#442 勇者・魔王の因子

「俺が最強! 傲慢の魔王だ!!」

「いや、俺こそが真の傲慢。セブンの頂点に立つに相応しい魔人だ!」


 今日も今日とて、白夜の古城に魔王志望のPCが集まる。


「よう! お前も魔王志望なんだろ? 調子はどうだ??」

「ん? まぁコツコツやらせてもらっている」


 気軽に話しかけてくる見ず知らずのPC。本来なら警戒するところだが、今は週に1度の時間限定イベントの待機中なので、争いは避けて適当に流す。


「ハハッ! まぁ、魔王誕生クエストは長期戦だからな。焦らない事も大切だ。俺は6時代も良いところまで行っていたから、分からない事があれば聞いて貰っていいぞ?」

「それはどうも」


 何かしらの思惑を抱えている可能性もあるが、CルートPCでも他人に親切にして感謝されたいと思うヤツは意外に多い。いや、感謝と言うと善人のように思えてしまうが、ようはマウントをとって安心したいのだ。


「おまえ、ランキングの順位はそれほど重視されないって情報を信じて来たクチだろ?」

「いや……」

「みなまで言うなって。装備を見たら大体わかる。実際、7からは学生や社会人にも優しい仕様になったからな」


 俺の機動力重視の装備を、どうやら"背伸び"と受け取ったようだ。一応、全CルートPCの中で5指に入るくらいには高価な装備で固めているはずなのだが。


 因みに魔人系の装備は、通常の武器防具に加えて、角や翼などの"生体部位"が加わるが…………行きつく先は大きく分けて2つ。1つは、伝説に謳われるような強力な装備で固める方法。これは分かりやすく強力で、同系装備を揃える事でセットボーナスが乗って更に性能が向上する。ただし、見た目の特徴から装備の特性やスキル構成を特定されやすいデメリットがある。


 対して生体部位(の強化)は、魔人本来の特性・スキルや機動力を活かすものが多く、玄人向きとされている。一見、お金がかからなさそうに思えるが、(たしかに初期投資費用は低いものの)強化要素があって特殊な素材を求められるので最終的にかかる費用はコチラが上となる。


「そうらしいですね」

「ちなみに、実はココに集まった魔人が全員、魔王を目指している訳じゃないんだぜ? 知っていたか??」

「へぇ、そうなんですね」

「もちろん、全く意識していないって言ったら違うかもだけど、大抵は"素材の転売"が目的なんだ」

「なるほど」


 勇者・魔王になる詳細条件は不明だが、ヒントとしてNPCの会話や特殊ドロップが存在する。今回の場合だと…………特定の時間に特定のエリアで[勇者(魔王)の因子]がドロップするようになる。これを規定数集めて交換すると、特殊イベントが発生して様々な報酬が貰える。


 報酬を貰うのは何時でも良く、尚且つ本人が集める必要は無い。勇者・魔王になる条件を満たしていないとイベントがループして週1でレアアイテムが貰えるだけのイベントになるが…………条件を満たしたPCは、会話の内容や報酬が徐々に変化していき(ここで勇者・魔王の前提条件が推測できる)、最後にイベントボスを倒したらイベント終了となる。


 因みに、すでにその領地をPCが占領しているとイベントボスの出現が無くなり、代わりに聖戦イベントで現勇者・魔王に勝利する形になる。


「イベントアイテムは大手ギルドが買い取っているから一般には出回らないが…………もし諦めるなら、俺にメッセージを送ってくれ。そうしたら悪くない額で買い取ってやるから」

「その時は、お願いします」


 そう言ってアドレスを一方的に渡される。


 ただの親切マウントだと思っていたら、1番の目的はイベントアイテム収集だったようだ。俺はC値稼ぎも兼ねて自前で集めているが、勇者・魔王になる詳細条件は大手ギルドが賞金を懸けて必死に集めるほど。こう言ったビジネスがLルートにあるのは知っていたが、(単純に知らなかっただけの気もするが)徒党を組む意味の乏しいCルートで見たのは初めてだ。


「あぁ、期待しないで待っているぜ。おっと、そろそろ時間のようだ。お互い、頑張ろうな!」

「その、お手柔らかに」


 当然ながら、イベント中はライバルであり、PKに発展するかもしれない。イベントアイテムを本人が集める必要が無いのはこの為であり…………つまり、PKで勝ち取っても良いわけだ。




 そんなこんなで今週も、魔王誕生イベントの前提条件を満たし、着実に"頂点"へと近づいていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る