#435 狂乱の七賢者⑤
「ご主人様、誠心誠意、ご奉仕させていただきます」
「いや、普通で良いから」
最後に組むのは、メイドが板につきすぎて収拾がつかなくなった狂犬メイド。
MMOで、こういったキャラになり切るロールプレイは別段珍しくはない。割合としては、ニャン子のようにライトなノリに止める者が多いのだが、ユンユンのようにキャラを確り作り込んで配信で稼ごうとする者もそれなりに多い。
「キーアイテムはボクが運ぶので、ご主人様は…………ボクに命令! してください」
「あぁ、まぁ、いいけど」
ミッションは基本的に1人でもクリアできるようになっている。もちろん、それでは時間がかかるので多少は手伝うが…………俺は、他のPTへの指示を担当する事にする。
『こっちの数字は、1、1、4なのにゃ』
『OK、コッチは5、1、4だな』
『うぃ~』
順調に進む謎解きだが、そこには思わぬ落とし穴が潜んでいた。
「おい、なんか紫の霧がでてないか?」
「おかしいですね。ちゃんと11072って入力したのに」
「バカ、そこは1919だ」
「えっ」
普段は冷静で、常識的なスバルだが…………意外なことに"数字"に弱く、計算ミスや、単純なド忘れが連発してしまう。
「すぐにリセットして入力しなおせ! その霧は、耐性を無視した強制ダメージだ!!」
「はい! ……しまっ!? 打ち間違えちゃいました!!」
「おい駄メイド! わざと間違えていないか!?」
「ごめんなさい! 今の"は"、違うんです!!」
ゴリゴリと体力が減っていく。魔人は、基本ステータスが高い代わりに、アイテム使用などにペナルティーがあるので割合ダメージはシャレにならない。
「バカ野郎。これは、お仕置きが必要だな」
「そんな! 本当にボクのミスなのに、ご褒美を貰っては罪悪感が」
俺も手を貸し、なんとかトラップを解除するが…………混乱からかスバルの言動が支離滅裂だ。スバルが体育会系なのは知っていたが、ここまで頭が弱いのは知らなかった。
「ガスター戦は俺しか戦えない。これは、日を改める必要が……」
「すいません! 許してください、何でもしますから!!」
魔王化に必要な条件には『ダメージソースが自分一人である』などが挙げられる。厳密に言うと、環境ダメージなどもあるので100%では無いが、それでも"共闘"は即アウト。ガスターはPTで戦う事が前提の設計であり、ヒーラーの活躍の為、回避不可能のスリップダメージ攻撃を持っている。
そうなると、今の体力で挑むのは厳しいものがある。一応、クエストさえクリアしてしまえば、一般フィールドから普通に入れるので、時間をおく手もある。しかしそうなると、目撃者が増えてしまうリスクがある。
この魔王化条件の達成は、その気になれば簡単に妨害可能だ。個人では難しいだろうが、大手ギルドなら人海戦術で七賢者を監視し、俺の挑戦にあわせて共闘ダメージを入れてしまえばいい。今までは、共闘ダメージの条件を悟らせないよう、あえてギャラリーを放置して『ただの腕試し』を装っていたが…………その作戦もリスキーなので、使わずに済むなら使いたくはない。
「こうなったら……」
「??」
「おまえ、
「…………はい!!」
今日一番のイイ返事。多少おかしな部分もあるが、根っこはバリバリの武闘派であり、荒事に血がたぎるタイプなのだ。流石にスバル1人では手が足りないが、ニャン子とSKに入り口を封鎖させ、俺と2人で内部に居合わせたLルートPCを狩れば、不可能ではないはずだ。
休日の攻略が進んだダンジョンではまず不可能だが、そうでないなら充分可能。実際、『資源の独占』目的で大手ギルドが同様の事件を起こす事は度々あるので、ソレを装う。ついでに入手に手間のかかるLルート系のアイテムも補充できるので一石二鳥だ。
『ニャン子! SK!』
『にゃんにゃん』
『アニキ、どうした?』
『砂漠の墳墓を封鎖する。今内部にいるPCは全員キルして、新たに入ってきたPCも皆殺しにする。…………手伝いたいか?』
『もちろん!』
『にしし、派手に暴れるのにゃ』
当然ながらダンジョンの独占は、立派な迷惑行為だ。しかし、迷惑なだけで規約違反ではない。街落しもそうだが、これも運営が容認する『L&Cの楽しみ方』の1つなのだ。
*
『ご主人様、最奥に居たPCは全員キルしました。これから、最奥の入り口で待機します』
『こっちも、1階の閉鎖は順調なのにゃ』
『まったく、これで単位を落としたら、責任取ってくださいね』
ナツキたちも合流して、砂漠の墳墓の閉鎖は無事完了した。その間、PKをしながら俺も回復できたので、ガスターに挑めるだけの体力は確保できた。
『しかし、Lルートの連中も、まさか墳墓にPKが出没するとは思っていなかったのにゃ』
『完全に無警戒でしたね。おまけに、ドロップした装備は価値のあるものばかりでした』
『ハハッ! これは、相当恨まれるな!!』
『うぅ、すいません。ボクのミスで……』
迷惑行為を楽しむ面々。基本的には皆、優良プレイを旨としているが…………これは一種の"お祭り"なのでノーカン。都合のいい理論なのは分かっているが、それもまたゲームの楽しみだ。
「久しぶり。それじゃあ、早速始めようか」
挨拶が返ってくるわけも無いが、それでもガスターに、旧友に再会するような軽い挨拶を送る。
俺の接近に合わせて眷属を召喚して構えるガスター。コイツは、残り体力や受けたダメージの種類に応じて『有利な眷属』を召喚する特性をもっている。つまり物理攻撃主体のPTだと、最初に固い前衛型の眷属を召喚し、さらに体力が減ると魔法攻撃主体の眷属が追加されると言った具合だ。
「逆に言うと、攻撃次第で有利な眷属を出させられる訳だがな」
まずは、遠距離から適当に投擲攻撃と魔法攻撃を連発していく。
これにより、前衛が鈍重な重騎士に設定される。コイツラは、物理と魔法に耐性がある代わりに、機動力と攻撃速度に難がある。
「次は、インファイトで行くぞ!!」
初期召喚の雑多な眷属を一掃し、鈍重な眷属が出そろったところで、それらを無視(倒さず)して肉薄し、近距離格闘戦を挑む。
そうするとAIは、アサシンなどの回避型アタッカーと判断し、追加召喚される眷属が範囲魔法を得意とする魔法使いになる。
「それじゃあ、一気に決めるか!!」
ハイリスクスキルである<ブラッドエッジ>(血刀)を発動させ、一気に勝負を決めにかかる。周囲魔法は、魔法防御を重視した装備で耐え、重騎士の攻撃は、気合で避ける。ついでに、ヤバい攻撃を回避するための足場にも使わせてもらう。
「さぁ、これで……」
重騎士を足場に、高く飛ぶ。両手で発動した血刀に加え、落下による力、さらに回転の力を加える。物理法則がダメージに影響するオープンアクションの特性を利用した大技で、ガスターのラストスキルを発動させる間を与えず、一気に決める!
「終わりだ」
最後、ニャン子やユンユンが喜びそうな技を使ってしまったが…………見られていないので、これもノーカンだ。
こうして俺は、ガスターを無事撃破し…………この騒動で味を占めた仲間たちと、他のダンジョンも占領しつつ七賢者を次々と屠っていった。
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