#454 IBWGP⑩

「なぁ、一番当たりたくない国って何処だ?」

「ん~、やっぱり…………韓国かな」

「だよな」


 視線の先には、距離をつめてくる韓国代表の姿。彼らは『生き残れば勝ち』のサバイバルバトルで、あえて有利ポジションに陣取る日本代表に挑んでくる。





「なっ!? 連中、魔法を撃ってきたぞ!」

「慌てるな。あまったスキルポイントで取った牽制技だ。被弾したところでダメージは無い」

「ふっ、卑怯者の日本人が好む手だ。このまま距離をつめるぞ!!」

「「おう!!」」


 予想外の遠距離攻撃に一瞬戸惑うものの、相手のビルドを知っている彼らには通じない。


「ダメだ! 矢は避けられる」

「まったく、大人しく不意撃ちで死んでいれば良いものを」

「やはり日本代表は回避系のチートツールを開発したようだ。これ以上は撃っても無駄だ。怪しまれたくもないし、やはり近距離戦で決着をつけるしかないな」

「了解!」


 少ない遮蔽を利用しながら距離をつめる韓国代表。本来このような場合、牽制として矢や煙幕弾を併用するのだが、終盤の攻防に備え、彼らは消耗品を温存する。


 IBのサバイバルバトルは、この手のサバイバルゲームでは珍しく、遠距離攻撃が弱く、かつ簡単には死なないパワーバランスになっている。とは言え、弓なら急所を射貫けば距離に関係なく大ダメージを与えられる利点があり、魔法には他にない変則的な攻撃で複数の相手の体力を削れる利点がある。そしてそれと同時に、遮蔽物の影響や、居場所を周囲に教えてしまうデメリットがある。


 もちろん、一長一短があるのはどのスタイルでも同じだが、1チームが3人に制限されるサバイバルバトルでは、チーム単位でも有利不利が生まれてしまう。この不利を『地形や他の対戦相手を利用して如何に処理するか』がサバイバルバトルの醍醐味となる。


「その岩の裏に潜んでいるぞ!」

「誰から狙う? やはり斥候を優先するか??」


 3人1チームはチームバトルも同じだが、チームバトルには地形要素などが無く、交戦距離も短い事から遠距離特化ビルドが明確に弱く、職業ジョブ的な相性からくるジャンケン要素は控えめになり…………代わりに、地味ではあるが武器や攻撃スキルの間合いの噛みあいが重要になってくる。


「いや、ガーダーの土門がレジェンドの回復アイテムを持っているらしい。無駄遣いされる前に落としたい。まずは速攻で土門を瀕死ダウンさせよう」

「「了解!」」


 サバイバルバトルにおける回復は、前後の隙が大きく戦闘中に使用するのは難しい。とは言え、中には即時発動するレアな回復アイテムもあり、その有無や使用をめぐる攻防も重要になってくる。


「死ね! この……(差別用語)!!」


 飛び出しざまに、土門に対して集中攻撃を仕掛ける韓国代表。相手は仲間への攻撃を引き受けるガーダーだが、それでも3人の攻撃をクリーンヒットさせられれば瀕死状態までもっていける。


 もちろん、それは攻撃が当たればの話だが。


「なっ!? コイツ、完全に俺の攻撃を読んでいやがった!!」

「落ち着け! 偶然の可能性もある、とにかく畳み掛けろ!!」

「お、おぅ!」


 防御重視の装備、防御重視のスキルの土門が、3人の攻撃をギリギリのところで躱していく。それはとりわけ早い動きでは無いものの、そのビルドを加味すれば神業と言える立ち回りであった。


「やはり、移動系のチートを使ってやがる! すぐに通報を!!」

「今やってる!」


 アバターの運動性能を無視するようなチートは、サーバー側のチェックですぐに判別できる。しかし、組織ぐるみの不正行為などでそのチェックが無効化される可能性も考えられるため…………代表団側が総合運営に抗議・追加審査を要求したり、ログの公開を請求したりできる。


「審査はまだか!? これ以上は…………ぐっ!?」

「気合で持ちこたえろ! 連中の動きは過去のデーターを明らかに超えている。調べればすぐにチートと分かるはずだ!!」


 奇襲攻撃の強みは最初の数手であり、そこを捌かれるとかえって弱くなる。彼らは回避に専念する土門を追う中で、地形も利用しつつ包囲される形に持ち込まれていた。


「くそっ!? 判定は不正無しグリーンだ!」

「そんなバカな! くそザコの日本が、格上の俺たちを圧倒できるわけないだろ!!」

「完全に、審判を抱き込んでいやがる。いくら抗議しても無駄だ」

「ぐっフ!? ダメだ! お終いだ。この程度の"補正"じゃ、日本のチートツールには勝てない」


 韓国代表の平均ランキング順位は、日本代表の上に位置していた。しかしその順位は、不正行為を重ねての結果であり、そのため純粋な戦闘技術、とくに洞察力は大きく遅れていた。


「完全に別系統のチートツール。連中、金にモノを言わせて専用品を用意してきやがったんだ!」

「くそっ! 幾ら払ったと思ってるんだ! ここで負けたら、借金が返せなくなるぞ!?」

「中国と言い、日本と言い、何かにつけて俺たちの邪魔をしやがって」


 なにより思考回路が自己中心的であり、全てを都合よくとらえる彼らには…………これ以上の高みを理解するのは到底不可能であった。






「よし、なんとか倒せたな」

「すこしダメージを受けたが、まぁ許容範囲か」

「相変わらず、勢いだけで助かったな」


 有利ポジションに陣取る相手に対し、無謀な突撃をしかけた韓国代表が光となって消えていく。


「ハハッ。また運営が抗議攻めにあっているってよ」

「マジで、勝っても負けても気分悪いんだよな。韓国って」

「それで、チートの判定はどうだった?」

「あぁ、結局、最後までリミッターは解除しなかったようだな」

「すぐにプッツンする韓国が、最後まで我慢できるとは思えない。やはり何かしらの制限があるようだな」


 現バージョンでの不正ツール、およびその検出回避プログラムは、それぞれの国が独自に開発・運用しているわけではない。大元の開発者が、裏ルートでレッドに所属する人物・団体に販売しており…………そこには『性能の違い』が感じ取れる。これはレッド内でも格差がある事を物語っている。


「おっと、そろそろ次のエリアが出るぞ!」

「「…………」」

「よっし! ドンピシャだ!!」

「このまま立て籠もれそうだな」

「韓国が配達してくれた物資もあるし、展開次第では優勝も狙えるんじゃないか?」


 次のエリアは、現在彼らが居る場所が中心になっていた。もちろん、有利ポジションと言っても複数チームが結託してくる展開もあるので油断はできない。


「レッドは確かに脅威だが、アイツラ、あれで仲は悪いからな」

「俺たちは負けても、賞金やスポンサーボーナスが減るだけだが…………アイツラは投資している金額がシャレにならないし、何より替えのきく駒でしかない。結局、同じレッドの同胞と言っても、実体は敵同士。意地でも蹴落として上位に入賞しないと、簡単に切り捨てられちまうんだよな」

「おぉ~、怖い怖い」




 その後、日本代表は…………有利ポジションに固執することなくノラリクラリと乱戦をやり過ごし、最終盤まで生き残ったが、対峙した中国代表の猛攻を捌き切れず敗北。


 結果は2位となってしまったが、それでも予想を遥かにこえる健闘に賞賛をあつめると同時に…………対戦相手の不信感を観客に植え付ける形に終わった。

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