聞いてみる」
話したいということを彼女に伝えると快く了承してくれた。
「はじめまして」
「はじめまして」
「来てくれてありがとう」
「うん」
「この人の事頼んでいいかな?」
「うん」
「ありがとう。今日はあなたに会えて本当に良かった」
「私もよ」
「良かった。もっと話したかったけどごめんなさい。そろそろ眠くなって来ちゃった。少し寝てもいいかな……」
そういうと彼女は息を引き取り、安らかな眠りについた。
生気を失った彼女の顔は何処か満足してる様にに見た。
タイムリミット 桜牙 @red_baster
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