#434 狂乱の七賢者④
「それで、班分けはどうするのにゃ?」
「ん? 死にたい順でいいぞ」
「ハハッ! 出来れば、死にたくは無いかな?」
やってきたのは砂漠の墳墓。このダンジョンは、クエストエリアと通常エリアの2つに分かれており、クエストをクリアするとその階に対応する通常エリアの入場が可能となり、普通のダンジョンのように自由に探索できる仕組みとなっている。
クエスト内容は、協力プレイをテーマにしており、最初にPTを2分割して謎解きをして…………その後、合流して魔物とのイベント戦闘で実力も試される。それをクリアすると、その階は攻略完了となり、これを3回繰り替えすとボスが出現する最奥のエリアに入れるようになる。因みに、クエスト時はPTごとに生成された複製エリアを攻略するので、他のPTと競合する事は無い。
「クリア経験があるのはアチシと兄ちゃんだけかにゃ?」
「それなら、ニャンコロさんとご主人様をリーダーにするのがよさそうですね」
「「…………」」
突然の沈黙。経験者が2人いるのでクリアは確実だろうが、魔人が2人いるとどうしてもデメリットが無視できない。
「それじゃあ、俺は1人で行くから……」
「ちょっと待つのにゃ」
「アニキ、そういうところだぞ」
「そうですご主人様。これは重大な問題なんです」
「お、おぉ……」
俺的にはサッサと進みたいのだが、やはり人数が増えるとロスが大きくなる。まぁ、タイムアップまで待たなければいけない傭兵を使うよりは遥かに速いのだが。
そんなこんなで話し合いのすえ、やっと班分けが決まったようだ。
「それじゃあ、交代で2・2に分かれるって事でいくのにゃ」
「「は~ぃ」」
*
「そう言えば、兄ちゃんとペアって久しぶりなのにゃ」
「そうだな」
「「…………」」
今さら特に話す事も無く、謎解きを進めていく。基本的な流れは、いわゆる伝言ゲームで、お互いの部屋にあるヒントを仲間に伝え、ギミックを解除していく形になる。また、謎解きの"答え"は複数用意されており、クリア報酬や失敗時のペナルティーが変化する。
NPC相手だと、自分だけある程度進めて放置し『仲間を犠牲にする』形でクリアするので、3体のNPCの犠牲が必要になる訳だ。
『こっちの壁画は、両手に盾を持っています』
『了解。ギミックを起動させ……』
『うわぁ!? めっちゃダメージ喰らった!!』
『あぁもう、ダメって言ったのに、何で触っちゃうんですか!?』
『いや、どうなるか見てみたかったし』
少し驚いたが、向こうは向こうで盛り上がっているようなので…………空気を呼んで放置しておく。こういう時、やりがちな失敗に『ベテランが正解行動を強要してしまう』ってのがある。ノーミスでクリアできるのは確かに良い事だが、そこに本人たちが考える要素が無いと、それはただの"ネタバレ"にすぎない。
「それじゃあ、盾を持たせるのにゃ」
「「…………」」
無言でギミックが作動するのを見守る。俺たちからすると新鮮味のない光景だが、初見プレイの2人にはちょっとした事も感動に繋がる。特に今回は、(急な話だったので)スバルも"予習"無しで挑戦している。初回の謎解きはチュートリアル的な位置付けで、即死は無く、救済も多いので…………最初に今の組み合わせを持ってきたのは『正解だった』と言えよう。
「兄ちゃんって、ホント、兄ちゃんなのにゃ」
「なんだそれ」
「何でも無いのにゃ」
とりあえず、ニャン子も『見守る派』であった事から、最初の組み合わせは滞りなく済んだ。
*
「ハハッ、アニキと2人きりって、久しぶりだな」
「そうか? まぁ、そうか……」
次にペアを組んだのはSK。
SKは、リハビリシステムのモニター参加者なので(俺と同じで)深夜以外はいつでもインできる。だから話をする機会はそれなりに多いが、転生してからギルドホーム以外で2人きりになった事は無かったはずだ。
「そういえば…………アニキって、もう殆ど治っているんだよな?」
「車椅子は欠かせないけど、一応、無理をしなければ問題ないな」
「そうなんだ」
「「…………」」
珍しくリアルの話をふってくるSK。何を隠そう、SKには俺のリアルがバレている。個人情報厳守を旨とする俺だが、それとは別に、どうしても会社員としての務めもある訳で……。
*
「それじゃあ、柏木さん、今日はよろしくお願いします」
「 ……ふ~ん。よろしく」
しょっぱなから訝しげな表情のSK、もとい、柏木素顔さん。
今日は珍しい出張。リハビリシステムのモニター参加者に直接会って、意見収集を兼ねた、実体験を語る催しだ。
「それで、まずは簡単なアンケートから……。 ……」
「……。……」
まぁ今時(AR会談ではなく)直接会ってってのは前時代的な気もするが、やっている事は医療行為でもあるので避けては通れない部分もある。そんな訳で、比較的『良い結果』が出ているモニター参加者に直接会って、その因果関係を調査しているわけだ。
「ところで…………お兄さんの名前、チヒロって言うんだ」
「えっと、そうですね」
「ふ~ん」
どう見ても、俺がセインだと疑っている感じだ。名前に関しては、もう今更ではあるが…………リハビリのデモ映像や、出張に伴う(L&C)の休みでヒントを多く与えてしまった。
事の発端はモニター参加者向けに作られたデモ映像。それはL&Cではないものの、同じオープンアクションのVRゲームで、リアルの映像も交えて運動している姿を見せてしまった。それを見たSKは、仕草からピンと来たようだ。
「それじゃあ、一緒にログインして、体を動かしてみましょうか?」
「それなんだけど、タイトルは何でもイイんですよね?」
「えっと…………用意しているモノの中でなら」
「それじゃあ! アタシと勝負してください!!」
「はい?」
「もし、私が勝ったら…………お兄さんに答えて欲しい質問があります!」
「はぁ……」
直接聞いてこなかったのは偉いが、"正体"について聞いてくる事を悟っていた俺は…………つい、SKを返り討ちにしてしまい、あえなく動きから特定されてしまった。
いや、もちろん肯定はしていないものの、SKの中では完全に確信が持てたらしく、それ以降、俺を完全に"セイン"と見なして接してくるようになった。
*
「アタシも、もうすぐ外出できるようになるからさ! その、オフ会! そう、オフ会しようよ。アイちゃんを、紹介してほしいんだよね」
「いや、アイはそう言うの、絶対に嫌がると思うけど…………そうだな。まぁ、一応、話しておくけど」
事あるごとにアイの話を出すSK。俺も最初は『もしかしてモテ期?』と思ったが、どうやらSKは、アイと仲良くなりたいようだ。
幸いな事に、SKはサバサバ系であり、男友達感覚なのでやり易いが…………対するアイは、異常にSKを警戒するようになり『近づこうとするSK、遠ざけようとするアイ』の変な構図が出来ている。
「頼んだぞ! その、もしアイちゃんがダメなら…………アニキだけでもイイから、さ!!」
「いや、それじゃあ意味ないだろ?」
俺としては、アイに友達ができる事は望ましいので、応援したい気持ちは結構大きい。
その後は、戦闘も特に苦戦することなく2階も突破して…………3階へと足を進める。
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