#483 コンバート記念・事務所対抗大会⑨
「ちょっとまてよ、キャシー。なんで大喜利大会みたいな流れになってんだよ!?」
「そうですよパイセン。我、これでもアイドルなんですけど??」
ボス部屋に向かう一行。急遽招集されたイオと山田が愚痴をこぼす。もちろん2人も向井と戦う展開は予想していたが…………戦闘スキルは戦力外であり、出番がなさそうな展開に安堵していた。
「なにがアイドルか! それを言っていいのは、この中ではウタウ先輩だけなんだよ!!」
「「ぐぅ……」」
アイドルだからといって、普段の配信でも完璧で究極のアイドルをしているわけではない。ゲーマーだからといって、プロ顔負けのプレイヤースキルを有しているとはかぎらない。
「まぁまぁ、ジャレ合いはそのくらいで。それで、どうするんですか? とりあえず(待機部屋に)着きましたけど…………あの難易度だと、全チームが個別に挑戦するってのは、もう……」
30分前の段階では『とりあえず1回、合同チームで挑戦する』となったが、難易度低下は予想以上で、戦闘時間は15分にたっしてしまった。現在はFSLが挑戦中であり、このままFSLが決めてしまっても不思議はない。
そうなると、挑戦機会は1回が限度。しかしこの場に居るのは3チーム。そうなれば……。
「まぁ、初挑戦のFSL(の戦い)に乱入するのは"無し"として…………やっぱりこのまま合同パーティーで挑めばいいんじゃない? ぶっちゃけ、誰が勝っても私は……」
一応、企画の趣旨に沿って優勝を目指しているが、スケジュール的に優勝賞品の案件をこなすのは不可能。あくまで見どころさえ回って来ればいいわけで…………ここに居合わせた大半の脳裏には『このままダラダラ続けて制限時間負け』の展開を狙う流れが出来上がっていた。
「まぁ、それもFSLが1発で決められなかったらの話だけどな」
「アイツラ、地下の宝物庫に行っていたんでしょ? もう、名前からして強力なアイテム、あるよね~」
「…………」
しかしそんな空気の中で、批判を浴びてもFSLから勝利を奪いたい者がいた。
「……あれ!? え? マジ!?」
さり気ない足取りでゲートに近づいたキャシーが、内部の戦闘が終わったサインを見て驚く。
「あれ? 入れるの? 早かったな」
「イオパイセン、それだけ向井さんが強いって事ですよ」
「マジかよ!? 私たち、ホントに勝てるの!?」
「「…………」」
事情を知らないどころか、スケジュールの問題も深く考えていなかったイオと山田が呑気なやり取りを繰り広げる。
そう、FSLの戦いが早々に終わってしまったのは、この2人が居たから。2人はまだ未挑戦であり"全員に"挑戦機会をあたえるため、難易度が一時的に跳ね上がったのだ。
「それじゃあ、行きますか!」
「そうだね。FHの本気、見せちゃうよ~」
「おいおい、FHにだけ、いいところを持っていかれてたまるかよ!」
「VIPだって、笑いには自信があるんだから!」
状況は『このまま時間を稼いで負けるだけ』の状態に持ち込めた。その真意を汲み取った面々が、ここぞとばかりにフラグを建築する。
すべては『より良い敗北』のために。
*
「くそっ! やられた! アイツ、コチラの油断を誘うために弱体化した"フリ"をしていたんだ!!」
「完全に釣られたな。しかし! 同じ手は2度と喰らわないぜ!!」
チャンスに気をとられて甘えたゴリ押しに出たのは彼らの落ち度であり、2度と喰らわないと言ったが蘇生魔法を使ったので初見殺しのみに壊滅までもっていかれたわけでもない。FSLが負けたのは、純粋な"実力"の問題だ。
「そうは言っても、もう他のチームが挑んでいるでしょうし…………次があるか」
「ぐっ!?」
残り時間は10分強。3チームが個別に挑んだ場合、まず順番は回ってこないだろう。
「ここは、乱入してMVPを横取りするしか……」
「そんなこと!」
カムイは保守的ではあるものの、ゲーマーズの看板プレイヤーとしてフェアプレイに徹してきた。ルール的に乱入は許されているものの、キャラ的には看過できない作戦だ。
「ひ、ひとまず待機室まで行こうぜ。まだ、チャンスはあるかもだし」
「そ、そうだな……」
キャラを言うなら、FHに乱入されてソレを返す展開が理想だ。これなら、勝てば英雄、負けても言い訳がきく。もちろん、今となっては不可能な展開となってしまったが。
「いっそ、もう1度、宝物庫に挑戦するのは……」
「それは! だ、ダメだ。リスクが高過ぎる。それに時間だって」
「そうだな。カムイの言うとおり、宝物庫のチートアイテムは諦めるしかないだろう」
ヨゾラを除く4人の顔が"恐怖"の色に染まる。
たしかに宝物庫のボスを倒すには厳しい時間だが、それでも間に合うならMVPをとれる可能性は充分ある。それだけ、宝物庫に保管されているアイテムの数々は強力なのだ。
「(でも、マネージャーが……)」
放送に乗らない指示が、さきほどから彼らの視界端を駆け巡る。普段から強引な営業をかけているFSL営業だが、今回の企画はそれなりに身も切っており『何の成果も得られませんでした』で終われないのが本音であった。
「と! とにかく、今は出来る事をしよう。まだチャンスはあるはずだ」
言葉とは裏腹に、選ぶのは『問題の先送り』。番組の企画では、格下のヨゾラが足を引っ張りながらも勝利する予定だったが…………蓋を開ければ、格上相手にカムイたちの欠点を露見する展開となっていた。
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