#461 IBWGP⑰

「しかし勿体ないよな~。ブルーに所属するってことは、メジャーリーグにスカウトされるのと同じだぜ?」

「俺なら、とりあえず所属して1~2年適当に流して…………そのあとはスッパリ辞めて遊んで暮らすかな~」


 向井は、レベッカの誘いを断った。実際にどういった契約内容になるかは分からないが、受けていれば収入や社会的地位で不自由することは無くなったであろう。


「いや、俺が(ブルーが主催する)リーグ選手に選ばれる事は無い。レベッカの立ち位置的にも、スパイグループに加入する形になるだろう」

「それは…………まぁ、ですよね~」


 レベッカはブルーの一員ではあるものの、表向きは『フリーのプロゲーマー』として特定のタイトルに限らず、様々なタイトルの大会に参加している。ある意味、状況は向井に近いとも言えるだろう。『1つに絞って極めずして……』と思うかもしれないが、そもそも大会賞金だけで生活できるプロゲーマーは稀だ。基本的にはスポンサーと契約してイベントに出演したり、自分で動画を投稿したりして生計をたてていく形になる。


 話はそれたが、レベッカはスパイと同じで『表向きの本業』をこなしつつも、その立場を利用して情報などを集めている。そうなれば同じポジション、それこそ相棒や部下と呼べるような場所に置かれる可能性が高い。


「それに…………ハッキリ言って俺は、ブルーが嫌いだ」

「それは、まぁ……」

「「…………」」


 意外ではあるが、それでも向井の意見は『理解できないもの』ではなかった。


「実際、言うほど綺麗か? ってトコ、ありますもんね」

「ホントかどうか知らないけど、八百長や不正ツールはブルー系の大会でもあるって聞くよな?」

「ん~、不正ツールは無いと思うけど、チーム制だから何かしらの忖度はあるでしょうね」


 世間一般の認識からすると『ブルーは正義、レッドは悪』となっているが、企業や動画投稿者などの目線で見ると、必ずしもそうとは限らない。もちろん、ルールを破っているレッドは悪いのだが…………ブルーにも黒い部分はあり、『アプローチが違うだけで、やっている事はどっちもどっち』と思う者も少なくない。


「私、この前また、動画を誤削除されたのよね。それで"手動審査"を要求したら5分で審査結果が出たのよ? 2時間の動画を」

「エグい手数料をとっている癖にAIに丸投げしやがって! マジで投稿者の扱いはクソだよな。BANされた理由を詳しく話せないのは、まぁ百歩譲ってわかるけど…………こちとら生活かけてやっているんだぞ? 誤診でいきなり収益停止されて、その補てんも無し。アイツラそもそも、投稿者や競技者をビジネスパートナーとは思っていないんだよ!!」

「ほかに良いところがあったら、喜んで引っ越してやるんだがな」


 動画を投稿している者から次々と愚痴が漏れる。


 たしかにブルーは"ルール"を守っている。しかしそのルールは、あくまで自分たちが定めたものであり、匙加減は彼らの思うがまま。苦労してプロゲーマーになっても、プロリーグがチーム制なのでチームの方針やオーナーには逆らえない。もちろん、本人に全てを黙らせるほどのスター性があれば話も変わってくるが…………逆に言えばソコまでないと個人がブルーの意向に介入する余地はない。


 そしてそれは競技シーンに限った話ではない。ブルーも当然、独占禁止法などの法律は守っている。しかしそんなものは、関連企業をブルー系で固めてしまえば幾らでも回避できてしまう。実際、ブルーが制圧しているプラットフォーム(モバイル端末事業など)には非公式な協定が数えきれないほど存在しており、新規企業の参入や、価格競争などからくる新陳代謝は一切起きていない。


 対してレッドは、イメージに反して意外と金銭的な成果を重視せず、(トップはともかく)ほどほどに入れ替わりもおきている。それはトップが社会系の権力者で、社会主義が根底にあるからであり……………………ブルーは企業系の権力者がトップにいるので"表向きは"世間体やルールを重視する。しかし蓋をあければ『いかにルールの抜け道を見つけて儲けるか』しか考えていない利益至上主義の集団なのだ。


「そういえば…………トワキンってスペックの低いドリッチには対応しているのに、ブルー系の端末ではプレイできないよな」

「それって確か……」

「「…………」」


 皆の視線が車椅子に腰掛ける向井に集まる。


 トワキンは(L&Cと違って)要求スペックのハードルをかなり下げており、様々な端末でプレイできるのだが…………対応状況はレッド勢力の端末ばかりで、ブルー系の端末には全く対応していない。


