#441 バーチャル事務所・ユンユン④

「それで、僭越ながら今回の会議を仕切る事になりました、愛花です。よろしく」

「「……よ、よろしくお願いします」」


 ついに始まったリアル会議。しかしその司会を務めるのは…………私やニャンコロさんではなく、セインの妹のアイちゃんだった。


「それでは、順番に挨拶を」

「えっと、それじゃあ私が。バーチャルアイドルのユンユンです。その、分かっていると思うけど、ココでの話は他言無用でお願いします」


 かなりキツめな印象だが、アイちゃんはモデルでも充分やっていけそうなほどに完璧な美少女だ。あれで頭や運動神経まで良いのだから神様は不公平だ。まぁその分、重度のブラコンにしてしまったので帳尻はあっているのかな?


 アイちゃんが出てきたのは、正直なところ、私もよく分かっていない。あと関係無いが、意外な事にスバル君がドタキャンで不参加となった。


「はい、次の方」

「えっと、その…………にゃ、にゃんころです。ごめんなさい!」

「「…………」」


 予想通り『予想以上のコミュ障』なニャンコロさん。彼女の場合は、来てくれただけでも"ヨシ!"としておくしかない。


「えっと、では次」

『ハイハイ! アイちゃん、今度は絶対に会いに行くからね~』

「死んでください」

『アハハ、SKです。本名はスガオって言うんだけど、呼び方はどっちでもイイヨ』


 ARを利用して病院から参加している陽キャはSK。一応、順調に回復しているので外出許可を取ろうと思えば取れるそうだが…………今回は大事をとってARでの参加となった。


「では、次の人」

『ちょっと、本当にセインは……』

「はい、それではもう1人は急……」

『ちょっと! なんで遮るのよ!!』


 相変わらずツンデレなHi。関係ないけどこの子、バーチャルアイドルをやらせたらウケそうな気がする。


「今回の会議は、事務所に所属する方を対象にしていますので」

『ソレを言うなら司会(アイ)が一番関係ないでしょ!』

「「…………」」


 Hiは、この中では断トツで遠い場所に住んでいる事もあって『あくまで協力だけで、所属はしない』と言い張っている。そのあたり、いくらか本心ではない部分もあるのだろうが、コチラも定員の問題があるので『事務所の運営が軌道に乗ってから改めて検討する』って事で二次募集候補にしている。


 ちなみにナツキとコノハは、親の同意が取れなかったのと、そもそもまだ学生なので学業優先でコチラも二次にまわした。


「そうですね。私は兄さんがこの場に参加するのを阻止したかっただけなので」

『ハハッ! そういうハッキリしてるトコ、アタシは好きだぜ!』

「お構いなく」

「「………………」」


 まぁ、アイちゃんも学校があるのでナツキちゃんたちと同じく参加は不可能。そもそも参加の意思は無く、あくまで『仕事で参加できないセインの代理』で参加しているにすぎない。しかし、今居るレンタルスペースを確保してくれるなど、しっかり貢献してくれているので私としても助かっている。


「そ、その…………アイちゃん。忙しいのに、ごめんね」

「……ふん。お気遣いなく」


 しかし、そんなアイちゃんもなんだかんだでニャンコロさんには甘い部分がある。その…………こういうのが、リアルな"てぇてぇ"なんだと思う。


「あぁ、そうだ!」

「「??」」

「どうかしましたか?」

「いや、セインが言っていたんだけど、今回の事がある前からセインは何人か知っていたって言ってたんだけど…………誰と誰が知り合いだったの?」

「「??」」

「あれ?」


 一同そろって見事なポカン顔。セインも妙な言い回しだったので、どうやら本人も自覚がないほどに間接的な知り合いだったのだろうか。


『えっと、アタシはまぁ…………アイちゃん、セインの職業、言っちゃっていいのか?』

「ダメです。あと、アイちゃんと呼ぶの……」

『ちょっと待った! SKはセインの正体、知っているの!!?』


 アイちゃんも、どうやらSKの事は知っていた様子。そうなると、同級生かなにかだろうか?


『イイじゃんか別に。この前一本とっただろ?』

「あれは無効試合です。あれでは……」

『ちょっと、無視するなし。司会はどうした!?』


 いや、(ブラコンの)アイちゃんに対して、アプローチが絶望的に下手すぎるのよ。正直、セインの正体については私も興味がある。そしてスバル君とのカップリングを、より実用性の高いものに出来ると期待していたのに……。


「ま、まぁまぁ。住んでいるところも近いし、同級生か何かなんだよね?」

「…………」

「その…………もしかして、アイちゃんの苗字って、向井、だったりする??」

「ぐっ!? ち、ちがいますよ……」

「そ、そうなんだ。ごめんね、似た顔つきの人を、知っていたから」


 アイちゃんのクールフェイスが、これ以上ないくらいに泳いでいる。ニャンコロさんなら気づいていると思うが、たぶんそのうえでスルーしているのだろう。


 しかし、これで何となく線が見えてきた。年齢の問題で直接面識は無いが、どうも『母校が同じ』っぽい雰囲気だ。


「そ、それでは! 会議を進めます! まず、活動場所ですが……。……」


 本心を言うと、商業化するのは不安で仕方ない。実際には『個人以上商業未満』くらいの状況であり、会社なんて立ち上げずに個人の活動としてやっていきたい気持ちもある。しかしそれとは別に、今、こうして皆でワイワイやっている状況が楽しくてしかたない自分が居る。それこそ、モデルとしてチヤホヤされていた時の自分が、薄っぺらく思えるほどに。




 そんなこんなで商業化の話は、着々と進んでいった。

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