#437 ホムンクルス研究所

「うぅ…………やはり最終ダンジョンだけあって、歯ごたえがありますね」

「油断していると、一瞬で床ペロなのにゃ」


 やってきたのはCルート系隠しダンジョン(条件を満たさないと入れないだけで周知はされている)の"ホムンクルス研究所"。ここは、人型の魔物が出現するエリアとしては最高難易度を誇っており、フル装備の転生カンストPCですら容赦なく瞬殺してくる極悪エリアだ。


「そのかわり、貸切状態だからマナーとか気にせず好きに戦えるだろ?」

「兄ちゃん、そんなのいつ気にしたのかにゃ?」

「失礼な。俺は優良プレイヤーだろ?」

「優良プレイヤーは、PKとかしないのにゃ~」


 魔王化に向けての挑戦は、すでにある程度進めている。L&Cは、古式ゆかしいRPGとして『どれだけ人生を犠牲に出来るか?』を競う形になっていたが…………本バージョンからはそのあたりの評価方法が変更され、直近や瞬間効率の評価が重視される計算式になった。


 以前ならポイント目的で高効率狩場に長時間籠っていれば済んだのに、それが使えなくなってしまったわけだ。そうなると重要になるのが瞬間効率や、直接評価されない時間に装備やスキルをどこまで伸ばせられるかの勝負になってくる。


「そもそもPK自体はマナー違反ではありません。大切なのは、そこに"秩序"があるかどうかです」

「スバルにゃんは、今日もスバルにゃんなのにゃ~」

「??」


 ちなみに、アイやナツキたちはレベルなどの条件を満たせず不参加。まぁこのエリアはザコですら並のボスよりも強いので、来たところであまり役にはたたないが。


「よし、1匹釣れそうなヤツが居た。そっちに誘導するぞ」

「はい!」「にゃんにゃん」


 ザコですらボス並なので、当然、複数体を相手にするのは自殺行為。


 俺は孤立していた金髪アフロのホムンクルスを誘導する。コイツは、一見するとソウルフルな格闘家だが、実際には様々なものを具現化して戦う変則ファイターであり、対策(特化装備)をすり抜けてくる厄介な相手だ。


「相変わらず、リアリティーの欠片も無い動きなのにゃ」

「クッ! そんな汚い鞭に、ボクが屈するとでも!?」


 苦戦する2人。しかし加勢はしない。重要なのは勝つ事ではなく、負けない事。もしこの場に他の魔物の侵入を許せば、それは"全滅"を意味してしまう。今回俺たちは"効率"を完全に捨て、『まだ流通していないレアアイテム』を取りに来たのだ。


 因みにホムンクルス研究は、ストーリー的には王国が魔人に対抗するために作った施設で…………世界中から集めた英雄の魂をホムンクルスの体に移して活用するための施設なのだとか。それは当然ながら禁忌であり、最終的には制御できずにダンジョン化するハメになった。


「腰ミノ禿が近づいてくる。これ以上近づくようなら対処するが、全体デバフには注意しろ」

「は、はい!」「任せるのにゃ」


 本当にココに出現する魔物は、見た目と強さが比例しない。もちろん、中には普通に強そうなヤツもいるが…………設定として『体は再現できるものの、(伝説級の)装備までは複製できない』と言うものがあったらしい。そのため出現するホムンクルスは、装備に頼らない戦闘スタイルの英雄が中心となる。


「そこなのにゃ!!」

「や、やりましたね」

「にゃんにゃん。[黄金の魂]ゲットだにゃ」

「胸毛みたいに抱えるの、やめません?」


 どう見てもアフロの切れ端だが…………ホムンクルスの基本ドロップは、各種魂であり、上位装備の素材として加工・交換できる。


「お疲れのところ悪いが、つぎは[太陽の王冠]のために頑張ってくれ」

「はい!」

「まったく、兄ちゃんはネコ使いが荒いのにゃ」

「ボクの事は、馬車馬とでも思ってコキ使ってください!」


 本来、誘導はニャン子の担当だが、今回は俺が担当している。その理由は単純で、俺だけ『レベルカンストしているので経験値は不要』だからだ。


 もちろん、ランキングもあるのである程度稼ぐ必要はあるが、計算方法の変更からこの場で無理をする必要は無くなった。少し物足りない気もするが、睡眠時間や、装備集めに時間を配分できるのは素直に嬉しい仕様変更だ。


「相変わらず、単体だとボーナスだな」

「踊りながらデバフをバラ撒くだけですからね」

「でも、変な鎧を着ている個体は物凄く固いから、火力が無いと詰みやすいのにゃ」


 踊るオヤジを一方的に攻撃する。傍から見ると酷い絵面だが、こういうフザケタ部分が無いと最終狩場は容易に詰んでしまう。なにせ戦っているNPCは、プレイヤーの限界ステータス(レベルキャップ)を超えているのだから。




 こうして俺は、追い込みをしているとは思えないほど、のんびり(当社比)と攻略を進めていた。

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