「まぁ、対応表が全てを物語っているからな。ココだけの話、その通りだ。ログデータをリハビリシステムに二次利用するのが問題で、今のところ対応の目処がたたないらしい」

「やっぱり……」


 実際トワキンは、個人情報ログデータを別分野(医療)の別会社(鳳医療)に提供している。これはブルー系端末の規約に抵触するものであり、実際にそれを理由に契約を断られている。


 しかし本当の理由は別にある。トワキンの大元の運営であるOVGは鳳グループ傘下の企業であり、個人情報の二次活用も悪用でなければ問題無い。実際、ブルー系の企業でも公表していないだけで個人情報を様々なシーンに活用している。結局、そこは審査を受けるか、独自契約を結べば済む話なのだ。


 つまり二次利用の問題は単なる方便で、本当の理由は『ブルーに属する医療系グループがNGを出した』から。リハビリシステムを開発している鳳医療は日本企業であり、これが普及すれば欧米系の医療現場までもが(システムを運用するために)鳳グループの管理下に置かれてしまう。ブルー系の医療グループにとってソレは容認できないものであり、ブルー全体でトワキンや鳳グループの台頭を阻んでいるのだ。


「まぁ、なんだ。どちらにしろ、徒党を組む事だけが正解じゃない。俺としては他の企業も含めて、互いに競い合って切磋琢磨してほしい、と、思っている」

「そうですね。世の中、金や権力だけじゃない! 俺たちプロだけど、その前にイイ歳こいてゲームばかりやっている大バカだ! そんな俺たちが"ロマン"で食っていく生き方を見せられなくて、どうするんだって話ですよ!!」

「たしかに、まったく(登録者が)伸びていない水野が言うと、説得力があるわね」

「ちょっ! それは!!」


 その場が笑いに包まれる。


 日本は、政治的にはブルー寄りではあるものの、地理的にはレッド圏。そしてなにより、独自の文化・技術で埋没することなく確固たる地位を世界に知らしめている。それが日本であり、彼らなのだ。





「パイパイパイン! ただいま参上!!」

「(二回目の演出は、簡略化されるのか)」


 第6試合。リンシーは続けてパインフォームで戦うようだ。


「行くよ、クト君。…………。大丈夫、無茶はしないから」

「(やっぱり、あの珍獣にボイスは無いんだな)」


 またしてもマジックロッドの形状が変化する。パインフォームには正直驚かされたが、1試合戦ってみて特徴はある程度分かってきた。

①、コスト計算が当てにならない。複数の装備・スキルの使い分けを制限するためにコスト制限があるのだが、リンシーは弓と二刀流でそのコストを使い果たしているはずなのだ。しかしそれでも使えると言うのなら、コストの事は一旦忘れたほうがいいだろう。


②、変身能力があり、ロッドの形状に合わせてスキルやステータスも変化する。現状で判明しているのは3つ、遠距離戦重視の杖型、近距離戦重視の剣型、機動力重視の槍型。この様子だとEXゲージ解放時にも別形態に変身しそうだが、とにかく似たような技でも形状で特性や威力が変化するので注意。


③、謎の当たり判定。課金フォームという事で旧バージョンからアップデートがなされていないのか、そもそも強引に原作再現した弊害なのか、見た目と実体が一致しない。コレにかんしては対策を講じてきたので、ハマれば御の字だ。


④、派手な見た目に反して攻撃力は低い。旧仕様の弊害か、現在のパワーバランスとは少しずれている。奥義など、まだ見えていない要素もあるので楽観視は出来ないが、少なくとも通常技は"削りキャラ"くらいの認識でいいだろう。



「大丈夫! 魔法の攻撃は、当たっても死なないから!!」

「(普通に殺しに来ているようにしか、見えないけどな)」


 周囲に光球を浮遊させるリンシー。これは杖型の時はホーミング弾だが、剣型になると物理攻撃の追撃に、槍型だと決まった方向に射出される弾幕になるようだ。


「当たったら! 死んじゃうかも~~」

「(やっぱり死ぬんじゃないか)」




 しかし、作戦はどうやらハマったようだ。これなら謎の当たり判定も、派手過ぎるエフェクトも、ある程度低減できる。

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